[ACG37-P01] 冬季北極域における下向き長波放射の増加傾向についての考察
キーワード:北極温暖化増幅、JRA-55
近年、北極域での温暖化が顕著であり、観測データからは、1950年代以降の気温上昇速度が全球平均の約2倍であることが示されている。この特徴は「北極温暖化増幅」と呼ばれ、特に秋から冬にかけて顕著に現れている。先行研究によれば、地表面における熱エネルギー収支をもとにした解析から、北極域冬季の温暖化には下向き長波放射の増加が最も大きく影響していることが示唆されている。一方で、下向き長波放射が増加する要因については必ずしも明確には示されていない。本研究では、先行研究と同様の解析を行った上で、冬季の北極温暖化増幅において下向き長波放射の増加をもたらす要因について考察した。
解析には、気象庁55年長期再解析データ(JRA-55)を用いた。北緯60°以北の北極域を解析領域とし、日射の影響を無視できる11月から1月までの3ヶ月間の平均を取り、1988年から2018年までの30冬季分を解析した。先行研究とは異なるデータ、異なる期間ではあるものの、地表面温度の上昇には、下向き長波放射の増加が最も大きく影響していることが分かった。下向き長波放射は晴天放射と雲放射強制の2者に分けられるが、いずれも地表面温度の変化と整合的であり、どちらかと言えば晴天放射による影響の方が大きいことが分かった。晴天放射が増加する要因としては、大気中の水蒸気量の増加もしくはその他温室効果ガスの増加が考えられるが、温室効果ガス濃度の増加に伴う放射強制力の診断から、水蒸気量の増加が支配的であることが示唆された。また、定量的ではないものの、可降水量の変化と晴天時の下向き長波放射の変化は整合的であった。一方で、雲量の変化を高度別に解析した結果、下層雲量の増加量が最も大きく、雲放射強制の変化と整合的であった。以上より、下向き長波放射の変化は、大気中の可降水量および下層雲量の変化と整合的であるということが示唆された。可降水量および下層雲量が増加する要因として、海氷面積の減少に伴う正味の蒸発量の増加が考えられたが、JRA-55では、大気中の水収支の保存に問題があることから、更なる解析が必要である。
解析には、気象庁55年長期再解析データ(JRA-55)を用いた。北緯60°以北の北極域を解析領域とし、日射の影響を無視できる11月から1月までの3ヶ月間の平均を取り、1988年から2018年までの30冬季分を解析した。先行研究とは異なるデータ、異なる期間ではあるものの、地表面温度の上昇には、下向き長波放射の増加が最も大きく影響していることが分かった。下向き長波放射は晴天放射と雲放射強制の2者に分けられるが、いずれも地表面温度の変化と整合的であり、どちらかと言えば晴天放射による影響の方が大きいことが分かった。晴天放射が増加する要因としては、大気中の水蒸気量の増加もしくはその他温室効果ガスの増加が考えられるが、温室効果ガス濃度の増加に伴う放射強制力の診断から、水蒸気量の増加が支配的であることが示唆された。また、定量的ではないものの、可降水量の変化と晴天時の下向き長波放射の変化は整合的であった。一方で、雲量の変化を高度別に解析した結果、下層雲量の増加量が最も大きく、雲放射強制の変化と整合的であった。以上より、下向き長波放射の変化は、大気中の可降水量および下層雲量の変化と整合的であるということが示唆された。可降水量および下層雲量が増加する要因として、海氷面積の減少に伴う正味の蒸発量の増加が考えられたが、JRA-55では、大気中の水収支の保存に問題があることから、更なる解析が必要である。