11:00 〜 11:15
[SCG63-08] 研磨による剪断が石墨の結晶化度に与える影響
キーワード:石墨、剪断、研磨、ラマン分光分析、共焦点レーザー顕微鏡、FIB-TEM
炭素は地球表層から内部まで広範囲にわたって様々な形として分布しており、地球科学において重要な元素である。岩石中に存在する炭素の形のひとつとして炭質物が挙げられ、堆積岩及び堆積岩を起源とする変成岩に普遍的に含まれている。また、隕石や断層岩中にも炭質物が含まれている場合があり、それらの炭質物を用いて、起源の推定や断層運動時のパラメーター導出などに用いられている。
Beyssac et al. (2002)によって広域変成岩に適用可能な炭質物ラマン温度計が開発されて以降、炭質物の地球科学における重要性はますます高まっている。近年の研究では、炭質物ラマン温度計は変成岩のみならず続成作用を被った堆積岩への応用も可能になった。また、隕石や断層岩への拡張も活発に行われている。Beyssac et al. (2003)は、研磨によって薄片の表面に露出した炭質物は結晶化度が下がることを指摘しており、試料表面に出た炭質物は温度見積もりに適さないことを指摘している。しかし、試料によっては粗粒であるため薄片内で埋没した炭質物が見つけられなかったり、そもそも酸分解によって抽出した炭質物や鏡肌のように表面に出ている炭質物を測定している例もある。
表面に出ている炭質物の結晶化度は、研磨によってどのくらい損傷を受けているかは明確でない。本研究では、共焦点レーザー顕微鏡分析によって薄片の表面に露出した炭質物の表面形状評価を行い、さらにFIB-TEM分析によって、研磨の影響がどの程度の深さまで及んでいるのかを評価した。これらのデータから、試料表面に出ている炭質物に炭質物ラマン温度計を適用して温度見積もりを行った場合の問題点を指摘し、さらに研磨と同じような剪断運動である地震すべり時の炭質物への影響についても考察する。
試料はミャンマーMogok metamorphic beltで採取されたGarnet-biotite-sillmanite gneiss中に含まれる炭質物を分析した。鉱物の化学組成を用いた熱力学的計算により、分析試料の最高到達温度は800℃程度であると見積もられている (Maw Maw Win et al., 2016)。試料中に含まれる炭質物は粗粒(0.1mm以上)で、薄片の表面に露出しているものとそうでないもののいずれも観察可能で、薄片作成時の研磨の影響を評価するのに適している。薄片作成時は、0.5µmのダイヤモンドペーストを用いた最終研磨まで行った。ラマン分光分析の結果、透明な鉱物の下に埋没している炭質物はG-bandのみでwell-ordered graphiteであるのに対し、表面に露出している炭質物は、D1-bandが顕著にみられ、研磨による結晶構造の乱れが確認された。また、作成した薄片中の炭質物を反射顕微鏡観察により、表面に露出している炭質物粒子中に、明色部と暗色部が混在している様子が認められた。そして,暗色部のラマンスペクトルは明色部のラマンスペクトルよりも強いD1-bandが観察された。これは、暗色部の方が明色部にくらべてよりgraphiteの結晶構造が乱されていることを示唆している。
共焦点レーザー顕微鏡による表面形状分析の結果、反射顕微鏡で明るく見えた明色部は、形状として凹んでいることが確認された。凹んだ形状は、研磨前の試料特有の性質なのか、研磨の影響によるものなのかは定かではないが、凹んでいるため研磨の影響が少ないことが示唆された。そして、明色部は研磨の影響が少なく凸凹しているため、反射顕微鏡で観察した際に乱反射によって明るく見えた可能性が考えられる。
FIB-TEM分析の結果、試料表面に出ている炭質物には、表面から深さ数µmの範囲で、研磨時にできたと考えられる割れ目が多数観察された。そのような割れ目は、ホスト鉱物に埋没して研磨の影響を受けていない炭質物では観察されなかった。さらに、反射顕微鏡で観察した際に見られた明色部と暗色部は、結晶の方位が異なっていることが明らかになった。暗色部領域は、結晶方位が一部研磨によって曲がっているが、全体として同じ方位を示すのに対し、明色部に相当する領域は、ランダムな結晶方位を示し、割れ目が多数発達していた。そしてそのような領域は、数µm程度深部まで到達しているが、それより下は割れ目が見られず、顕著な結晶方位の変化も見られなかった。このような明色部に相当する領域の結晶方位の特徴は、研磨時の機械的な変形によって形成された可能性が考えられる。また、変形時に段差が形成され、結果として凹んだ明色部と平らな暗色部ができたのかもしれない。
上記の結果から、薄片作成時に表面に露出した炭質物は、研磨による機械的変形の影響を受けており、炭質物ラマン温度計を用いて形成時の温度を見積もるためには不適当であると考えられる。また、断層岩中の炭質物も、研磨と同様な断層運動時の剪断を受けており、ラマン分光分析の際は、断層運動による機械的変形の効果を考慮する必要がある。
Beyssac et al. (2002)によって広域変成岩に適用可能な炭質物ラマン温度計が開発されて以降、炭質物の地球科学における重要性はますます高まっている。近年の研究では、炭質物ラマン温度計は変成岩のみならず続成作用を被った堆積岩への応用も可能になった。また、隕石や断層岩への拡張も活発に行われている。Beyssac et al. (2003)は、研磨によって薄片の表面に露出した炭質物は結晶化度が下がることを指摘しており、試料表面に出た炭質物は温度見積もりに適さないことを指摘している。しかし、試料によっては粗粒であるため薄片内で埋没した炭質物が見つけられなかったり、そもそも酸分解によって抽出した炭質物や鏡肌のように表面に出ている炭質物を測定している例もある。
表面に出ている炭質物の結晶化度は、研磨によってどのくらい損傷を受けているかは明確でない。本研究では、共焦点レーザー顕微鏡分析によって薄片の表面に露出した炭質物の表面形状評価を行い、さらにFIB-TEM分析によって、研磨の影響がどの程度の深さまで及んでいるのかを評価した。これらのデータから、試料表面に出ている炭質物に炭質物ラマン温度計を適用して温度見積もりを行った場合の問題点を指摘し、さらに研磨と同じような剪断運動である地震すべり時の炭質物への影響についても考察する。
試料はミャンマーMogok metamorphic beltで採取されたGarnet-biotite-sillmanite gneiss中に含まれる炭質物を分析した。鉱物の化学組成を用いた熱力学的計算により、分析試料の最高到達温度は800℃程度であると見積もられている (Maw Maw Win et al., 2016)。試料中に含まれる炭質物は粗粒(0.1mm以上)で、薄片の表面に露出しているものとそうでないもののいずれも観察可能で、薄片作成時の研磨の影響を評価するのに適している。薄片作成時は、0.5µmのダイヤモンドペーストを用いた最終研磨まで行った。ラマン分光分析の結果、透明な鉱物の下に埋没している炭質物はG-bandのみでwell-ordered graphiteであるのに対し、表面に露出している炭質物は、D1-bandが顕著にみられ、研磨による結晶構造の乱れが確認された。また、作成した薄片中の炭質物を反射顕微鏡観察により、表面に露出している炭質物粒子中に、明色部と暗色部が混在している様子が認められた。そして,暗色部のラマンスペクトルは明色部のラマンスペクトルよりも強いD1-bandが観察された。これは、暗色部の方が明色部にくらべてよりgraphiteの結晶構造が乱されていることを示唆している。
共焦点レーザー顕微鏡による表面形状分析の結果、反射顕微鏡で明るく見えた明色部は、形状として凹んでいることが確認された。凹んだ形状は、研磨前の試料特有の性質なのか、研磨の影響によるものなのかは定かではないが、凹んでいるため研磨の影響が少ないことが示唆された。そして、明色部は研磨の影響が少なく凸凹しているため、反射顕微鏡で観察した際に乱反射によって明るく見えた可能性が考えられる。
FIB-TEM分析の結果、試料表面に出ている炭質物には、表面から深さ数µmの範囲で、研磨時にできたと考えられる割れ目が多数観察された。そのような割れ目は、ホスト鉱物に埋没して研磨の影響を受けていない炭質物では観察されなかった。さらに、反射顕微鏡で観察した際に見られた明色部と暗色部は、結晶の方位が異なっていることが明らかになった。暗色部領域は、結晶方位が一部研磨によって曲がっているが、全体として同じ方位を示すのに対し、明色部に相当する領域は、ランダムな結晶方位を示し、割れ目が多数発達していた。そしてそのような領域は、数µm程度深部まで到達しているが、それより下は割れ目が見られず、顕著な結晶方位の変化も見られなかった。このような明色部に相当する領域の結晶方位の特徴は、研磨時の機械的な変形によって形成された可能性が考えられる。また、変形時に段差が形成され、結果として凹んだ明色部と平らな暗色部ができたのかもしれない。
上記の結果から、薄片作成時に表面に露出した炭質物は、研磨による機械的変形の影響を受けており、炭質物ラマン温度計を用いて形成時の温度を見積もるためには不適当であると考えられる。また、断層岩中の炭質物も、研磨と同様な断層運動時の剪断を受けており、ラマン分光分析の際は、断層運動による機械的変形の効果を考慮する必要がある。