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[SGL29-08] 熊野海盆海底泥火山噴出堆積物の粘土鉱物組成から推定される泥火山堆積物の起源
キーワード:海底泥火山、粘土鉱物、間隙水
泥火山は、高間隙水圧をもった堆積物が泥ダイアピルとして上昇し地表に噴出した小丘で、堆積物とともに地下深部の水・ガスを地表へと運ぶ「ナチュラルパイプライン」である。特に温室効果ガスの一つであるメタンの大気・海洋への放出源として注目されている。噴出堆積物中の水・ガスの起源を調べる研究はこれまでにも数多く実施されており、流体の共通点として、地下深部で進行する粘土鉱物の脱水の寄与が大きく、堆積物中の有機物が分解されて生成した熱分解起源メタンを含むことが挙げられる。スメクタイト-イライト反応も熱分解起源メタンの生成も60℃以上で起こるとされ、泥火山の流体の起源は、これらの反応がおこる温度以上の海底下深部であると考えられている。一方、泥火山噴出堆積物の鉱物組成、化学組成によって堆積物の起源を調べる研究は、流体の化学的研究に比べると少ない。泥火山噴出堆積物が粘土サイズの粒子を多く含むことを考えると、粘土鉱物組成は泥火山堆積物の特徴を知る上でも、また粘土鉱物の脱水反応を含む堆積物の経験温度履歴を知る上でも重要である。本研究では、紀伊半島沖の熊野前弧海盆の二つの海底泥火山の噴出堆積物について、粉末X線回折法により堆積物中の粘土サイズフラクションの粘土鉱物の同定と半定量を行い、粘土鉱物の組成、変質の程度について調べ、間隙流体との関係を検討した。二つの泥火山から得られた噴出堆積物は同様にスメクタイトに富んでおり(粘土サイズフラクションの約50%)、異なる泥火山の間での似た粘土鉱物組成は、噴出堆積物の起源が同じであることを示唆する。泥火山の粘土鉱物組成は熊野海盆南部のIODP掘削サイトC0002で得られた更新統の堆積物の粘土鉱物組成とは大きく異なるため、海盆内の更新統堆積物よりは深部から供給されている可能性が高い。イライト/スメクタイト混合層中のイライト相対量は平均で32%であり、粘土鉱物がスメクタイト-イライト反応の起こる60℃以上を経験している可能性を示唆する。一方で、堆積物から抽出した間隙水中の塩化物イオン濃度は、粘土鉱物の脱水により排出された水により海水の約半分まで薄められており、これだけの淡水を排出するだけのスメクタイトは堆積物中には含まれていない。このことから、粘土鉱物の脱水反応により排出された水を多く含む流体は、噴出堆積物よりさらに深部から供給されたものと考えられる。