14:30 〜 14:45
[SVC40-04] 富士登山者の詳細な動態把握の試み
キーワード:火山防災、登山者動態把握、富士山
2014年9月27日に発生した御嶽山の噴火では多くの登山客が犠牲となった.この噴火において救助・捜索活動は困難を極め,登山届などによる登山者の動態把握の難しさが改めて浮き彫りになった.近年携帯通信網の普及によって山の上からでも救助を求めることは可能となったが,火山災害の場合は重傷を負って自ら救助を求めることができない状況も考えられる.救助隊にとっては,あとどれくらいの救助対象がいるのかもどこにいるのかも判らない状況である.2018年1月23日には,群馬長野両県に跨る本白根山の噴火により火口近傍のスキー場を訪れていた1名が亡くなったほか,多くの方が負傷した.この噴火ではスキー客のおおよその人数は把握できていたが,やはり全員の正確な位置を把握しているわけではなく,危険な火口近傍にもかかわらず救助・捜索活動の速やかな打ち切りは難しい状況であった.
富士山も活火山であり,いつ噴火がおきても決して不思議なことではない.その富士山における年間の登山者数は20~30万人と言われ,ハイシーズンの週末などは登山道が人で溢れるほどである.富士山の噴火に備える上でこれらの登山者の動態を詳細に把握することは重要でありながらも困難な課題でもある.御嶽山の噴火をきっかけに民間の有志により始まった『富士山チャレンジ』ではこの登山者動態把握の課題を解決するため,また,安全で安心な登山を楽しんでもらうための様々な取り組みを行っている.我々もこの取り組みに参画し,登山者の安全確保に関する研究を実施している.
富士山チャレンジでは2015年よりビーコン配布による登山者動態把握実証実験を繰り返しており,毎年多くの富士登山者にモニター協力をお願いしている.この実証実験を通して,登山者ひとりひとりの現在位置をある程度の範囲で追跡できる仕組み作りを進めている.用いるのはビーコンと呼ばれるBluetoothを使った硬貨サイズの発信機である.識別情報を持つこの小さな発信機を登山者に配布し下山まで携帯してもらう.登山道の要所にはレシーバーが設置されており登山者が接近すると接近したことが,そこから離れると離れたことが検知・認識され,その情報はサーバーに送信され集約される.レシーバーの設置間隔を密にすればそれだけ詳細に登山者の位置をリアルタイムに把握することが可能となる.こういった動態把握は例えば携帯通信端末を追跡することでも可能であろうが,携帯電話を持たない人,バッテリー切れや節約が理由で電源が入っていない人もいるかもしれない.既存のインフラによるシステム構築とは大きく異なり,登山者一人一人にビーコンを配布する能動的な仕組み作りは「一人の漏れもない」登山者動態把握を目指す上で不可欠である.
2015年から始まったビーコン実証実験は,最初の年は105名,2016年は553名とモニター数を増やし,2017年の実験では2368名のモニターの協力を得た.登録時に簡単なアンケートにも協力を頂いており,初めて富士山を登山される方が54%と半数以上を占めると同時に,40%の方が登山の初心者であるというような,富士山独特の傾向も具体的に数値として浮かび上がってきた.また,登山届の提出率や登山保険の加入率が30%を下回る結果は,登山届による入山者の管理の難しさを改めて感じさせた.ビーコンによる追跡からは,ご来光の時間帯での山頂滞在者の割合や登山者の平均的な登山時間や区間タイム・登頂率など,様々なデータが得られている.こうしたデータは登山道の渋滞解消など,防災以外への活用も見込める.
肝心のビーコンの検知率は,平均値としては吉田口登山道で73%程度,富士宮口登山道で約77%,須走口登山道では約83%という結果となった.地点ごとの検知率をみると一部に著しく検知率の悪い点があり,これはレシーバー側にバッテリー等の機材トラブルがあったことが原因であると考えらる.また,下山道のチェックポイントとして少し距離の離れた登山道のレシーバーを利用している関係上,下山時の検知率が下がっていることも考えられる.正常に動作しているレシーバーについてもビーコン不良等により100%の検知率が実現できていないことから,今後はレシーバーの設置デザインやハードウェア全体の機能改善などにより100%の検知を目指していく必要がある.
登山者の位置の詳細な把握は火山災害発生時に大変有用な情報となる.今回の実験では,モニター協力者が自分の携帯端末で現在位置や登山道の混雑状況などの情報を閲覧できるサービスを提供するとともに,気象情報の提供も行った.富士山は火口の位置が噴火直前までわからない火山である.こうしたリアルタイムの情報提供システムを利用してビーコンで追跡した登山者の位置に応じた適切な避難ルートの指示をピンポイントで送ることも可能である.富士山における登山者動態把握のためにはまだまだ残された課題は多いが,様々な効果を生むポテンシャルをもつこの富士山チャレンジプロジェクトを引き続き推進していく.
富士山も活火山であり,いつ噴火がおきても決して不思議なことではない.その富士山における年間の登山者数は20~30万人と言われ,ハイシーズンの週末などは登山道が人で溢れるほどである.富士山の噴火に備える上でこれらの登山者の動態を詳細に把握することは重要でありながらも困難な課題でもある.御嶽山の噴火をきっかけに民間の有志により始まった『富士山チャレンジ』ではこの登山者動態把握の課題を解決するため,また,安全で安心な登山を楽しんでもらうための様々な取り組みを行っている.我々もこの取り組みに参画し,登山者の安全確保に関する研究を実施している.
富士山チャレンジでは2015年よりビーコン配布による登山者動態把握実証実験を繰り返しており,毎年多くの富士登山者にモニター協力をお願いしている.この実証実験を通して,登山者ひとりひとりの現在位置をある程度の範囲で追跡できる仕組み作りを進めている.用いるのはビーコンと呼ばれるBluetoothを使った硬貨サイズの発信機である.識別情報を持つこの小さな発信機を登山者に配布し下山まで携帯してもらう.登山道の要所にはレシーバーが設置されており登山者が接近すると接近したことが,そこから離れると離れたことが検知・認識され,その情報はサーバーに送信され集約される.レシーバーの設置間隔を密にすればそれだけ詳細に登山者の位置をリアルタイムに把握することが可能となる.こういった動態把握は例えば携帯通信端末を追跡することでも可能であろうが,携帯電話を持たない人,バッテリー切れや節約が理由で電源が入っていない人もいるかもしれない.既存のインフラによるシステム構築とは大きく異なり,登山者一人一人にビーコンを配布する能動的な仕組み作りは「一人の漏れもない」登山者動態把握を目指す上で不可欠である.
2015年から始まったビーコン実証実験は,最初の年は105名,2016年は553名とモニター数を増やし,2017年の実験では2368名のモニターの協力を得た.登録時に簡単なアンケートにも協力を頂いており,初めて富士山を登山される方が54%と半数以上を占めると同時に,40%の方が登山の初心者であるというような,富士山独特の傾向も具体的に数値として浮かび上がってきた.また,登山届の提出率や登山保険の加入率が30%を下回る結果は,登山届による入山者の管理の難しさを改めて感じさせた.ビーコンによる追跡からは,ご来光の時間帯での山頂滞在者の割合や登山者の平均的な登山時間や区間タイム・登頂率など,様々なデータが得られている.こうしたデータは登山道の渋滞解消など,防災以外への活用も見込める.
肝心のビーコンの検知率は,平均値としては吉田口登山道で73%程度,富士宮口登山道で約77%,須走口登山道では約83%という結果となった.地点ごとの検知率をみると一部に著しく検知率の悪い点があり,これはレシーバー側にバッテリー等の機材トラブルがあったことが原因であると考えらる.また,下山道のチェックポイントとして少し距離の離れた登山道のレシーバーを利用している関係上,下山時の検知率が下がっていることも考えられる.正常に動作しているレシーバーについてもビーコン不良等により100%の検知率が実現できていないことから,今後はレシーバーの設置デザインやハードウェア全体の機能改善などにより100%の検知を目指していく必要がある.
登山者の位置の詳細な把握は火山災害発生時に大変有用な情報となる.今回の実験では,モニター協力者が自分の携帯端末で現在位置や登山道の混雑状況などの情報を閲覧できるサービスを提供するとともに,気象情報の提供も行った.富士山は火口の位置が噴火直前までわからない火山である.こうしたリアルタイムの情報提供システムを利用してビーコンで追跡した登山者の位置に応じた適切な避難ルートの指示をピンポイントで送ることも可能である.富士山における登山者動態把握のためにはまだまだ残された課題は多いが,様々な効果を生むポテンシャルをもつこの富士山チャレンジプロジェクトを引き続き推進していく.