日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG39] 陸域生態系の物質循環

2019年5月28日(火) 10:45 〜 12:15 301A (3F)

コンビーナ:加藤 知道(北海道大学農学研究院)、市井 和仁(千葉大学)、伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)、寺本 宗正(国立環境研究所)、座長:加藤 知道(北海道大学)

10:45 〜 11:00

[ACG39-07] ひまわり8号による広域植生モニタリングの実現性評価

*林 航大1市井 和仁1吉岡 博貴2村上 和隆3井手 玲子3奈佐原 顕郎4秋津 朋子4三浦 知昭5 (1.千葉大学、2.愛知県立大学、3.国立環境研究所、4.筑波大学、5.ハワイ大学)

キーワード:ひまわり8号、大気補正、PEN、MODIS、植生モニタリング、6SV

2015年7月に運用を開始した静止気象衛星ひまわり8号は,搭載された可視近赤外放射計(AHI; Advanced Himawari Imager)の可視・近赤外バンドの増加や空間分解能と観測頻度の向上などにより,新たに陸域観測への応用が期待されている.そのため,広域植生モニタリングに応用できれば,特に観測頻度の飛躍的な向上により,新規性の高いデ-タを提供することが可能になる.これにより,広範囲での植物フェノロジー変化の低労力かつ定量的な評価や,環境変動に対する陸域生態系の応答メカニズムの解明などへの活用が期待できる.
ひまわり8号データは大気上端(TOA; Top of atmosphere)における放射輝度及び反射率として提供されている.陸域植生モニタリングを行うためには,植生キャノピー上端(TOC; Top of canopy)での反射率を推定する必要がある.しかし,ひまわり8号データからTOC反射率を推定し検証する手法は確立されていない.特に,静止軌道特有の観測幾何条件がもたらすTOC反射率データの性質は分かっておらず,実利用に向けての大きな課題となっている.
本研究では,ひまわり8号/AHIデ-タを用いてTOC反射率データを構築し,静止軌道特有の観測幾何条件がもたらす性質を把握した上で,広域植生モニタリングへの有用性を評価することを目的とした.まず,ひまわり8号/AHIデータから放射伝達コード6SVを利用してTOC反射率を推定した.そして,陸域植生モニタリングネットワ-クであるPEN(Phenological Eyes Network)のサイトにおいて,サイト観測の半球分光放射計デ-タとTerra・Aqua衛星搭載MODISセンサによるTOA,TOC反射率データを用いて,NDVIやNrefなどの正規化指数データの日変化と季節変化を比較した.
ひまわり8号/AHIのTOA,TOC反射率データの相互検証としてTerra・Aqua/MODISのTOA,TOC反射率データ(MOD/MYD021KM, MOD/MYD09GA)と比較した結果,特に波長の短い可視域青や緑の波長帯では大気補正により決定係数r2が大幅に向上した.さらに、2衛星の太陽―センサ相対幾何条件が近いもののみ選択したところ,全波長帯で,両者のTOC反射率が1:1の関係に非常に近く,良好な一致となった.次に,PENサイトの半球分光放射計観測デ-タを含め,TOC反射率の季節変化を確認したところ,1年のうち前半(春・夏)はほぼ一致した.一方で,夏以降については,ひまわり8号のTOC反射率はMODISや現地観測(半球分光放射計観測)に比較して高かった.この理由としては,ひまわり8号の場合,日本域では,観測される反射光は後方散乱が卓越し,特に,南中高度が低くなる時期ほど後方散乱と前方散乱の強度の差が大きくなるためだと考える.また,NDVIなどの正規化指数は,地表面反射率の異方性効果の影響を効率的に軽減することができ,MODISと同程度で大まかな植物フェノロジーを捉えることを確認できた.本研究では,相互検証の結果,構築したひまわり8号TOC反射率データについては,観測条件に関して留意する必要があるものの,おおむね他データと一貫した反射率となった.今後は,ひまわり8号の時間分解能の高さにより陸域モニタリングがどの程度進展するかを検証する必要がある.