13:45 〜 14:00
[SEM17-12] 磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1が獲得する残留磁化の性質
海底堆積物には,自然残留磁化(NRM)として,過去の地磁気変動がほぼ連続的に記録されている.そのNRMの記録媒体である磁性鉱物は陸起源だけでなく,磁性細菌にも起源をもつことが分かってきている.NRMの20-30%が磁性細菌起源のマグネタイトに担われているとの報告もあり(Yamazaki, 2012; Yamazaki and Ikehara, 2012),近年,その量的な重要性が指摘され始めている.しかし,磁性細菌起源のマグネタイトがNRMを獲得する過程や獲得されるNRMが示す性質については未解明の部分が多い.本研究では,微好気性磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1を大量培養し,細胞内に形成したマグネタイトが堆積物の形成直後のごく初期においてNRMを獲得するプロセスの模擬実験を行なって磁気測定用試料を作製し,各種残留磁化の性質について検討を行なった.
分譲を受けたMagnetospirillum magnetotacticum MS-1を大量培養し,密度勾配遠心分離法(密度分離)によって固定済みの磁性細菌を回収した.これらを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ,長さ3-8 µm×幅0.3-0.5 µmの細胞が多数観察できた.細胞外には一切の磁性鉱物(培地由来など)は確認されず,細胞内に粒径40-50 nmの自形のマグネタイト粒子を直鎖状に20-90個形成している個体が確認できた.堆積物の形成直後のごく初期においてNRMを獲得するプロセスを再現するため,一定の細胞数となるように融解状態の低融点アガロースに懸濁して小プラスチック容器に満たし(1試料2.835×109 cell/7 cc),地球磁場程度の磁場中に容器を30分程度静置してアガロースを固結させることで,磁気測定用試料を作製した.作製にあたっては,試料ごとに異なる強度の外部磁場(0-100 µT)を作用させた.このようにして獲得させたNRMに対して段階交流消磁を行い,さらにそれぞれ一定の磁場下で,非履歴性残留磁化(ARM)と等温残留磁化(IRM)の着磁と段階交流消磁も行うことで,これらの残留磁化の性質を調べた.
NRM方位は試料作製時の磁場方位と同じであった.NRM強度は0.286-8.17×10–8 Am2であり,試料作製時の磁場強度との間には,0-30 µTと30-100 µTの範囲で独立した2つの直線関係が見られ,これらの関係は2次回帰曲線で説明することも可能であった.ARM強度は0.972-1.46×10–8 Am2,IRM強度は0.819-1.11×10–7 Am2であり,両者ともに試料作製時の外部磁場強度との間に2次関数的な関係があるが,獲得された磁化強度の差はNRMに比べて非常に小さい.一般に古地磁気強度相対値(RPI)は,NRM/ARM比およびNRM/IRM比と外部磁場強度との間に直線的な比例関係があることを前提に推定するが,本研究の結果は30 µTを境に比例関係が変化することを示唆する.Paterson et al. (2013) は培養した磁性細菌AMB-1を用いて実験を行ない,これらの磁化と外部磁場強度との間には全ての磁場範囲(0-120 µT)にわたり直線的な比例関係があることを報告しており,本研究の結果とは明らかに異なる.今後,実験条件や種の違いについて慎重に検討する必要があるが,磁性細菌起源のマグネタイトを多量に含む堆積物から推定されるRPI記録の信頼性について,再検討が必要となる可能性がある.
分譲を受けたMagnetospirillum magnetotacticum MS-1を大量培養し,密度勾配遠心分離法(密度分離)によって固定済みの磁性細菌を回収した.これらを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ,長さ3-8 µm×幅0.3-0.5 µmの細胞が多数観察できた.細胞外には一切の磁性鉱物(培地由来など)は確認されず,細胞内に粒径40-50 nmの自形のマグネタイト粒子を直鎖状に20-90個形成している個体が確認できた.堆積物の形成直後のごく初期においてNRMを獲得するプロセスを再現するため,一定の細胞数となるように融解状態の低融点アガロースに懸濁して小プラスチック容器に満たし(1試料2.835×109 cell/7 cc),地球磁場程度の磁場中に容器を30分程度静置してアガロースを固結させることで,磁気測定用試料を作製した.作製にあたっては,試料ごとに異なる強度の外部磁場(0-100 µT)を作用させた.このようにして獲得させたNRMに対して段階交流消磁を行い,さらにそれぞれ一定の磁場下で,非履歴性残留磁化(ARM)と等温残留磁化(IRM)の着磁と段階交流消磁も行うことで,これらの残留磁化の性質を調べた.
NRM方位は試料作製時の磁場方位と同じであった.NRM強度は0.286-8.17×10–8 Am2であり,試料作製時の磁場強度との間には,0-30 µTと30-100 µTの範囲で独立した2つの直線関係が見られ,これらの関係は2次回帰曲線で説明することも可能であった.ARM強度は0.972-1.46×10–8 Am2,IRM強度は0.819-1.11×10–7 Am2であり,両者ともに試料作製時の外部磁場強度との間に2次関数的な関係があるが,獲得された磁化強度の差はNRMに比べて非常に小さい.一般に古地磁気強度相対値(RPI)は,NRM/ARM比およびNRM/IRM比と外部磁場強度との間に直線的な比例関係があることを前提に推定するが,本研究の結果は30 µTを境に比例関係が変化することを示唆する.Paterson et al. (2013) は培養した磁性細菌AMB-1を用いて実験を行ない,これらの磁化と外部磁場強度との間には全ての磁場範囲(0-120 µT)にわたり直線的な比例関係があることを報告しており,本研究の結果とは明らかに異なる.今後,実験条件や種の違いについて慎重に検討する必要があるが,磁性細菌起源のマグネタイトを多量に含む堆積物から推定されるRPI記録の信頼性について,再検討が必要となる可能性がある.