日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月23日(水) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールA(CH-A) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:寺田 暁彦山田 大志

09:00 〜 09:15

[SVC41-37] 草津白根火山・本白根山で2018年1月23日に発生した噴火 -地球物理学的観測からの示唆-

*寺田 暁彦1神田 径1小川 康雄1青山 裕2山本 希3筒井 智樹4大倉 敬宏5野口 里奈1 (1.東京工業大学火山流体研究センター、2.北海道大学地震火山研究観測センター、3.東北大学地震噴火予知研究観測センター、4.秋田大学国際資源学部、5.京都大学火山研究センター)

キーワード:水蒸気噴火、草津白根火山、本白根火砕丘群、鏡池北火砕丘、2018年1月23日噴火

草津白根火山・本白根山の鏡池北火砕丘で2018年1月23日に発生した噴火は,本白根山としては有史以来の事象であった.本白根山は3000年前に形成された単成火山と考えられてきたが(例えば早川・由井,1989),最近の地震観測(森・他,2006),地殻変動観測(寺田・他,2011),および地質調査(例えば吉本・他,2013;濁川・他,2014:亀谷・他,2015など)の進展により,今後も噴火し得る活動的な火砕丘としての認識が深まりつつあった.本発表では,これまでに蓄積されていた本白根山に関する研究実績を紹介しつつ,2018年1月23日に発生した噴火について,地殻変動と地下構造の観点から議論する.

東京工業大学は,本白根山の北 2 km に位置する白根火砕丘を観測対象として,湯釜火口周辺 1 km の範囲に傾斜計を5台設置していた.これらの傾斜計によれば,2018年1月23日09:58:58 頃から湯釜南方が隆起する変動が一斉に観測され,10:02:10 前後に反転した.本学がKSR(レストハウスデータ中継局,新火口列から1.1 km)に設置していた空振計に10:02:13 頃から顕著な振動波形が観測されている.すなわち,噴火が開始したのは 10:02:10 頃であり,その前後に,地下浅部での圧力増加に続いて圧力緩和が進行したと考えられる.鉛直クラックを新火口列直下に仮定すれば,火口直下の海抜 1000 m(地表面下1000 m)付近において約2分間で 42.5 万 m3 の体積増加,その後約8分間で 30 万 m3 の体積減少が起きたと計算される.体積変化量は火砕物噴出量と比較して十分に小さく,体積変化に気相が関与していると考えられる.

一方で,本学が湯釜火口湖周辺4カ所に設置していたGNSS 連続観測点では,日値で見る限り,今回の噴火前後で明確な地殻変動は認められない.これは,噴火直前に進行した地殻変動による隆起は,引き続く沈降変動によりその大部分が消費されたと解釈でき,傾斜変動に基づく地盤変動モデルからの計算結果に矛盾しない.また,2014年春の湯釜周辺の隆起変動が終息して以降,同地域では緩やかな沈降が継続しており,2018年1月23日噴火に先行する地盤変動は不明瞭である.

本学が湯釜火口湖周辺6カ所に設置していた地震観測網によれば,2017年は一か月間に数個の割合で震源決定されるイベントが発生しており,そのうち,本白根周辺地域に求まるのは月1-2個程度であった.イベント数が少ないため震源分布の詳細な議論は難しいが,傾斜観測から推定されたクラックは,震源域の上端付近に位置する.また,震源域は2018年新火口列よりも北側に約 500 m 離れている.

本白根火砕丘では,白根火砕丘・湯釜周辺で観測網が整備されて以降,群発地震活動が年に2-3回程度の割合で観測されていた.近年の地質調査でも,最新のマグマ噴火が1500年前に発生したことが判明していた.これらの観察事実から,わずかな地表面温度異常の有無をも検出する目的で,日射の影響がほとんどない夜間に空中赤外線観測を噴火の3か月前(2017年11月5日18 - 19時頃)に実施していた.空間分解能 0.9 m/pixel,温度分解能 0.2 ℃で作成した赤外線3Dモデルを検討したが,鏡池北火砕丘周辺の地表面温度に異常は認められなかった.

新火口列から南に 2 km の場所で行われた地熱探査目的の掘削結果によれば,地殻変動が進行した地表面下 1000 m 付近は変質した新第三紀火山岩類で構成され,地中温度は約 150 - 200 ℃,変質鉱物としては緑泥石を含む(倉橋,1993).その下には開口亀裂を含む透水性の高い領域が存在し,これが熱水貯留層に対応すると考えられている.比抵抗構造調査によれば,本白根山直下の海抜 1000 m 前後より下層が低比抵抗,上層は高比抵抗で,さらに最浅部にはキャップロックに対応すると思われる低比抵抗層が存在する(松永・他,2017).このような地下構造の特徴と,噴火前後の地殻変動との関係を検討することが,噴火発生機構を考えるために重要と思われる.

謝辞 噴火後の諸対応にあたり,諸機関から多数のご支援を賜りました.日頃からの我々の火山観測へのご理解も含めて,厚く御礼申し上げます.