日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 地震活動

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、座長:楠城 一嘉(静岡県立大学)、蓬田 清(北海道大学大学院理学研究院)

11:15 〜 11:30

[SSS12-09] 南海トラフ沈み込み帯の地震活動に基づくb値マップ

*楠城 一嘉1吉田 明夫2 (1.静岡県立大学、2.静岡大学)

キーワード:南海トラフ、b値、滑り欠損速度、計算地震学、統計解析、地震活動、テクトニクス

南海トラフ大地震は、日本社会だけではなく、国際社会にも甚大な影響を与える。その南海トラフ地震の発生前には様々な先行現象が出現すると考えられている。その候補の一つとして、2011年に起きたマグニチュードM9の東北地方太平洋沖地震に先行して見られた現象で、プレート境界の固着の弱化や、地震活動の静穏化と活発化、そして地震活動の潮汐応答や大小地震の発生率の変化である。このような現象を検知するために、南海トラフに集中した定常観測は欠くことができない。一方、強く固着した領域がどこかを見つける目的を持って、これまで多数の研究がなされてきた。南海トラフ大地震の発生は、固着したプレート間が滑った結果なので、固着の強い領域や弱い領域を観測できれば、将来の南海トラフ大地震のポテンシャルの高さの推定に役立つはずである。これまでの大地震の震源域は、プレート境界の滑り欠損速度が大きいか、差応力が大きい領域(もしくはその近傍)であると考えられている。従って、滑り欠損速度の大きい領域または高応力の領域を検出することが重要である。Yokota et al. (2016)は、GPS-Aによる海底観測網とGEONETによる陸上観測網の地殻変動のデータを組み合わせて、南海トラフでの滑り欠損速度の空間分布を推定した。

本講演では、グーテンベルグ・リヒターのb値の空間分布を南海トラフ全域について示す。大きい地震と小さい地震の相対的な発生数の指標であるb値は、差応力と逆相関することが知られており、様々なテクトニックの環境下にある断層で、高応力の領域を推定するために用いられてきた。南海トラフでのb値の分布は空間的に複雑なパターンを示すが、M8クラスの1944年の東南海地震と1946年の南海地震の大きく滑った領域でb値は低く、その領域の間でb値は高いことが分かった。これは、南海トラフ沿いのプレート境界面はセグメント化されており、東北沖(Tormann et al., 2015)とは異なる性質を示している。より詳細に調べると、Yokota et al. (2016)の滑り欠損速度とb値に負の相関があることも分かった。固着が強い領域(滑り欠損速度が大きい)で差応力が大きいことを示しており、世界の他地域での観測事実とも調和的である。また、南海トラフの東側にある、滑り欠損速度の大きい領域でのb値が、西側のそれより低いことが分かった。これは、南海トラフの東側が最初に破壊する傾向にある、同トラフの巨大地震の歴史と矛盾しないと考えられる。