[SMP37-P09] 超高圧エクロジャイトにおけるコーサイト–石英相転移を制御する要因:藍晶石内の転位の効果
キーワード:コーサイト、藍晶石、転位、超高圧エクロジャイト、FIB−TEM
SiO2高圧相のコーサイトは超高圧変成作用の指標鉱物であり、そのほとんどが剛性率の大きいザクロ石やジルコンの包有物として産する(e.g., Parkinson & Katayama, 1999)。しかし、大部分のコーサイトはホスト鉱物との境界から内側に向かい多結晶質石英(仮像)に相転移しており、ホスト鉱物では放射状クラックが発達する。仮像は超高圧変成岩の上昇時に形成される減圧組織であるが、石英への相転移量は一様でないため(Hacker & Peacock, 1994)、相転移の進行は岩石の上昇速度や鉱物粒界に存在するH2O量に影響されることが示唆されている(Mosenfelder et al. 2005)。そのため、仮像の形成プロセスは、超高圧変成帯の上昇プロセスや流体挙動を理解する重要な鍵として注目されている(e.g., Perrillat et al. 2003)。鉱物の相転移は、一般に結晶内にかかる応力の異方性や結晶中の欠陥(転位)の有無に影響を受けるため微細組織解析が必須であるが、天然のコーサイトやそのホスト鉱物を対象とした解析例は少ない。筆者らは、超高圧変成岩中のコーサイトおよびその仮像の鉱物学的研究を実施している過程で、藍晶石中に石英への相転移を完全に免れたコーサイトを発見した。そこで本研究では、ラマン分光分析とFIB(集束イオンビーム加工装置)—TEM(透過型電子顕微鏡)によって、コーサイトおよび藍晶石のマイクロ~ナノスケールオーダーでの微細組織解析を実施したので報告する。
研究試料は、中国Su-Lu帯Yangzhuang地域で採取された超高圧エクロジャイトであり、鉱物化学組成を用いた熱力学計算によりピーク変成条件はP/T = 3.1 GPa/660–730 ˚Cと見積もられている (Taguchi et al. 2016)。試料中に含まれるコーサイトは、ザクロ石に包有された藍晶石及び基質の藍晶石内に存在する。分析結果は以下の通りである。(1)ザクロ石に包有された藍晶石中のコーサイト:減圧相転移を示唆する多結晶石英は存在せず、藍晶石への放射状クラックは観察されなかった。ラマン分光分析の結果、コーサイトは結晶内で応力異方性が認められ、最大0.35 GPaの残留圧力を保持していた。またTEMによるナノスケール観察の結果でも、コーサイトと藍晶石の鉱物境界に石英は認められなかった。コーサイト内に転位は観察されなかったが、藍晶石内には転位とその間で結晶方位がわずかに異なる亜結晶粒界が発達していた。TEMにより得られた藍晶石の転位密度は約108 cm-2であったが、コーサイトとの鉱物境界近傍、特にコーサイトの残留圧力値の低い領域では約109 cm-2と一桁高い値が見積もることができた。(2)基質藍晶石中のコーサイト:コーサイト包有物近傍の藍晶石にマイクロクラックは観察されたが、多結晶質石英は認められなかった。コーサイトは薄片表面に露出しているため、残留圧力は解放済みであった。TEM観察では、(1)の場合と同じく鉱物境界に石英は認められなかった。またコーサイト内に転位は観察されなかったが、藍晶石には転位のほかに積層欠陥が発達していた。藍晶石の転位密度は全体では約108 cm-2で見積もられたが、約109 cm-2と一桁高い値が見積もられる領域も存在した。
天然の藍晶石において、その転位密度は<108 cm-2と報告されているが(Menard et al. 1977; Kerrick, 1986)、本研究の結果からコーサイトを含む場合は高転位密度領域(約109 cm-2)が形成されることが判明した。また(1)のコーサイトで認められた残留圧力の異方性は、藍晶石に発達した亜結晶粒界および高転位密度が影響しているためと考えられる。これらの結果は、超高圧変成岩の上昇期において藍晶石の転位が一様に回復しないことを意味しており、藍晶石に発達した転位がコーサイトから石英への相転移を阻害した要因であることを示唆している。また藍晶石が、高圧鉱物の耐圧容器として非常に優れている可能性も示された。
研究試料は、中国Su-Lu帯Yangzhuang地域で採取された超高圧エクロジャイトであり、鉱物化学組成を用いた熱力学計算によりピーク変成条件はP/T = 3.1 GPa/660–730 ˚Cと見積もられている (Taguchi et al. 2016)。試料中に含まれるコーサイトは、ザクロ石に包有された藍晶石及び基質の藍晶石内に存在する。分析結果は以下の通りである。(1)ザクロ石に包有された藍晶石中のコーサイト:減圧相転移を示唆する多結晶石英は存在せず、藍晶石への放射状クラックは観察されなかった。ラマン分光分析の結果、コーサイトは結晶内で応力異方性が認められ、最大0.35 GPaの残留圧力を保持していた。またTEMによるナノスケール観察の結果でも、コーサイトと藍晶石の鉱物境界に石英は認められなかった。コーサイト内に転位は観察されなかったが、藍晶石内には転位とその間で結晶方位がわずかに異なる亜結晶粒界が発達していた。TEMにより得られた藍晶石の転位密度は約108 cm-2であったが、コーサイトとの鉱物境界近傍、特にコーサイトの残留圧力値の低い領域では約109 cm-2と一桁高い値が見積もることができた。(2)基質藍晶石中のコーサイト:コーサイト包有物近傍の藍晶石にマイクロクラックは観察されたが、多結晶質石英は認められなかった。コーサイトは薄片表面に露出しているため、残留圧力は解放済みであった。TEM観察では、(1)の場合と同じく鉱物境界に石英は認められなかった。またコーサイト内に転位は観察されなかったが、藍晶石には転位のほかに積層欠陥が発達していた。藍晶石の転位密度は全体では約108 cm-2で見積もられたが、約109 cm-2と一桁高い値が見積もられる領域も存在した。
天然の藍晶石において、その転位密度は<108 cm-2と報告されているが(Menard et al. 1977; Kerrick, 1986)、本研究の結果からコーサイトを含む場合は高転位密度領域(約109 cm-2)が形成されることが判明した。また(1)のコーサイトで認められた残留圧力の異方性は、藍晶石に発達した亜結晶粒界および高転位密度が影響しているためと考えられる。これらの結果は、超高圧変成岩の上昇期において藍晶石の転位が一様に回復しないことを意味しており、藍晶石に発達した転位がコーサイトから石英への相転移を阻害した要因であることを示唆している。また藍晶石が、高圧鉱物の耐圧容器として非常に優れている可能性も示された。