日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL29] 泥火山と地球化学的・地質地形学的・生物学的関連現象

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:浅田 美穂(国立研究法人海洋研究開発機構)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構、共同)、辻 健(九州大学工学研究院)

[SGL29-P01] 東シナ海大陸斜面域における海水中のメタンの分布

*土岐 知弘1知花 英貴1島袋 鉄平1山川 陽1 (1.琉球大学理学部)

キーワード:東シナ海、大陸斜面、メタン

大気中のメタンは,二酸化炭素の約20倍の温暖化係数を持つ強力な温室効果ガスである。海洋の大陸棚や沿岸部は,大気へのメタンの供給源の一つと考えられている。東シナ海においても,夏の間に大陸棚海域にメタンが蓄積し,冬に大気へと放出されていることが指摘されている。また,東シナ海の大陸棚とトラフ底には泥火山やBSRの存在が報告されている。また,大陸斜面においては,メタン湧出を示唆する化学合成生物のコロニーが確認されている。こういった比較的浅い海域におけるメタンの放出源は,大気へ放出されるメタンにもなり得ることから,その規模と分布を明らかにする必要がある。本研究では,東シナ海における海水中のメタン濃度を調べ,本海域における海底からのメタンの供給源について考察した。
 2011~2015年の6月上旬に行われる長崎丸による乗船実習の間に,東シナ海の複数ヵ所から海水試料を採取した。海水試料は,ニスキン採水器を用いて採取し,船上において直ちにバイアル瓶に分取した後,飽和水銀溶液を添加して生物活動を固定。バイアル瓶は密栓して,冷暗所において保存した。また,採水器では,採水と同時に,温度,水深,塩分も記録した。海水サンプル中のメタン濃度は,溶存ガス抽出装置でメタンを抽出した後,FID(水素炎イオン化型検出器)を搭載したガスクロマトグラフ(島津製作所;GC-2014A)を用いて測定した。濃度は,標準ガス(メタン:10 ppm)を用いて決定した。測定精度は8%以内である。
 海域は,地形データから,大陸棚域,大陸斜面域,沖縄トラフ海域に分けることができる。CTDデータを用いて,大陸棚域の海水には,大陸からの塩分が低く,水温の低い水が流れ込んで来ていることが明らかとなった。沖縄トラフ海域の海水は,塩分が高く,水温も高く,黒潮水塊の特徴を示している。大陸斜面域の海水も,水深600 m付近までであれば,大陸から来る低塩分・低水温水の影響を受けている場所もあるが,600 m以深にはCTDの異常は見られない。黒潮水塊中のメタン濃度は,表層400 mまでは1~2 nmol/kg程度で,水深400 mよりも深部では1 nmol/kgを下回り,検出限界付近まで減少する。大陸起源水の影響を受けている水塊は,比較的メタン濃度は高いが,4 nmol/kgを超えることはなかった。一方で,大陸斜面における大陸起源水の影響を受けていない水塊について,熱水や泥火山の存在が指摘されていない場所において,メタン濃度が8 nmol/kgを超える場所が見つかった。テクトニックセッティングから考えると,熱水が存在することは考えにくい。一方で,泥火山や冷湧水が存在する可能性は十分考えられる。特に,沖縄トラフに広く分布している島尻層群や八重山層群といった有機物の豊富に含まれている層と,背弧海盆を形成している正断層など,メタンの供給路となる要素は考え得るが,今後の調査で特定する必要があるだろう。また,規模によっては,大気へのメタンの供給源にもなり得ることから,分布と定量的な影響の把握が必要である。