日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM17] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:望月 伸竜(熊本大学大学院先導機構)、清水 久芳(東京大学地震研究所)

[SEM17-P06] 丹沢および入遠野花崗岩体の深成岩中斜長石単結晶を用いた古地磁気測定のための鉱物記載

*田村 裕二郎1山本 伸次1佐藤 雅彦2加藤 千恵3金丸 龍夫4綱川 秀夫3 (1.横浜国立大学環境情報学府自然環境専攻、2.東京大学地球惑星科学専攻、3.東京工業大学地球惑星科学科専攻、4.日本大学文理学部地球科学科)

キーワード:斜長石、Single Crystal Paleointensity、磁鉄鉱離溶相、花崗岩

斜長石単結晶には単磁区~疑似単磁区の磁鉄鉱離溶相が存在することから、近年、古地磁気測定に利用されている(Taruduno et al., 2006; Usui et al., 2015など)。しかし,この斜長石中の磁鉄鉱離溶相はすべての斜長石中には存在しておらず,また斜長石中でもその存在は一様ではない。予察的な顕微鏡観察では,先行研究(Wakabayashi et al., 2006)で斜長石が自然残留磁化のキャリアーであることが判明している阿武隈の入遠野花崗岩中の斜長石中には磁鉄鉱離溶相が存在するのに対し、丹沢花崗岩中の斜長石には離溶相がほとんど存在していない様子が見てとれる。一般に,鉱物中での離溶相の形成は温度低下による最大固溶量の低下や酸素分圧の変化により形成され,全岩組成および斜長石中の鉄濃度によっても磁鉄鉱離溶相の形成は制限されると考えられる。そこで本研究は,阿武隈花崗岩と丹沢花崗岩を例に、斜長石中の磁鉄鉱離溶相の観察と斜長石の組成分析をおこない,斜長石中の磁鉄鉱離溶相の形成要因について検討をおこなった。
 阿武隈花崗岩の試料は,Wakabayashi et al., (2006)でもちいられたコア試料2つおよび,今回新たに採取した花崗岩試料およびはんれい岩脈試料1つを用いた。丹沢花崗岩は、高橋&金丸(2004)によって全岩組成が分析された畦ヶ丸岩体のものから,全岩組成が入遠野花崗岩に近いもの1つを選定した。それぞれの岩石試料において,ミクロン~サブミクロンスケールの磁鉄鉱離溶相を観察するため両面鏡面研磨の岩石薄片を作成したのち、偏光顕微鏡下観察・モード比測定および電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)での斜長石の組成決定をおこなった。
 斜長石中の磁鉄鉱離溶相はすべての薄片下で観察されたが,存在様式や量、また大きさにも違いが見られ、さらに、一部斜長石では磁鉄鉱離溶相の出現は斜長石の組成累帯構造と調和的であった。EPMAによる斜長石単結晶24個,合計337点の分析をおこなった結果、単結晶ごとの平均アノーサイト量と鉄濃度の関係では,アノーサイト成分に富むにつれ鉄含有量が多くなる傾向が見られ、平均して0.09~0.76wt%程度の鉄を含んでいた。偏光顕微鏡観察での磁鉄鉱離溶相の有無と斜長石の組成に関しては,特に相関が見られなかった。
 今回の試料の斜長石中には少なくともある一定量の鉄が含まれており、磁鉄鉱離溶相が多く存在する領域,存在しない領域と,斜長石の組成とは関連は薄い。さらに,斜長石中の鉄濃度の高い丹沢花崗岩や阿武隈はんれい岩に磁鉄鉱離溶相が見られず,鉄濃度の低い阿武隈花崗岩中に磁鉄鉱離溶相が見られることから,斜長石中の鉄含有量によって磁鉄鉱離溶相の出現は規制されないと考えられる。また,顕微鏡で累帯構造に調和的に磁鉄鉱離溶相の有無が認められることから,斜長石が結晶成長する過程における周囲のマグマ環境の違いによって制限されていることが示唆される。磁鉄鉱の化学式はFe3O4であり、離溶相として形成されるためには鉄の2価と3価が必要とされる。つまり、丹沢花崗岩は、阿武隈花崗岩に比べて全斜長石中においてのFe量が多いにも関わらず、磁鉄鉱離溶相が存在しない理由として、斜長石中の2価鉄あるいは3価鉄の枯渇、すなわち斜長石中の鉄3価/2価比が関わっていると推定される。

引用文献
Tarduno JA, Cottrell RD, Smirnov AV (2006) The paleomagnetism of single silicate crystals: recording geomagnetic field strength during mixed polarity intervals, superchrons, and inner core growth. Rev Geophys 44:RG1002
Tsunakawa H, Wakabayashi K, Mochizuki N, Yamamoto Y, Ishihara K, Hirata T, Takahashi F, Kazuhiro S (2009) Paleointensity study of the middle Cretaceous Iritono granite in northeast Japan: Implication for high field intensity of the Cretaceous normal superchron Physics of the Earth and Planetary Interiors 176 235–242.
Usui, Y., T. Shibuya, Y. Sawaki, and T. Komiya (2015) Rock magnetism of tiny exsolved magnetite in plagioclase from a Paleoarchean granitoid in the Pilbara craton, Geochem. Geophys. Geosyst. 16, 112–125.