日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 強震動・地震災害

2018年5月21日(月) 10:45 〜 12:15 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)、座長:浅野 公之(京都大学防災研究所)、染井 一寛

11:15 〜 11:30

[SSS14-08] 震源域近傍強震動の物理学(2):熊本と神戸の比較

*纐纈 一起1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:震源域近傍強震動、ディレクティビティ効果、フリング効果

震源域近傍強震動の成因に関するフリング効果説を改めて考察する.初めて提唱したAbrahamsonの記述の中には「地殻変動の永久変位に伴う地震動によるもの」(Bolt and Abrahamson, 2003)と書かれている.そして,熊本地震の震源域近傍強震動の記録を積分して変位に変換したものの中に永久変位が見えるからフリング効果であるとする考え方がある.それでは,ディレクティビティ効果でコンセンサスが得られている兵庫県南部地震の震源域近傍強震動の記録には永久変位が含まれていないのかというと,決してそういうことはない.神戸大などは地殻変動分布の節面に近いので明瞭には見えないが(神戸大でのGPS観測でも1 cm程度),葺合など神戸市内の強震記録を積分してみるとはっきりと現れている.

それでは,フリング効果の物理学的実体とは何であろうか.Hisada and Bielak (2003)によれば「フリング効果はほとんど静的項に対応する」と書かれている.静的項とはこの論文の定式化において,グリーン関数のフーリエ変換のうちωに寄らない部分である.地震動はグリーン関数とすべり時間関数のコンボリューションであり,静的項がωを含まなければそのフーリエ逆変換であるグリーン関数も時間tを含まないので,静的項による地震動はすべり時間関数を定数倍したものになる.震源から放射される地震動のうちすべり時間関数またはモーメント時間関数に比例する部分は中間項と呼ばれている(Aki and Richards, 2002など).つまり静的項とは中間項のグリーン関数部分である.このことをDreger et al. (2011)も「Theoretically, the static offset is due to the intermediate-field term of the elastodynamic equations of motion (Aki and Richards, 2002), and as described, it is physically the sudden elastic rebound of the crust around the rupturing fault, which is called fling in the earthquake engineering community.」と述べている.

また,Dreger et al. (2011)はMw 6.5の仮想地震の地震動シミュレーションを行った結果から,The fling effect「is only sensitive to the slip on the immediate fault surface and is very sensitive to the depth of burial of the fault. Unfortunately, there are no observations in this very near-fault distance range (<100 m)(後略)」と結論づけている.これを言い換えれば,Mw 6.5前後の地震では地表面のすぐ下に大きなすべりがあれば,そこから100 m以内ならばフリング効果があると言っている.兵庫県南部地震に対する震源インバージョンなどでは,神戸側断層の浅い部分に大きな断層すべりは得られていないから,神戸がその状況にないのは明らかである.一方,熊本地震の場合,震源インバーション(Asano and Iwata, 2016; 引間, 2016; Kubo et al., 2016; Kobayashi et al., 2017)では,どの結果も一番浅い点震源にかなりのすべりを復元している.しかし,それらの深さはどのインバージョンも1 km程度であるから,地表面のすぐ下の大きなすべりを証拠立てるものではない.仮に存在したとすると,それによるフリング効果と,どのインバージョン結果も示している上向き破壊伝播がもたらすディレクティビティ効果が相俟って,異常に大きな地震動が異常に集中した形で観測されるはずであるが,現実にはそういうことは起こっていないように見える.