日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2018年5月21日(月) 09:00 〜 10:30 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、谷川 亘(国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、松澤 孝紀(国立研究開発法人 防災科学技術研究所、共同)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:吉田 圭佑(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻)、松澤 孝紀(防災科学技術研究所)

10:07 〜 10:29

[SSS15-11] 稠密地震観測から明らかになった箱根火山における群発地震と地殻流体との関係

★招待講演

*行竹 洋平1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:群発地震、地殻流体

群発地震の発生には地殻流体の移動(例えば、Parotidis et al. 2005)やaseismic slipの寄与(例えば、Lohman andMcGuire 2007)が考えられている。本発表では日本有数の火山地熱地帯である箱根火山において実施された稠密地震観測データから得られた群発地震震源分布の詳細な時間空間分布及び地殻構造の推定結果を紹介するとともに、群発地震発生と地殻流体との関係に関する議論について紹介する。箱根火山では過去に度々群発地震活動が観測されており、時々有感地震を伴うことがある。また群発地震の活発化とともに山体の膨張が周辺のGNSS観測点で観測されている。2009年に発生した群発地震活動について、震源位置を高精度に推定した結果、震源はほぼ鉛直な面上に厚さ数10mの幅に分布することが明らかになり、またメカニズム解の節面の一つは面状な震源分布と調和的であった。さらに地震活動域の時間発展に着目すると、活動域はある地点から拡散的に拡大していき、その拡散速度は地殻内注水試験により誘発される地震活動と調和的であった(Yukutake et al. 2011)。これらの結果に基づくと、地殻浅部の微小断層帯内に高圧の流体が拡散する過程で、一連の群発地震は誘発されたと解釈することができる。また、地震活動初期においては高b値と低応力降下量が推定され、それらは時間の経過とともにそれぞれ減少及び増加することが分かった。これらの結果は、群発地震活動の誘発に高圧流体が寄与しているという解釈と整合的である。さらに、地震波速度トモグラフィー法により火山の地下構造を求めた結果、深さ10から20kmの範囲にS波速度が顕著に遅くかつVp/Vs比が高い領域が推定された(Yukutake et al. 2015)。この速度構造をTakei (2002)の理論に当てはめると、岩石中の空隙にメルトまたは水が満たされた場と解釈できる。また高Vp/Vs域は山体膨張を引き起こす圧力源と一致するため、これらの結果を考慮すると、火山深部のマグマ溜まりに対応すると考えられる。一方、より浅部の深さ3から10kmの範囲においても低速度が存在し、そこでのVp/Vs比はより低いことが明らかになった。この速度構造は岩石中の空隙に水またはガスを含む場と解釈でき、深さ10km付近のマグマ溜まりから供給された水などの揮発成分が豊富に存在している領域と考えられる。群発地震は低Vp/Vs領域の上部に分布しており、マグマ由来の地殻流体が火山浅部の微小断層の中で拡散する際に群発地震が励起されると考えられる。またこうしたマグマ由来の地殻流体は、大涌谷などの噴気活動やカルデラ内部のNaClに富む温泉の生成に寄与していると考えられる。

謝辞
本研究では気象庁、国立研究開発法人防災科学技術研究所及び東京大学地震研究所の地震観測点データを使用させていただきました。

引用文献
Lohman RB, McGuire JJ (2007) Journal of Geophysical Research 112 doi:10.1029/2006jb004596
Parotidis M, Shapiro SA, Rothert E (2005) Journal of Geophysical Research 110:B05S10 doi:10.1029/2004JB003267
Takei Y (2002) Journal of Geophysical Research 107 doi:10.1029/2001jb000522
Yukutake Y, Honda R, Harada M, Arai R, Matsubara M (2015) Journal of Geophysical Research 120:3293-3308 doi:10.1002/2014jb011856
Yukutake Y, Ito H, Honda R, Harada M, Tanada T, Yoshida A (2011) Journal of Geophysical Research 116 doi:10.1029/2010jb008036