日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 地震予知・予測

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、座長:井元 政二郎勝俣 啓

14:15 〜 14:30

[SSS13-03] 南海トラフ巨大地震発生域陸地最前線とその後方での最近の地下水変動

*佃 為成1 (1.なし)

キーワード:地震予知、地下水温、地下水位、地殻変動

地下岩盤に不均等な力が加わって剪断応力が高まり,剪断破壊(地震)が発生する.剪断応力が集中する周辺では岩盤にねじれの歪が現れる.そこでは,収縮場と膨張場が隣り合わせで生成される.大地震の場は恐らく,多数の連結した比較的小規模のねじれ場で構成される.剪断応力が岩盤の強度を越えるレベルに増大したとき(臨界状態),どこかのねじれ場の剪断破壊がトリガーとなり大地震に拡大する.
大地震の準備過程において,微小クラック群から成る流体移動のパスが存在すれば,地下岩盤の収縮領域(圧力上昇)と膨張領域(圧力降下)の形成に伴う間隙流体圧変化により,地表へ向かう上昇流体の増加や減少が起こる.深部流体は高温なので,上昇深部流体が浅層地下水に混入すると,地下水温を上昇させる.また,移動流体の量の変化によって水温変化が起こる(Tsukuda et al., 2005).
NPO法人「地下からのサイン測ろうかい」では,南海トラフの巨大地震の想定震源域に近い静岡県と神奈川県(東海地域)で9カ所,また和歌山県南紀地域では7カ所にて地下水温,そのうち東海1ヶ所,南紀2カ所にては水位も観測し,地震予知研究の基礎資料を提供している.
東海地方の主要な水温観測点の内, 静岡市中島下水浄化センター内自噴井(NK)には高精度水晶温度計が設置されている.焼津市立大富小学校内井戸(OT)にも,同じ規格の水晶温度計で観測を行っていたが,2014年に故障のため,現在は白金抵抗体温度計を設置.また,浜松市中郡小学校(NG)などにも白金抵抗体温度計が設置されている.
OT(焼津)の水温(深さ30m)は平均上昇率24m℃/year の単調増加が,2009年8月11日の駿河湾地震(M6.5)以降,44m℃/year に上昇,2011年3月11日の東北の地震(M9.0)の頃から以前の上昇率に戻り,2012年末から上昇が緩やかになってきた.水温はその後2年間のほぼ一定から2017年の春より急上昇へ転換した.
NK(静岡)の水温は, 2008年までは,14 m℃/year ~67 m℃/year の上昇であったが,その後上昇率は鈍化,2008年9月頃から-40 m℃/year の率で下降に転じた.2009年の駿河湾地震の前兆現象の1つと考えられる.さらにその地震以降,下降率が大きくなり(-117 m℃/year),2011年8月1日の駿河湾地震(M6.2)後,さらに下降率が増加した.その後,2013年5月下旬から上昇(66 m℃/year), 2015年に入り上昇は緩やかになり,2016年10月から下降へ転じた.
NG(浜松市中郡小学校)では,2016年まで下降傾向だったが,2017年に入り水温急上昇へ転換した.
南紀地域の主要な観測点として,和歌山県串本町潮岬の林組の井戸(HA)と和田商店の井戸(WA)には白金測温抵抗体の水温センサー,半導体感圧素子の水位センサーを2005年に設置した.また,古座川町月野瀬(KZ)などでも同様の水温の観測を実施している.
潮岬の観測点HAはWAに対してほぼ南へ約600 m 離れている.HAの水位とWAの水位および水温は降雨の影響や季節変化を抑えるため,移動平均値を計算する.KZは自噴泉,YKはポンプ汲み上げによって放流している.これらの水温はパイプの出口で測定している.
潮岬(HA,WA)の水位は,上昇傾向. WA のトレンドは71mm/year. HA,WA の水温も上昇(49~53m℃/year). 潮岬(串本)では1943年南海地震以後の隆起は1990年頃から沈下に転じ現在下降中である(国土地理院,2009). 最近の水位上昇の傾向は水準測量,GNSSの地盤沈下データ(小林, 2013)と調和的である.
KZの水温は長期的には地下岩盤の膨張を示唆する下降を続けていた.2004年紀伊半島沖地震(M7.4)発生以後,降下率が低下したが,2012年に入り下降率増大,しかし,2015年後半から0.22℃/yearの高い上昇率で上昇に転じた.
後背地域の兵庫県でも,淡路島のぬる湯温泉(NR)では2014年頃から,兵庫県猪名川町柏原(KW)では2016年頃から水温の異常な上昇変化が現れている.
このように広い地域で2014年~2017年ごろ,とくに2016年~2017年から大きな水温変化が現れ始めている.地盤のねじれに伴う圧縮域,膨張域の生成が各地で進行しているものと考えられる.南海トラフの巨大地震発生域の陸地最前線とその後背地域において,やや広範囲の地域の岩盤の変形の進行が加速している.早急に,総合的な地殻変動のモニタリングを進めるよう提案したい.