日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 活断層と古地震

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所、共同)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)

[SSS08-P09] 房総半島南東岸の元禄汀線付近に記録された2回の離水イベント

*塚原 柚子1宮内 崇裕2 (1.千葉大学大学院融合理工学府地球科学コース、2.千葉大学大学院理学研究院地球科学研究部門)

キーワード:相模トラフ、プレート境界地震、波食汀線地形、ユースタシー、地震性海岸隆起

1923年の大正関東地震(M7.9)と1703年元禄関東地震(M8.1) に伴う顕著な海岸隆起をレファレンスとして、房総半島南部の海成段丘沼面群(小規模離水ベンチを含む)の形成は相模トラフでのプレート境界地震時地殻変動の累積によるものと考えられ、それを基にした完新世古地震の復元がなされてきた(Matsuda et al.,1978; 中田ほか,1980; 茅根・吉川,1986など)。しかし、プレート間の歪み蓄積解放過程からみると、地震時の隆起・沈降のパターンは次の地震までに徐々に消失し、永久変形として残るものは定常的な沈み込みに伴う地殻変動のみである(Sato et al.,2016)という視点に立つと、房総半島南端部の海成段丘群は相模トラフで発生する巨大地震に伴う地殻変動の累積によるものではなく,太平洋プレートとフィリピン海プレートの沈み込みに伴う陸側プレートの定常的隆起と海水準変動の重合によって形成されたと考える方が合理的である。定常的な隆起速度を3~4 mm/年とし,地震サイクルに伴う隆起沈降,波浪侵食と堆積過程とユースタティックな海水準変動を与えた数値発達シミュレーションによって幅の広い沼面群の海岸地形は再現される(Noda et al.,2017)。本研究では、このような観点から、離水時期が特定されている元禄汀線(沼4面)とその周辺の小規模離水ベンチ・ノッチなどの波食地形に着目し、それらの高度分布、形成環境、生物遺骸化石の14C年代を求め、ユースタシー、地震性地殻変動の寄与について再検討を行った。その結果、従来元禄汀線を示すとされていた離水ノッチ(標高6.8m)に付着する穿孔貝化石とゴカイ類ヤッコカンザシ生物遺骸化石を採取し、それぞれの14C暦年代はAD689-946、AD1680以後を示した。後者の年代は1703年元禄地震による離水に対比されるが、前者の年代はそれよりも有意に1000年ほど古い。穿孔貝化石の保存過程を考慮すると、これらは元禄汀線付近が少なくとも2回の異なる離水イベント(イベント1:1329-1070年前、イベント2:1703年元禄地震)を経験したことを示唆する。上昇傾向にある1329-1070年前の海水準(Siddall et al.,2003)では、死滅後の穿孔貝とノッチの保存が難しいので、イベント1は地殻変動による間欠的な海岸隆起に伴うものであり、これらの波食地形はその後の地震間沈降により元禄地震直前まで再び沈水したものと考えられる。最近の相模トラフでの古地震研究(Mannen et al.,2017)に基づくと、AD689-946に推定される離水イベント1はAD878元慶地震に対応する可能性がある。元禄汀線より高位には小規模ベンチが複数のレベルに分布しているが、レベル別高度の分散(2~3m)が大きく、新旧の潮間帯が重合してしまう。このため、地形的な小規模離水ベンチ地形のみで離水イベントを復元することはきわめて難しいことも判明した。旧汀線の認定は、波食地形とヤッコカンザシ等の潮位を精度良く特定できる生物群集化石を組み合わせて慎重に行う必要が再確認された。