日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2018年5月21日(月) 09:00 〜 10:30 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、谷川 亘(国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、松澤 孝紀(国立研究開発法人 防災科学技術研究所、共同)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:吉田 圭佑(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻)、松澤 孝紀(防災科学技術研究所)

09:00 〜 09:15

[SSS15-07] モーメントテンソルの時空間分布を推定するインバージョン解析法の開発: 2013年パキスタン・バローチスターン地震への適用

*清水 宏亮1八木 勇治2奥脇 亮3深畑 幸俊4 (1.筑波大学生命環境学群地球学類、2.筑波大学大学院生命環境科学研究科、3.筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻、4.京都大学防災研究所)

キーワード:遠地実体波、モーメントテンソル、2013年パキスタン地震、運動学的インバージョン、断層形状、内陸地震

観測される遠地実体波形には,震源断層の形状の変化についての情報が含まれている.しかし,これまでの多くの震源過程解析では,震源断層を一枚ないしは複数の平面で近似し,仮定した面上での剪断すべり速度の時空間分布を求めてきた.しかし,仮定した断層形状が真のものと異なる場合,解析に使用するグリーン関数と真のグリーン関数との乖離が大きくなり,適切な震源過程を求めることが困難となる.

本研究では,誤った断層形状の仮定に起因するモデリング誤差を軽減すると同時に,観測波形に含まれる断層形状の変化についての情報をより適切に引き出すために,仮定した面上で求める滑りを,剪断すべりに限定したこれまでの2つから,5つの基底モーメントテンソル成分で表現する震源過程インバージョン法を開発した.求まる5つの基底モーメントテンソルによって,各パッチで震源メカニズム解及び仮定する断層形状と独立した断層パラメータを見積もることが可能となる.

本手法の有用性を検証するため,幾何学的に複雑な形状の断層システムで発生したと考えられている2013年パキスタン・バローチスターン地震 (Mw 7.7) の33観測点の遠地実体波P波の上下成分データに対して本手法を適用した.震央の位置するマクラン付加体は,南と西の2方向からのプレートの沈み込みによって,北から南へと震央周辺で湾曲した地形となっている.バローチスターン地震前後で生じた地表面変位は,衛星画像解析により震央周辺の湾曲した地形線に沿って分布していることが示されており,バローチスターン地震は一枚の平面で仮定することが困難な複雑な断層面上で発生したと考えられている.本研究では,複雑な震源断層を表現するために,5つの基底モーメントテンソルを深さ10 km,傾斜0°の平面に5 km間隔で配置してインバージョン解析を行った.

得られたモーメントテンソルの時空間分布から,仮定した平面上の各パッチで表現される震源メカニズム解は横ずれ型が支配的であり,破壊は震央から南西方向へとユニラテラルに伝播していることが明らかになった.求まる二つの節面のうち,想定される断層面に近い震源メカニズム解の節面の走向は,震源の北東から南西に向かうにつれ,時計回りに205°から250°へと連続的に回転していることが明らかになった.
求められた震源メカニズム解の空間変化は,バローチスターン地震が大まかには北東-南西走向で南東方向に凸の湾曲した断層面で発生した横ずれ型地震であることを示している.推定された断層走向の空間変化は,震央周辺の地形や既存の断層帯及び衛星画像解析による地震前後で生じた地表面変位の分布と調和的であった.仮定する平面の傾斜を64°に変更した解析でも同様なモーメントテンソルの時空間変化が得られ,本研究で提案した手法は断層形状の設定の恣意性によって解が大きく歪まない堅牢な手法であることを確認できた.本研究で提案した手法は,例えば2008年中国・四川地震 (Mw 7.9) や2016年ニュージーランド・カイコウラ地震 (Mw 7.8) など,複雑な断層形状を持つ地震やメカニズム解が大きく空間変化すると考えられている他の地震に対しても,単一平面を仮定するのみで地震ポテンシーの時空間分布と断層形状の同時推定ができるものである.