日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2018年5月20日(日) 09:00 〜 10:30 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学理学部地球科学専攻、共同)、田阪 美樹(島根大学)、座長:田阪 美樹(島根大学 )、石橋 秀巳(静岡大学)

09:30 〜 09:45

[SCG63-03] マスターカーブ法によるかんらん石の粘弾性解析

*八代 正和1武藤 潤1長濱 裕幸1 (1.東北大学)

キーワード:レオロジー

1. 緒言

岩石の粘弾性挙動は,遷移状態と定常状態で構成される.岩石の遷移粘弾性挙動の解析はバーガースモデルを用いて行われ(e.g. Chopra, 1997),定常状態がべき乗流動則を用いて行われてきた.例えば,東北地方太平洋沖地震後の余効変動では上部マントルの遷移粘弾性緩和をバーガースモデル(Muto et al., 2016)で再現された.しかし,重要な遷移状態に注目した実験と解析はほとんどない.嶋本(1987)では,Heard(1972)による岩塩の変形実験データを,弾性状態を含み遷移状態から定常状態までを統一的に記述できるマスターカーブ法により解析した.

これまで粘弾性挙動の解析では,粘弾性挙動全体を統一的に解析した例はほぼない.そこで本研究では,余効変動で重要なかんらん岩の高温高圧下での変形実験結果をマスターカーブ法で解析し,かんらん石の遷移状態を含む構成則を確立することを目的とする.



2. 方法

これまで報告されているガス圧試験機を使用したかんらん岩の変形実験結果(Karato et al., 1985; Demouchy et al., 2009, 2013; Chopra and Paterson, 1981, 1984)をマスターカーブ法で解析した.応力-歪データはシーカント弾性率と変形時間で整理した.シーカント弾性率は,ある歪量における応力値を歪量で除した値である.変形時間は,歪量を歪速度で除した値である.解析したデータは様々な温度・歪条件が混ざっているため,ある温度と歪で規格化を行った.特に温度の違いを規格化した経過時間を温度換算時間と呼ぶ.解析では以下の2点を調べた.1) マスターカーブ法による力学的挙動の違いをKarato et al. (1986) によるdryなかんらん石とwetなかんらん石の変形試験データで確認した.2) 多くの温度データを持つかんらん石単結晶とダナイトの変形実験結果の解析を行い,モデル化を行った.



3. 結果

解析した試料は,Karato et al. (1986) がSan Carlos産のかんらん石単結晶を用いた合成多結晶体岩,Chopra and Paterson (1981, 1984) がAnita BayとAheim産のダナイト,Demouchy et al. (2009, 2013) がSan Carlos産のかんらん石単結晶である.各試料においてdryとwetの区別をした.合成多結晶体岩では同じ温度条件でのwetとdryのかんらん石のマスターカーブを作成した.かんらん石単結晶でも,ダナイトでもマスターカーブは2本の異なる傾きの直線で近似できた.



4. 議論とまとめ

Karato et al. (1986) で行ったdryとwetのかんらん石の力学的挙動は,マスターカーブ法からwetの方が同じ経過時間でも低いシーカント弾性率であることが分かった.これは一般に,鉱物中の岩水量が増えると強度が下がることと一致する.

次に,かんらん石単結晶の解析結果は,温度換算時間を境に,マスターカーブの傾きが2つに分かれており,変形機構が変化したと考えられる.温度換算時間が小さいとき,ニュートン流体に近似できる一方で,大きいときはべき乗流動則に従う.温度換算時間は,小さいほど低温・高歪速度域を表す(Kawada and Nagahama, 2004).よって,低温域では,かんらん石単結晶の変形挙動はニュートン流体に近似でき,高温域では,かんらん石単結晶はべき乗流動則に従う.ニュートン流体は,マクスウェルモデルでモデル化ができ,べき乗則で近似できるマスターカーブは,マクスウェルモデルを並列に有限に並べた一般化マクスウェルモデルで近似できる(Kawada et al., 2006).以上からかんらん石単結晶の粘弾性挙動は一般化マクスウェルモデルでモデル化できた.ダナイトのデータを用いた解析でも,マスターカーブの傾きは2つに分かれた.温度換算時間が小さいとき,べき乗流動則に従い,温度換算時間が大きいとき,ニュートン流体に近似できる.これは,かんらん石単結晶の傾向とは逆であった.これらから,かんらん岩は2つの変形機構を持つことが分かったが,かんらん石単結晶とダナイトで変形機構が逆となっていた.これは規準温度が2つの試料で異なっていたためだと考えられる.かんらん石単結晶では,規準温度を1073Kに設定し,ダナイトでは規準温度をAnita bay産で1273K,Aheim産で1373Kに設定した.解析結果からかんらん岩は温度によって遷移状態と定常状態の変形機構が変化したと考えられる.

本研究では,マスターカーブ法を用いてかんらん石の過去に行われたかんらん石の変形試験結果を解析した.その結果,かんらん石単結晶とダナイトで遷移状態と定常状態の変形機構が異なることが示唆された.