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[SGC46-06] 枯渇した海底下マントルの分化年代が示すマントル対流の活性期
キーワード:Re-Os同位体、枯渇したMORBマントル、インド洋MORBマントル、伊豆―小笠原―マリアナ前弧、オマーンオフィオライト、無人岩
地球の全マントルの50–70 wt%を占める枯渇したマントルは大陸地殻を形成した融け残り岩とされている[1]。これらの枯渇したマントルは,クラトン下のリソスフェアや海底下の対流するアセノスフェアを構成するが,それらがいつ地球創生期の始原的マントル(PUM)から分化し,どのようなプロセスで形成されたかを明らかにすることはマントルの物質的進化を理解する上で重要である。
カンラン岩の溶融時にOsの親核種であるReがメルトとともに完全に融け残り岩から失われると,融け残り岩のOs同位体比はそれ以降変化しない。この仮定のもとに始源的マントル(PUM)から融け残りカンラン岩を生成したRe枯渇年代が決められる。クラトン下のリソスフェアの多くはOs同位体比(187Os/188Os)が0.11以下と低く,始生代末~原生代初めのRe枯渇年代を示すことから,その頃にPUMが大規模に融解し,対流するマントルから切り離された融け残り岩と考えられる[2, 3]。一方,中央海嶺玄武岩(MORB)のソースとなる対流するマントル(DMM)は,Os同位体比が0.116–0.135と幅広く,多くは10億年前より若いRe枯渇年代を示すことから,原生代以降の様々な時期に対流による溶融と混合・攪拌を通じて形成されたと考えられてきた。しかし,高枯渇ハルツバージャイトを主体とするクラトン下リソスフェアとは異なり,DMMの多くはPUMからメルトを3–4 wt%取り去った程度の低枯渇度で,溶融後も相当量のReが残存していたはずである。すなわちDMMは従来考えられた以上に古い時代に分化した可能性がある。
そこでRe-Osアイソクロンが適用困難な融け残りカンラン岩について,Re/Os比の初期値をメルト組成から独立に推定する方法を提案する [4]。PUMからの分化時に融け残りカンラン岩と平衡であったメルトのREE組成についてモデル計算をし,融け残り岩のYb濃度を推定することによってPUMの部分溶融度,すなわち融け残り岩のRe/Os比の初期値を決めることができる。このRe/Os比と Os同位体比をもとにOs同位体進化曲線を計算すれば,分化年代が得られる。最近,著者らは伊豆―小笠原―マリアナ(IBM)前弧域の無人岩マグマ由来のCrスピネルとメルト包有物の解析から,初生無人岩マグマのソースマントルが2種類あり,それぞれ37–32億年前と17–15億年前にPUMから分化した融け残り岩であることを明らかにした[4]。同様に,Os同位体比0.125を有する平均的なDMMは26–22億年前にPUMから分化したことがわかった。これらの3つの年代は丸山[2002]が示した大陸形成が最も活発であった時期と合致する(図1)。また,平均的なDMM分化が起きた26–22億年前はクラトン下リソスフェアのRe枯渇年代と一致する。このことから,大規模な大陸形成をもたらしたマントル対流の活動期パルスが幅広いOs同位体比を示すDMMの生成にも関与したと考えられる。
[1] Zindler, A., and Hart, S., 1986. Ann. Rev. Earth Planet. Sci.,14, 493 - 571
[2] 仙田量子ほか,2012. 岩石鉱物科学,41, 211 – 221
[3] Walker, R. J., 2016. Geochemical Perspectives, 5
[4] Umino, S. et al., 2018. Island Arc, doi: 10.1111/iar.12221
[5] 丸山, 2002.プルームテクトニクスと全地球史解読, 岩波書店
カンラン岩の溶融時にOsの親核種であるReがメルトとともに完全に融け残り岩から失われると,融け残り岩のOs同位体比はそれ以降変化しない。この仮定のもとに始源的マントル(PUM)から融け残りカンラン岩を生成したRe枯渇年代が決められる。クラトン下のリソスフェアの多くはOs同位体比(187Os/188Os)が0.11以下と低く,始生代末~原生代初めのRe枯渇年代を示すことから,その頃にPUMが大規模に融解し,対流するマントルから切り離された融け残り岩と考えられる[2, 3]。一方,中央海嶺玄武岩(MORB)のソースとなる対流するマントル(DMM)は,Os同位体比が0.116–0.135と幅広く,多くは10億年前より若いRe枯渇年代を示すことから,原生代以降の様々な時期に対流による溶融と混合・攪拌を通じて形成されたと考えられてきた。しかし,高枯渇ハルツバージャイトを主体とするクラトン下リソスフェアとは異なり,DMMの多くはPUMからメルトを3–4 wt%取り去った程度の低枯渇度で,溶融後も相当量のReが残存していたはずである。すなわちDMMは従来考えられた以上に古い時代に分化した可能性がある。
そこでRe-Osアイソクロンが適用困難な融け残りカンラン岩について,Re/Os比の初期値をメルト組成から独立に推定する方法を提案する [4]。PUMからの分化時に融け残りカンラン岩と平衡であったメルトのREE組成についてモデル計算をし,融け残り岩のYb濃度を推定することによってPUMの部分溶融度,すなわち融け残り岩のRe/Os比の初期値を決めることができる。このRe/Os比と Os同位体比をもとにOs同位体進化曲線を計算すれば,分化年代が得られる。最近,著者らは伊豆―小笠原―マリアナ(IBM)前弧域の無人岩マグマ由来のCrスピネルとメルト包有物の解析から,初生無人岩マグマのソースマントルが2種類あり,それぞれ37–32億年前と17–15億年前にPUMから分化した融け残り岩であることを明らかにした[4]。同様に,Os同位体比0.125を有する平均的なDMMは26–22億年前にPUMから分化したことがわかった。これらの3つの年代は丸山[2002]が示した大陸形成が最も活発であった時期と合致する(図1)。また,平均的なDMM分化が起きた26–22億年前はクラトン下リソスフェアのRe枯渇年代と一致する。このことから,大規模な大陸形成をもたらしたマントル対流の活動期パルスが幅広いOs同位体比を示すDMMの生成にも関与したと考えられる。
[1] Zindler, A., and Hart, S., 1986. Ann. Rev. Earth Planet. Sci.,14, 493 - 571
[2] 仙田量子ほか,2012. 岩石鉱物科学,41, 211 – 221
[3] Walker, R. J., 2016. Geochemical Perspectives, 5
[4] Umino, S. et al., 2018. Island Arc, doi: 10.1111/iar.12221
[5] 丸山, 2002.プルームテクトニクスと全地球史解読, 岩波書店