日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 惑星科学

2018年5月20日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:岡本 尚也(国立研究開発法人宇宙航空開発機構 宇宙科学研究所)、黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)

[PPS08-P07] マイクロクレーター形状の衝突速度依存性

*岩佐 海詩1中村 昭子1 (1.国立大学法人 神戸大学)

キーワード:クレーター、iSALE、衝突、サンプルリターン

はじめに:

探査機はやぶさのターゲット天体であった小惑星イトカワの微粒子や月の岩石には、惑星間塵の衝突により形成されたと考えられるマイクロクレーター(マイクロメートルサイズのクレーター)が存在する(Horz et al.,1975, Nakamura et al., 2012)。鉄・アルミニウム・ポリスチレンの粒子を用いてガラスターゲットに対して行われたマイクロクレーター形成実験では、クレーターのスポール深さ直径比が衝突速度に依存することが示されている(Vedder and Mandeville, 1974)。しかし、岩石に対して二段式軽ガス銃により行われたクレータリング実験では、クレーターの深さ直径比の衝突速度依存性は明らかでない(Nakamura, 2017)。月岩石サンプルのマイクロクレーターでは、ピットの深さ直径比は0.6のものが最も多く(Brownlee et al., 1973)、ガラスに対するマイクロクレーターの深さ直径比と衝突速度の関係から、塵の平均衝突速度を20 km/sと仮定すると、地球軌道付近の塵は密度2~4 g/cm^3であると推定される(Horz et al., 1975)。ところが、近年の黄道光の反射スペクトルの観測からは、地球軌道付近の塵の>90%が、密度<1g/cm^3の彗星起源のものであると推定された(Yang and Ishiguro, 2015)。Horz et al.(1975)では、角礫岩などにくらべ表面がなめらかで観察の条件が優れていることからガラス表面に形成されるマイクロクレーターについての議論がなされていたが、岩石に対してのマイクロクレーター形成でも深さ直径比の衝突速度依存性がみられるかは明らかでない。そこで本研究では、岩石に対してのマイクロクレーター形成では、 衝突速度によって深さ直径比はどのように変化するのかを調べるため、状態方程式や強度モデルが含まれる、天体の衝突現象を扱うことができるシミュレーションコードのiSALEを用いてマイクロクレーターの形成シミュレーションを行った。その際、岩石サンプルの体積が小さいほど強度は大きくなる(Housen and Holsapple, 1999)ことをもとにターゲットの固着力をマイクロクレーター形成に関わる体積相当に設定した。また、その結果と過去の論文における実験結果やデータとの比較を試みた。

研究方法:

プロジェクタイルを球形アルミニウム、ターゲットを花こう岩として、異なる衝突速度ごとにクレーターの形成をシミュレーションして描画を行う。衝突速度は2~7 km/sの範囲で1 km/s刻みで変更し、その図をImage Jを用いて解析し、深さ直径比を求める。マイクロクレーターが形成される場合にターゲットの強度が大きくなるのは、サイズ効果とひずみ速度効果という2つの効果が考えられるが、本研究では、サイズ効果に着目する。ターゲットの引張強度Yは、サンプル体積Vに対し、Y∝V^(-0.0834)の関係がある(Housen and Holsapple, 1999)ことから10~100 MPaの間で変化させ、それ以外の物性値は全て同じ値とした。直径数十um程度のクレーターができるターゲット体積を想定した強度は50 MPa、Vedder and Mandeville (1974)が実験で行ったような数µmのマイクロクレーター形成を模擬する場合の強度は80 MPaである。なお、花こう岩の状態方程式にはANEOS (Thompson and Lauson ,1972, Melosh, 2007)を用いている。

結果:

固着力50 MPaでは深さ直径比が衝突速度に依存する結果となった。固着力80 MPaでも深さ直径比が衝突速度に依存する結果となったが、傾きは50 MPaの場合よりも小さくなった。このことは、ターゲットが岩石であっても、マイクロメートル程度のスケールでクレーターが形成されるということが原因で、深さ直径比が衝突速度に依存するのだということを示唆しているが、衝突速度に対する深さ直径比の絶対値や傾きは、Vedder and Mandeville (1974)の結果とは異なっていた。これは、ターゲット物質の違いや、使用したモデルが原因であると考えられる。今後はターゲット物質をガラスとした場合のシミュレーションも行う予定である。

謝辞:

iSALE の開発者である G. Collins, K. Wunnemann, J. Melosh, B. Ivanov, D. Elbeshausen 、またiSALEの使い方に関する講習や支援を行ってくださった国立天文台の脇田 茂 様、千葉工業大学の黒澤 耕介 様、産業医科大学の末次 竜 様、JAXAの鈴木絢子 様に感謝いたします。