日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT51] ハイパフォーマンスコンピューティングが拓く固体地球科学の未来

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 301A (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、八木 勇治(国立大学法人 筑波大学大学院 生命環境系)、汐見 勝彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:堀 高峰汐見 勝彦(防災科学技術研究所)

16:30 〜 16:45

[STT51-05] 津波段波波力に対する気液二相流体シミュレーションの精度と計算効率に関する考察

*有川 太郎1五十嵐 宏夢1 (1.中央大学)

キーワード:津波、数値計算、計算効率、精度

津波に対する防護施設の一つに,直立型の海岸堤防があるが、このような直立堤には、津波による衝撃的な波力が作用する可能性が高く、その波力を正確に知ることは、構造物の安定性、ひいては背後地の安全性の確保につながるため、重要である。そのような衝撃的な波力は、波面と壁面の角度や、気体の圧縮性が重要であることが、既往研究から示されている。そのため,このような現象を再現するにあたっては、複雑な界面の変形を取り扱える気液二相流モデルを使うことが望ましい。しかし,水と空気の密度の違いから,液相側のわずかな圧力の攪乱が気相側に過剰な圧力を発生させ,液相界面に数値的不安定が生じる。また、3次元計算については、計算コストが高くなる。
 そこで,本研究では、気液混合領域における計算スキームに改良を加え、計算の安定性と精度の妥当性を検討するともに、ポアソン方程式を解く際における、行列計算手法を改良し、並列化効率および収束性の影響を検討し、津波段波波力に対する精度と計算効率について、考察を行った。
 段波波力の精度を確認するため、孤立波を直立壁へ作用させた水理模型実験と比較した。数値計算においては、気相領域の安定性と液相領域の精度を確保するため,気相領域に対しては風上差分,気液混合領域には各要素に占める水の体積率に応じた差分スキームとなるようアルゴリズムを改良した。具体的には、移流項の離散化に1次精度風上差分と2次精度中心差分のハイブリッドスキームを用い、その割合として、水の体積率に係数を掛けたもので表した。その結果、単に体積率のみでその割合を決めると、波形が鈍り砕波がうまく表現できないが、ある程度の重みをつけることで、実験をかなり再現よく計算できることがわかった。
 次に、計算コストについて検討した。気液二相流の計算では離散化によって得られる係数行列が単相流に比べて複雑であり,反復法で計算を行った際に収束性が悪化する.それに加えて,気液二相モデルは液相領域だけでなく気相領域についても計算を行うため,係数行列の非ゼロ非対角成分数が増加し,行列計算に時間を要する.そのため,行列解法の前処理やスレッド並列化を検討することで,計算の効率化を図る。行列解法の並列化では、マルチカラー法、ハイパープレーン法、JK面-ハイパープレーン法を用いて、オリジナルと比較した。その結果、HYP-JKの場合に計算速度が最も速くなり,最大では約30%の計算時間が削減したとがわかった。また、前処理法について、ILU法、MILU法、AMG法で比較し、10億格子までで比較したところ、ILUに比べ、AMG法では20%程度の回数で収束することがわかった。
 本研究では気液二相流体シミュレーションの精度と計算効率に着目した.直立壁に作用する衝撃波力の推定には,気相領域には完全風上差分,気液混合領域には各要素の流体の体積率に応じた差分スキームを適用することで計算精度を向上した。計算効率には,行列解法内の前進代入,後退代入処理時の要素間の依存性を排除し,領域分割法と合わせてハイブリッド並列化することで計算時間の短縮が得られた.