日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 地震予知・予測

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、座長:井元 政二郎勝俣 啓

14:00 〜 14:15

[SSS13-02] モデルから期待されるアスペリティーの破壊前の振る舞い

*山本 清彦

キーワード:すべり欠損、アスペリティー、非弾性歪み、再来時間、断層破砕帯、冪分布関数

はじめに:
プレート境界では、地震発生の核になると考えられるすべり欠損の存在が明らかになり、それが時間的に変化することも指摘されている。すべり欠損がアスペリティーの存在を示すものとすれば、アスペリティーの破壊前の振る舞いを知ることは、地震発生予測にとって重要である。一方、破砕帯とアスペリティーからなる断層模型によれば、アスペリティーが破壊するとき、弾性歪みの1/2の大きさの非弾性歪みが生じている。したがって、非弾性歪の振る舞いからその破壊すなわち地震発生を予測できる可能性がある。
ここでは、アスペリティーは一様な厚さの破砕帯の中にあり、アスペリティーを除いて、破砕帯に剛性はない。また、アスペリティーの弾性は破砕帯を挟む母体のそれに等しい。以上の仮定で、破砕帯の弾性的歪の増加率(応力増加率)を一定とした場合、と断層面での相対変位の増加率(非弾性歪と弾性歪の和の増加率)を一定とした場合について、アスペリティーの歪(断層面の相対変位)あるいは応力の破壊に至る過程の挙動を考察する。ここでは、破砕帯と母体との境界面を断層面と呼ぶ。
方法:
アスペリティーの全歪をet、弾性歪をee、非弾性歪をei、破壊時の弾性歪をecとして、r=et/ecre=ee/ecri=ei/ec、を定義する。破砕帯の厚さをwとすると、u=w·etは断層面の相対変位である。応力は剛性率と歪の積であるから、弾性歪を応力に置き換えてもrの意味は変わらない。どちらの場合もrt=re+riと書ける。アスペリティーはre=1の時に破壊する。これは、変位速度条件、応力速度条件のどちらの場合でも同じである。ecを臨界歪と呼ぶ。
ここで、ri=c·gと書く。g=g(re)は岩石の破壊実験から導出された応力と割目密度の関係を表す修正冪函数で、g=(re/f)mre=r/(1-g)として得られる関数で、mは冪、fは内部摩擦係数の逆数である。cre=1の時c·g=0.5になるように決める。歪条件ではr=re+ri=td·t、応力条件ではre=r-ri=ts·tになる。ここで、tdは歪の、tsは応力の時間増加率である。変位条件の場合アスペリティーの破壊はrt=1.5·rc (rc=1)で発生する。ほぼ同一の場所で発生する同規模の地震の繰り返し時間間隔が既知の時、trはその繰り返し時間間隔の逆数で、tは先行地震からの経過時間である。
結果:
アスペリティーを構成する岩石の mについての情報はないが、室内の圧縮試験による応力と破壊密度の関係から得られている花崗閃緑岩では約11、石英閃緑岩、石炭の強度の寸法効果からはそれぞれ約4.4と5.8である。また、海溝沿いの小地震では、4から8、火山噴火前の微小地震のデータからは約6が得られています。以上から、アスペリティーのmは4と12の間であると思われる。
応力条件で非弾性変位量が弾性変位量の10%に達するのは、m=5では経過時間が再来時間のおよそ83%、m=10でおよそ92%、m=15でおよそ94%、m=20では約96%に達した時である(Fig.1)。
変位条件の場合、m<5では応力の増加率は変位が大きくなるに従って徐々に減少する。mが5以上では、経過時間が再来時間のおよそ60%以上になると顕著に小さくなる。経過時間が再来時間の95%以上では、経過時間が再来時間の約10%程度永くなっても応力の変化量は破壊強度の5%以下である(Fig.2)。
議論:
破砕帯内にあるアスペリティーの破壊を議論するのに、変位条件と応力条件のどちらがより適切な近似かは問題である。いずれの場合も、アスペリティーの破壊(地震発生)の前に、断層面の食い非弾性的な変位の加速が加速される。この変位は地震時の変位と同方向であるから、すべり欠損の成長を過少に見せるであろう。
変位条件の場合、経過時間が再来時間の95%以上(地震発生の前)では、アスペリティーに加わる力の増加がほぼ止まるので、すべり欠損の成長はほぼ止まる。したがって、地震直前の短期間で見るとすべり欠損の存在が見えなくなる可能性がある。
破砕帯・アスペリティー模型によれば、地震の規模は破砕帯の厚さで決まる。破砕帯厚とプレート間の収斂速度から地震規模とその再来時間を、地震間の相互作用がなければ、推定できる可能性がある。