[SSS11-P16] 地震学的手法による南九州下のフィリピン海スラブとその周辺域の構造の推定
キーワード:地震学的構造、フィリピン海スラブ、南九州、レシーバ関数解析、トモグラフィ
1.はじめに
日向灘地震の発生過程や桜島・霧島火山の噴火過程の研究に寄与するために、南九州下のフィリピン海スラブの地震学的構造をレシーバ関数解析とトモグラフィ解析により推定することを試みた。
2.レシーバ関数解析
宮崎-阿久根測線と宮崎-桜島測線において、地震観測点が約5 km 間隔で配置されるように、定常観測網を補って、固有周期1 秒の短周期地震計を用いた臨時観測点を設置した。これらの臨時観測点と測線近傍の定常観測点で記録された遠地地震波形を用いてレシーバ関数解析を行った。
得られた2つの測線のレシーバ関数イメージにおいて、大陸モホ面や海洋モホ面などの地震波速度不連続面を読み取ることができる。それらの特徴として、(1)島弧側の大陸モホ面がマントルウェッジ付近で不明瞭になることと、(2)深さ80~100 kmまで見られるスラブ内の海洋モホ面が深さ60 km付近で折れ曲がること、が挙げられる。(1)は海洋地殻から脱水した流体によりマントルウェッジが低速度になっていることを、また(2)は脱水後の海洋地殻がbasaltのeclogite化により重くなったことを示している。
さらに、霧島火山や桜島火山の直下の低周波地震の発生域は強い低速度層であることがわかる。火山活動に関係する流体の存在が示唆される。
3.トモグラフィ解析
トモグラフィ解析では、レシーバ関数解析のために測線上に展開した臨時観測点を含む南九州地域に設置されている定常観測点と臨時観測点を使用した。用いた地震は、2011年2月~2016年3月の期間に発生したイベントから空間的均質化等を行って選択した。速度構造モデルのグリッドサイズは0.1°×0.1°×10 kmで、初期値にはJMA2001(上野他, 2002)を用いた。不連続面として、大陸モホ面、スラブ上面、海洋モホ面を組み込んだが、これらの形状は、Katsumata (2010)の大陸モホ面モデルとIwasaki et al. (2015)のプレート境界モデルを参考にして決めた。
深さ10 kmごとの深さ断面でのP波速度の不均質分布からは以下の特徴が読み取れる。深さ10 kmでは霧島(新燃岳)、桜島、開聞岳の近傍に低速度異常が見られる。深さ20 kmでは上記の3火山の付近に強い低速度異常域が広範囲に広がっている。日向灘の沿岸部付近にも強い低速度異常が見られる。海洋地殻は、深さ30 kmと40 kmでは低速度異常を示すが、深さ50 kmと60 kmでは高速度異常を示す。
Fig.1に霧島(新燃岳)、桜島、開聞岳の近傍を通る東西断面でのP波速度の不均質分布を示す。火山下の地殻内に強い低速度異常が広範囲にみられる。マントルウェッジの先端部の海側にも強い低速度異常域が見られる。海洋地殻は深さ50 km~60 kmでいったん高速度異常を示すが、それより深いところではまた低速度異常に戻るようである。島弧側のマントルは広範囲に低速度異常を示す。
これらの低速度異常域は、スラブ起源流体やマグマ等の流体に起因すると考えられる。海洋地殻からの脱水は、マントルウェッジ先端部の海側付近と深さ80 km以深の低速度異常域で発生していると思われる。
防災科学技術研究所、気象庁、九州大学、鹿児島大学の定常観測点と東京大学の臨時観測点の地震データを使用しました。本研究はJSPS科研費16K05540の助成を受けたものです。
日向灘地震の発生過程や桜島・霧島火山の噴火過程の研究に寄与するために、南九州下のフィリピン海スラブの地震学的構造をレシーバ関数解析とトモグラフィ解析により推定することを試みた。
2.レシーバ関数解析
宮崎-阿久根測線と宮崎-桜島測線において、地震観測点が約5 km 間隔で配置されるように、定常観測網を補って、固有周期1 秒の短周期地震計を用いた臨時観測点を設置した。これらの臨時観測点と測線近傍の定常観測点で記録された遠地地震波形を用いてレシーバ関数解析を行った。
得られた2つの測線のレシーバ関数イメージにおいて、大陸モホ面や海洋モホ面などの地震波速度不連続面を読み取ることができる。それらの特徴として、(1)島弧側の大陸モホ面がマントルウェッジ付近で不明瞭になることと、(2)深さ80~100 kmまで見られるスラブ内の海洋モホ面が深さ60 km付近で折れ曲がること、が挙げられる。(1)は海洋地殻から脱水した流体によりマントルウェッジが低速度になっていることを、また(2)は脱水後の海洋地殻がbasaltのeclogite化により重くなったことを示している。
さらに、霧島火山や桜島火山の直下の低周波地震の発生域は強い低速度層であることがわかる。火山活動に関係する流体の存在が示唆される。
3.トモグラフィ解析
トモグラフィ解析では、レシーバ関数解析のために測線上に展開した臨時観測点を含む南九州地域に設置されている定常観測点と臨時観測点を使用した。用いた地震は、2011年2月~2016年3月の期間に発生したイベントから空間的均質化等を行って選択した。速度構造モデルのグリッドサイズは0.1°×0.1°×10 kmで、初期値にはJMA2001(上野他, 2002)を用いた。不連続面として、大陸モホ面、スラブ上面、海洋モホ面を組み込んだが、これらの形状は、Katsumata (2010)の大陸モホ面モデルとIwasaki et al. (2015)のプレート境界モデルを参考にして決めた。
深さ10 kmごとの深さ断面でのP波速度の不均質分布からは以下の特徴が読み取れる。深さ10 kmでは霧島(新燃岳)、桜島、開聞岳の近傍に低速度異常が見られる。深さ20 kmでは上記の3火山の付近に強い低速度異常域が広範囲に広がっている。日向灘の沿岸部付近にも強い低速度異常が見られる。海洋地殻は、深さ30 kmと40 kmでは低速度異常を示すが、深さ50 kmと60 kmでは高速度異常を示す。
Fig.1に霧島(新燃岳)、桜島、開聞岳の近傍を通る東西断面でのP波速度の不均質分布を示す。火山下の地殻内に強い低速度異常が広範囲にみられる。マントルウェッジの先端部の海側にも強い低速度異常域が見られる。海洋地殻は深さ50 km~60 kmでいったん高速度異常を示すが、それより深いところではまた低速度異常に戻るようである。島弧側のマントルは広範囲に低速度異常を示す。
これらの低速度異常域は、スラブ起源流体やマグマ等の流体に起因すると考えられる。海洋地殻からの脱水は、マントルウェッジ先端部の海側付近と深さ80 km以深の低速度異常域で発生していると思われる。
防災科学技術研究所、気象庁、九州大学、鹿児島大学の定常観測点と東京大学の臨時観測点の地震データを使用しました。本研究はJSPS科研費16K05540の助成を受けたものです。