日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 コンベンションホールA(CH-A) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:大倉 敬宏横尾 亮彦

15:30 〜 15:45

[SVC41-07] マグマ貫入レートから見る阿蘇火山の噴火活動

*大倉 敬宏1 (1.京都大学・理・火山研究センター)

キーワード:阿蘇火山、マグマ噴火、水蒸気噴火、マグマ供給レート

阿蘇火山の中岳第一火口では、2014年11月25日から始まったマグマ噴火が2015年5月まで継続した。その後は火口内で水蒸気噴火を繰り返す様式へと移行し、2015年9月14日と10月23日には少量のマグマが関与した水蒸気噴火が発生した。そして、その後の水蒸気噴火活動は2016年3月まで継続した。2016年4月16日の熊本地震本震後にごく小規模な噴火が発生したが、地震後の火山活動の高まりはしばらくの間認められなかった。そして2016年10月8日に爆発的噴火が発生し、噴火活動が終了した。

 これら一連の噴火活動は、火口周辺に設置されたGPS、磁力計、広帯域地震計、空振計など捉えられた。ここでは、2014年11月マグマ噴火と2015年9月水蒸気噴火それぞれに先行した事象の類似点と相違点を整理し、両噴火モデル構築の一助とする。

 2014年マグマ噴火に先行して、2008年から2014年にかけてマグマ溜まり収縮率の減少、2014年7月~2014年11月にはマグマ溜まりの膨張を示す地殻変動がGPS観測でとらえられた。また、また、2014年8月からは中岳火口直下約1kmのクラック状火道を震源とする長周期微動の振幅および発生頻度が徐々に大きくなり、固有周期も短くなっていった。この長周期微動の消長は、火口底の小火孔の温度変化とよい対応を示す。また、10月20日ころからは、長周期微動の振幅とともに、火口直下を震源とする短周期連続微動の振幅も増大した。電磁気観測においては、2013年9月~2014年1月に地下200m以浅の熱水だまりでの蓄熱を示す全磁力変化が、2014年10月20日以降には火口地下極浅部の熱消磁による地磁気変化が観測され11月25日の噴火にいたる。

 2015年水蒸気噴火にも、マグマ溜まりの膨張を示す地殻変動、長周期微動振幅の増大と短周期化、短周期連続微動の振幅増大が先行現象として捉えられている。マグマ噴火時との差異は、湯溜まり(火口湖)の存在と火口浅部のゆるやかな熱消磁である。

 マグマ溜まりの体積変化量と火口からのガス放出量をもとにしてマグマ溜まりへのマグマ貫入レートを計算したところ、2014年7月~2014年11月と2015年7月~2015年9月の両期間での値は等しかった。しかし、マグマ噴火の前の2008~2014年には貫入レートが徐々に増え、マグマ溜まりの収縮がゆっくりと膨張に転じたことが明らかになった。また、貫入量増加に伴いガス噴出量も徐々に増加していた。このゆっくりとしたガス放出量の増加がマグマ噴火の前の湯溜まり消失に繋がった可能性がある。

  2016年10月の爆発的噴火の前にもこれまでの噴火と同じように、マグマ溜まりの膨張、長周期微動の活発化、短周期連続微動の振幅増大が前兆現象として観測された。このときのマグマ貫入レートはこれまでと同じであり、2015年水蒸気噴火の前と同じく、急激な熱消磁は観測されていない。
 これらのことから,マグマ貫入レートの時間変化と浅部の熱状態の変化(地磁気、湯溜まり温度など)をモニターすることが噴火様式推定のためには特に重要であることが示唆される。