日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC27] 雪氷学

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 303 (3F)

コンビーナ:縫村 崇行(東京電機大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)、座長:永井 裕人(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[ACC27-03] PALSAR-2後方散乱強度変化と積雪深との関係

*永井 裕人1山口 悟2山下 克也2鹿島 真弓3 (1.早稲田大学 教育学部、2.防災科学技術研究所、3.ESRIジャパン株式会社)

キーワード:合成開口レーダ、積雪、後方散乱強度

地方自治体にとって豪雪は非常に大きな経済的負担を与えている。新潟県管理道路の除雪費は年間100億円に迫るなど、除雪車の運用は多額の税金が投入されるが、その運用計画(ルート選択や運用回数)には作業領域全体の積雪の空間分布が客観的に反映されていない。しかも年によって降雪の頻度や量が変わるため、同じ計画を毎年実施することは合理的でない。
 このような豪雪地域の社会課題の解決には積雪深空間分布の把握が重要である。従来の衛星搭載の合成開口レーダー(SAR)による積雪量推定はC-バンドを用いたものが多く、波長が短いことにより、液体水分を含む積雪層への適応が大きなハードルとなっていた(Bernier et al., 1999; Li et al., 2017; Rignot et al., 2001; Shi et al., 1993; Shi and Dozier, 1995)。しかしL-バンドSARでは、積雪深と後方散乱強度の相関関係について、乾雪と想定される夜観測で負相関(雪が深いほど反射強度が小さくなる)であったものが、湿雪と確認された昼観測で正相関になることが示された(Nagai et al., 2018a, 2018b)。
 積雪にマイクロ波を放射した場合に後方散乱として受信する反射波は(1)露出面での表面散乱、(2)地面での表面散乱、(3)積雪層内における体積散乱の3通りに分類できる (Li et al., 2017)。さらに乾雪・湿雪によってマイクロ波の振る舞いは大きく異なる。浅い乾雪(水当量20 cm以下)はマイクロ波を良く透過するために体積散乱が非常に小さく、地面表面での反射が支配的である(Bernier and Fortin, 1998)。積雪が液体の水分を含むと、積雪粒子と水の誘電率の違いによって、後方散乱が著しく減少する(Shi et al., 1993; Shi and Dozier, 1995)。
 本研究では「だいち2号」搭載LバンドSARであるPALSAR-2について、積雪深推定に適した画像処理アルゴリズムの検討を実施した。まず、液体水分の影響を最小限に抑えるために夜間観測のデータを使用した。無雪期として2015/11/22, 2016/11/20, 積雪期として2018/01/28観測のデータを取得し、後方散乱強度(dB)変換し、0, 5, 10, 15...55画素の移動平均フィルタをそれぞれに実施した。11月平均画像と2016/11/20単シーンに対する積雪期画像の強度差分を求め、新潟大学が取りまとめる準リアルタイム積雪分布監視システム観測点(Iyobe and Kawashima, 2016)の地上計測値と統計値を比較した。
 その結果、10画素以上の移動平均フィルタでは、全ての場合において、r<-0.3, p<0.1%の負の相関関係を示し、フィルタの画素数を増加させるほど、相関係数は低下した。11月平均画像を単シーン画像では有意な差は生じなかった。強度差分と実測値との一次近似について、10画素以上の移動平均フィルタでは傾きはほぼ一定であった。
 このように厳冬期夜間のデータを用いることにより、高い負の相関を以てSARから積雪深を推定できる可能性が示された。より良い相関係数の積雪深マップを作成するためには移動平均フィルタを強く施す必要があるが、それに応じて粗く滑らかな見た目の積雪深マップになるため、用途に応じてフィルタを考慮する必要があるといえる。
 本発表ではこの他にも、他の季節を基準とした場合や、積雪内水分が多いと推定される融雪期昼観測についても、統計的解析を示し、SARを用いた積雪深推定手法についての議論を深める。

(引用文献)
Bernier, M., Fortin, J.-P., 1998. The potential of times series of C-Band SAR data to monitor dry and shallow snow cover. IEEE Trans. Geosci. Remote Sens. 36, 226–243.
Bernier, M., Fortin, J.P., Gauthier, Y., Gauthier, R., Roy, R., Vincent, P., 1999. Determination of Snow Water Equivalent using RADARSAT SAR data in eastern Canada. Hydrol. Process. 13, 3041–3051.
Li, H., Wang, Z., He, G., Man, W., 2017. Estimating snow depth and snow water equivalence using repeat-pass interferometric SAR in the northern piedmont region of the Tianshan Mountains. J. Sensors 2017.
Rignot, E., Echelmeyer, K., Krabill, W., 2001. Penetration depth of interferometric synthetic-aperture radar signals in snow and ice. Geophys. Res. Lett. 28, 3501–3504.
Shi, J., Dozier, J., 1995. Inferring snow wetness using C-band data from SIR-C’s polarimetric synthetic aperture radar. IEEE Trans. Geosci. Remote Sens. 33, 905–914.
Shi, J., Dozier, J., Rott, H., 1993. Deriving snow liquid water content using C-band polarimetric SAR. Proc. IGARSS ’93 - IEEE Int. Geosci. Remote Sens. Symp. 1038–1041.
Nagai, H., Watanabe, T., Tadono, T., Motohka, T., 2018a. Development of snow-depth map using ALOS-2. JpGU 2018 ACC28-04.
Nagai, H., Watanabe, T., Tadono, T., Motohka, T., 2018b. Feasibility assessment of SAR-derived snow-depth map for Japanese wet snow conditions. AGU2018 NH31D–1196.
Iyobe, T., Kawashima, K., 2016. Development of a quasi-real-time monitoring system for snow depth distribution in Japan. JSSI JSSE Jt. Conf. Nagoya 119.