14:45 〜 15:00
[SCG67-05] GNSSブイを用いた総合防災ブイアレイ構想の現状と将来への展望
★招待講演
キーワード:GNSS ブイ、ブイアレイ、海底地殻変動観測
我々は20年以上,GNSSブイを開発してきた.本講演では最近のGNSSブイ開発の現状と将来の可能性,また見えてきた課題などについて報告する.当初はRTK-GPSを用いたいわゆるGPS津波計として開発してきた.このシステムで数cm程度の波高の津波を観測することに成功して実績をあげ,波浪観測のための観測網であるNOWPHASに組み込まれる形で実用化することができた.また,気象庁の津波観測の一部としても採用された.2011年東北地方太平洋沖地震による津波も沿岸到達前に捉えられ,津波警報の更新に生かされたが,リードタイムが短かったため効果は十分ではなく,結果として多くの人命が津波によって失われた.このことから,津波をより早く検知するために,いくつかの改善を行っている.当初のシステムでは基線を用いた相対測位を実施するため,沿岸からの距離が約20km未満と短かった.そこで,相対測位によらない精密単独測位方式を導入することとした.また,データの送信を,従来の地上波を用いた無線から,衛星通信に切り替えることとした.現在このシステムでの稼働実験を行っている.このシステムが順調に稼働することとなれば,GNSSブイの応用範囲は格段に広くなる.まずは,現在船舶を用いて実施しているGNSS-音響方式による海底測位を,ブイによって置き換えることにより,より高頻度の観測が可能となる.これによって海底地殻変動をこれまでになく詳細にとらえられることとなり,例えば海溝付近で短期的スローイベントが発生するようなことがあれば,そのような現象も捉えられると期待される.GNSS観測を陸から遠い海洋で実施することにより,気象や電離層の研究に新たなデータが提供されると共に各種防災のための応用が可能となる.このようなGNSSブイを例えば日本の排他的経済水域のような領域にアレイとして実装することにより,総合的な防災ブイアレイとして機能することになろう.また,その他の各種センサーを搭載することで海洋学等にも寄与することができると考えられる.なお,まだこの計画は構想段階であり,さまざまな技術的課題や運用上の問題を解決する必要があることも付け加えておく必要がある.技術的課題としては,まずは安定したリアルタイム高速多チャンネルの衛星通信が必要であり,できれば専用の通信衛星が必要である.また,「みちびき」を利用した衛星の精密暦配信を利用した精密単独測位の精度評価,深海に設置するブイ缶体の耐久性,電源確保の問題など,多くの課題がある.また,このような大規模な海洋アレイをどの機関がどのような体制で運用し,また必要な資金を確保していくかなどについても多面的に検討していかなくてはならない.こうした問題を少しずつクリアしていくことにより,いつの日か日本周辺海域にGNSSブイアレイが構築される日が来ることを期待したい.