日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL32] 上総層群における下部-中部更新統境界GSSP

2018年5月24日(木) 15:30 〜 17:00 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡田 誠(茨城大学理学部理学科)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、亀尾 浩司(千葉大学理学研究科地球科学、共同)、久保田 好美(国立科学博物館)、座長:羽田 裕貴(茨城大学理工学研究科)、岡田 誠(茨城大学理学部)

16:45 〜 17:00

[SGL32-06] 千葉複合セクションの花粉データから得られた前期−中期更新世境界(MIS18-20)の古気温定量復元

*奥田 昌明1本郷 美佐緒2渡邉 正巳3菅谷 真奈美4菅沼 悠介5岡田 誠6 (1.千葉県立中央博物館、2.有限会社アルプス調査所、3.文化財調査コンサルタント株式会社、4.技研コンサル株式会社、5.国立極地研究所、6.茨城大学理学部)

キーワード:千葉複合セクション、花粉、モダンアナログ法、MIS19、前期−中期更新世境界、チバニアン

前期−中期更新世境界の国際標準模式地に関するチバニアン選定において、重要な役割を果たしている微化石の一つに花粉がある。これは、花粉化石が陸上の古気候情報を含んでいながら生産量の多さと優れた移動能力により、深海底まで運ばれて有孔虫など海洋のプロキシデータと同居できることに起因している。千葉複合セクションから得られた化石花粉データは、定性的には広葉樹(コナラ亜属、ブナ属など)と針葉樹(ツガ属、トウヒ属など)の比が底生d18Oとよい調和を示し、陸上の古気温に関する良質な指標を提供している。

この化石花粉データに対して、演者らは表層花粉データセットとの照合に基づいたモダンアナログ法を適用し、前期−中期更新世境界の古気温についての定量復元をおこなった。得られた年平均気温曲線は、試行段階ではMIS19のシグナルが不明瞭であるなど解りにくいものであったが、化石と現生の両方からマツ属を抜くなどの工夫をおこなったところ、MIS19cの年平均気温がMIS5aやMIS5cと同じ10℃前後の亜間氷期レベルを示すなど、海洋のd18Oと調和的な結果が得られた。一般に遠距離飛来傾向の強いマツ属花粉は、他の針葉樹種とは異なり深海底堆積物からは氷期間氷期を問わず多産すること、また通常の花粉分析では識別しにくいゴヨウマツ亜属が現生では東北日本の寒冷地に偏在することから、深海底堆積物に対して行われる花粉ベースの古気温復元を寒い目に押し下げているのかもしれない。

なお、千葉複合セクションから得られた化石花粉データは、77万年前に発生した地磁気逆転に連動する気候変動を有為には記録していない。表面的には、定量化された古気温曲線には白尾火山灰(Byk-E)の付近に数℃程度の揺らぎが認められるものの、古気温計算の根拠となった花粉組成(%)に意味のある変化が見られないこと、また千葉複合セクションでは白尾火山灰の付近で特異的な高解像度が採られていることから、上記の「揺らぎ」はデータ解像度の不均一による人工物である可能性が高い。いずれにせよ、千葉複合セクションから得られた化石花粉記録は、77万年前の地磁気逆転の時代に顕著な気候変動が発生したとする仮説に対しては懐疑的である。