日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS13] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:田中 潔(東京大学)、森本 昭彦(愛媛大学)、速水 祐一(佐賀大学)、一見 和彦(香川大学瀬戸内圏研究センター)

[AOS13-P04] ジャカルタ湾の河川水の滞留時間

*森本 昭彦1Soeyanto Endro2速水 祐一3Sudaryanto Agus2Sachoemar Suhendar2 (1.愛媛大学、2.BPPT, Indonesia、3.佐賀大学)

キーワード:河川水の滞留時間、ジャカルタ湾

インドネシアの首都ジャカルタに面するジャカルタ湾は、東西約30㎞、南北約10㎞、最大水深20m程度の比較的浅く、ジャワ海に対し開放的な湾である。この湾には多くの河川を通じ大量の物質が供給されている。ジャカルタの下水道整備率は4%程度と低いため、大量の有機物、栄養塩、ごみなどがジャカルタ湾へと供給されている。そのため、湾内の海洋環境はかなり悪化していると予想されるが、観測データが多くなくその実態はつかめていない。我々は2015年の12月より、ジャカルタ湾の貧酸素の状況を把握するため年4回の海洋観測を実施している。その結果、1年を通じて湾内底層には貧酸素水塊が形成されていることが分かった。また、貧酸素の規模は河川流量が最も多い雨季には小さく、雨季から乾季や乾季から雨季の移行期に大きくなっていた。ジャカルタ湾のような熱帯では常に海面から加熱されているため、水温は鉛直一様になり成層しない。そのため密度成層は、河川からの淡水供給により決める。そのことを考えると、ジャカルタ湾の密度成層は雨季に発達することが予想され、成層の発達により酸素の鉛直輸送量の減少により貧酸素化することが期待されるが、実際はそのような状態になっていない。

 本研究では、ジャカルタ湾の成層構造の季節変化を理解するため、3次元の数値モデルを構築し河川水の年齢と各河川の湾内の塩分への寄与率の季節変化を明らかにすることを目的とする。数値モデルはPOMをベースとしたもので、ジャカルタの気象台の風データ、湾内へ淡水を供給する10河川の河川流量データ、開境界での4分潮の調和定数と観測された水温・塩分を境界条件として与え、2016年の計算を行った。計算された塩分分布は乾季を除き観測とよく一致していた。表層流を調べると、2,5月は湾の西から流入し東から流出、9, 12月は反対に東から流入し西から流出する流れとなっていた。湾内に流入する最大河川であるCitarum川が湾北東部に位置することから、河川流量の大きい2,5月には流入した淡水が速やかに湾外へ流出していることが予想された。湾内での河川水の滞留時間を把握するため、CART理論(Deleersnijder et al., 2001)によりジャカルタ湾内の河川水の年齢を計算した。雨季~乾季の移行期である5月の河川水の年齢は約15日、乾季である9月の河川水の年齢は約50日であった。季節による河川流量の違いだけでなく、このような河川水の湾内での滞留時間の違いが、密度成層構造と貧酸素水塊の形成に関係することが示唆された。発表時には、湾内へ淡水を供給する10河川の各河川が塩分にそれぞれどの程度寄与しているかについても紹介する。