[SVC39-P13] 角閃石斑晶から探る雲仙平成噴火のプレ噴火プロセス
キーワード:雲仙火山、マグマ、角閃石、プレ噴火プロセス、マグマ混合
1.はじめに
雲仙火山は,九州北西部に位置する島弧火山である.雲仙平成噴火は,同火山の最新の噴火であり,1991-1995年の期間にわたって継続した.この噴火は主にデイサイト質の非爆発的噴火であり,溶岩ドームの形成とその崩壊による火砕流の発生を繰り返した.また,活動の中で2回ブルカノ式噴火を経験した.先行研究では,プレ噴火過程として,無斑晶質の高温苦鉄質マグマと斑晶に富む低温珪長質マグマの二端成分混合が考えられている (e.g., Sato et al., 1999).
ところで近年,角閃石単相の化学組成から,その共存メルトの温度やSiO2含有量を見積もる方法が提案されており(Putirka, 2016),この手法を用いることで個々の角閃石斑晶の成長環境条件を知ることができる.従って,この手法を雲仙平成噴火の角閃石に適用することで,プレ噴火過程のより詳細な描像を得られると期待できる.そこで本研究では,雲仙平成火山のプレ噴火過程について再検討することを目的とし,同噴火の噴出物中に含まれる角閃石斑晶およびクリスタルクロット中の角閃石とガラスの化学分析を行った.更に,分析を行った雲仙平成噴火の角閃石から,共存メルトの温度・化学組成を見積もった.
2.研究方法
本研究では,雲仙平成噴火の初期から噴火後にかけての異なる時期に噴出した6つの噴出物を試料として用いた.これらの試料はいずれも角閃石斑晶を含み,このうち2試料は角閃石・斜長石・不透明鉱物から成るクリスタルクロットを含んでいた.これらの試料について,含まれる角閃石斑晶,クリスタルクロットの粒間メルト中の角閃石・斜長石・粒間メルトの化学組成の分析を行った.鉱物・ガラスの化学分析は,東京大学地震研究所のEPMAを用いて行った.
3.結果
角閃石斑晶には,マグネシオホルンブレンドとチェルマカイトの2つのクラスターが見られ,両者の間には組成ギャップが存在した.クリスタルクロット中の角閃石は,全てマグネシオホルンブレンドに分類された.これらの角閃石にPutirka (2016)の角閃石単相温度計を適用したところ,マグネシオホルンブレンドは~750-800℃,チェルマカイトは~870-950℃の温度をそれぞれ示した。クリスタルクロット中の角閃石は,全て低温側の温度を示した.また,角閃石と共存しうるメルトのSiO2含有量は,高温の角閃石で~60-65wt.%,低温の角閃石で~66-73wt.%と見積もられた.クリスタルクロット中の角閃石と共存するメルトのSiO2含有量は,およそ71-72wt.%と見積もられた.一方で,クリスタルクロット中に実際に含まれる粒間メルトのSiO2含有量は~68-72wt.%であった.この値は,低温の角閃石から見積もられた共存メルトの値と同等であった.
4.議論
先行研究より,雲仙平成噴火のマグマは,高温の無斑晶質マグマと低温のケイ長質マグマの2成分混合によって形成されたと考えられている.本研究で角閃石から見積もられた温度のうち,低温側の温度範囲は,先行研究で見積もられた低温マグマの温度と一致する.また,これらの低温角閃石より見積もられたメルトのSiO2含有量は,クリスタルクロット中の粒間メルトのそれと一致する.従って,クリスタルクロットの粒間メルトは,雲仙平成噴火の低温端成分メルトの組成を保存していると考えられる.一方で,高温側の角閃石より見積もられた温度は,先行研究で考えられた高温端成分マグマの温度よりも明らかに低い.また,角閃石斑晶から見積もられた温度では,高温と低温の2つのクラスターの間にギャップが見られる.以上のことは,雲仙平成マグマの形成において,高温・低温の2つの端成分マグマの他に,これまで考えられていなかった中温のマグマが寄与したことを示す.すなわち,雲仙平成噴火のマグマは,従来モデルで示された2成分混合ではなく,3成分混合で形成されたと考えられる.そこで,3つの端成分メルトの混合比率を見積もったところ,高温端成分(1050℃; Holtz et al., 2005, SiO2含有量~50wt.%; Browne et al., 2006)が~11wt.%, 中温端成分が~54wt.%,低温端成分が~35wt.%との結果を得た.この結果から,新しく見つかった中温端成分マグマの寄与が大きく,従来は主要成分と考えられていた高温マグマの寄与が比較的小さいことが分かった.本研究の結果を踏まえて,雲仙平成噴火のプレ噴火過程の新モデルを提案する.まず,少量の高温マグマが中温マグマだまりに貫入して混合した.続いて,その混合マグマが更に浅部マグマだまりに貫入し,低温マグマと混合した後,地表へと上昇した.角閃石分解縁の欠如から,この一連の過程は数日程度でおこったと考えられる.
雲仙火山は,九州北西部に位置する島弧火山である.雲仙平成噴火は,同火山の最新の噴火であり,1991-1995年の期間にわたって継続した.この噴火は主にデイサイト質の非爆発的噴火であり,溶岩ドームの形成とその崩壊による火砕流の発生を繰り返した.また,活動の中で2回ブルカノ式噴火を経験した.先行研究では,プレ噴火過程として,無斑晶質の高温苦鉄質マグマと斑晶に富む低温珪長質マグマの二端成分混合が考えられている (e.g., Sato et al., 1999).
ところで近年,角閃石単相の化学組成から,その共存メルトの温度やSiO2含有量を見積もる方法が提案されており(Putirka, 2016),この手法を用いることで個々の角閃石斑晶の成長環境条件を知ることができる.従って,この手法を雲仙平成噴火の角閃石に適用することで,プレ噴火過程のより詳細な描像を得られると期待できる.そこで本研究では,雲仙平成火山のプレ噴火過程について再検討することを目的とし,同噴火の噴出物中に含まれる角閃石斑晶およびクリスタルクロット中の角閃石とガラスの化学分析を行った.更に,分析を行った雲仙平成噴火の角閃石から,共存メルトの温度・化学組成を見積もった.
2.研究方法
本研究では,雲仙平成噴火の初期から噴火後にかけての異なる時期に噴出した6つの噴出物を試料として用いた.これらの試料はいずれも角閃石斑晶を含み,このうち2試料は角閃石・斜長石・不透明鉱物から成るクリスタルクロットを含んでいた.これらの試料について,含まれる角閃石斑晶,クリスタルクロットの粒間メルト中の角閃石・斜長石・粒間メルトの化学組成の分析を行った.鉱物・ガラスの化学分析は,東京大学地震研究所のEPMAを用いて行った.
3.結果
角閃石斑晶には,マグネシオホルンブレンドとチェルマカイトの2つのクラスターが見られ,両者の間には組成ギャップが存在した.クリスタルクロット中の角閃石は,全てマグネシオホルンブレンドに分類された.これらの角閃石にPutirka (2016)の角閃石単相温度計を適用したところ,マグネシオホルンブレンドは~750-800℃,チェルマカイトは~870-950℃の温度をそれぞれ示した。クリスタルクロット中の角閃石は,全て低温側の温度を示した.また,角閃石と共存しうるメルトのSiO2含有量は,高温の角閃石で~60-65wt.%,低温の角閃石で~66-73wt.%と見積もられた.クリスタルクロット中の角閃石と共存するメルトのSiO2含有量は,およそ71-72wt.%と見積もられた.一方で,クリスタルクロット中に実際に含まれる粒間メルトのSiO2含有量は~68-72wt.%であった.この値は,低温の角閃石から見積もられた共存メルトの値と同等であった.
4.議論
先行研究より,雲仙平成噴火のマグマは,高温の無斑晶質マグマと低温のケイ長質マグマの2成分混合によって形成されたと考えられている.本研究で角閃石から見積もられた温度のうち,低温側の温度範囲は,先行研究で見積もられた低温マグマの温度と一致する.また,これらの低温角閃石より見積もられたメルトのSiO2含有量は,クリスタルクロット中の粒間メルトのそれと一致する.従って,クリスタルクロットの粒間メルトは,雲仙平成噴火の低温端成分メルトの組成を保存していると考えられる.一方で,高温側の角閃石より見積もられた温度は,先行研究で考えられた高温端成分マグマの温度よりも明らかに低い.また,角閃石斑晶から見積もられた温度では,高温と低温の2つのクラスターの間にギャップが見られる.以上のことは,雲仙平成マグマの形成において,高温・低温の2つの端成分マグマの他に,これまで考えられていなかった中温のマグマが寄与したことを示す.すなわち,雲仙平成噴火のマグマは,従来モデルで示された2成分混合ではなく,3成分混合で形成されたと考えられる.そこで,3つの端成分メルトの混合比率を見積もったところ,高温端成分(1050℃; Holtz et al., 2005, SiO2含有量~50wt.%; Browne et al., 2006)が~11wt.%, 中温端成分が~54wt.%,低温端成分が~35wt.%との結果を得た.この結果から,新しく見つかった中温端成分マグマの寄与が大きく,従来は主要成分と考えられていた高温マグマの寄与が比較的小さいことが分かった.本研究の結果を踏まえて,雲仙平成噴火のプレ噴火過程の新モデルを提案する.まず,少量の高温マグマが中温マグマだまりに貫入して混合した.続いて,その混合マグマが更に浅部マグマだまりに貫入し,低温マグマと混合した後,地表へと上昇した.角閃石分解縁の欠如から,この一連の過程は数日程度でおこったと考えられる.