[ACG39-P06] 衛星データを用いた機械学習によるアジアの陸域生態系の炭素循環の推定
キーワード:炭素循環、陸域生態系、機械学習
陸域生態系の炭素循環において, 植物の純一次生産量(Gross Primary Productivity; GPP)と生態系呼吸量(Ecosystem Respiration; RE)は重要な役割を担っている. これらの広域推定については、近年, 地上観測ネットワークの拡大, 衛星観測データの充実,機械学習の発達などにより, これら観測データを用いた機械学習による経験的な広域推定が多く行われるようになった[Yang et al. 2007; Jung et al. 2011; Kondo et al., 2015]. アジア地域においては,JapanFluxを始めとする種々のネットワークデータを統合し,サポートベクタ回帰を用いた広域推定が行われ, 推定結果の公開もされている[Ichii et al., 2017].
これら広域推定に広く用いられている衛星データはTerra, Aqua衛星搭載のMODISセンサプロダクトである. これまでの研究の多くで利用されてきたMODISデータセットは古いバージョンのCollection 5 (C5)であった。MODIS C5データはセンサ感度の経年変動を十分に補正できておらず、新たなバージョンCollection 6 (C6)によって改善された [Wang et al., 2012]. これまでの機械学習による広域推定の研究では主にC5データが使われており、C6データに更新した際の推定結果に及ぼす影響の評価には至っていない.
そこで本研究では、アジア域を対象にして、機械学習によるCO2フラックス広域推定において、MODISデータのバージョンアップ(C5からC6へ)を行い、推定されるCO2フラックスがどの程度変わり得るかを評価した。入力パラメータや推定アルゴリズムについては、既存研究[Ichii et al., 2017]をベースにし、MODISデータのバージョンアップのみを行うことでMODISデータのバージョンアップによる影響を観測サイトレベル・広域スケールの両面から評価した. アジアにおける54観測サイトについて、機械学習のトレーニング・テストに用いるMODISデータをC6に更新した。さらに、アジア広域におけるMODISデータセットもC6に更新した。モデルへの入力変数とした衛星データには, 植物の作用に影響を与える地表面温度や, 植生の密度を表す葉面積指数, 植生指数, 水指数などが含まれる. 出力変数として、GPPとNEE (Net Ecosystem Exchange; RE-GPP) を推定した.
地上観測サイトでの解析では, C5, C6を使用して作成した推定モデル(GPP, NEE)の結果に大きな違いはなかった. しかし, 植生タイプ別や地上観測サイト単位で解析すると, いくつかの植生タイプでC5とC6のモデル結果に違いを確認した. 次に, アジア広域での解析では, GPPの空間分布についてC5とC6の結果を比較すると, 両者類似していたが, 東南アジアなどの一部地域では傾向が異なった.さらに, 2000年から2015年のアジア広域でのGPPの長期的な変動の違いを比較すると, C6の方がC5による推定結果よりも増加傾向が高かった. 今後はどちらのGPPやNEEの経年変動推定結果が正しいかを, 他のモデルやデータセットを使用して解明する予定である.
謝辞: 本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-1701)により実施された
引用文献:
Ichii et al. (2017) JGR-Biogeosciences, 122, 767–795.
Jung et al. (2011) JGR-Biogeosciences, 116, G00J07.
Kondo et al. (2015) JGR-Biogeosciences, 120, 1226–1245.
Yang et al. (2007) Remote Sens. Environ., 110, 109-122.
Wang et al. (2012) Remote Sens. Environ., 119, 55–61.
これら広域推定に広く用いられている衛星データはTerra, Aqua衛星搭載のMODISセンサプロダクトである. これまでの研究の多くで利用されてきたMODISデータセットは古いバージョンのCollection 5 (C5)であった。MODIS C5データはセンサ感度の経年変動を十分に補正できておらず、新たなバージョンCollection 6 (C6)によって改善された [Wang et al., 2012]. これまでの機械学習による広域推定の研究では主にC5データが使われており、C6データに更新した際の推定結果に及ぼす影響の評価には至っていない.
そこで本研究では、アジア域を対象にして、機械学習によるCO2フラックス広域推定において、MODISデータのバージョンアップ(C5からC6へ)を行い、推定されるCO2フラックスがどの程度変わり得るかを評価した。入力パラメータや推定アルゴリズムについては、既存研究[Ichii et al., 2017]をベースにし、MODISデータのバージョンアップのみを行うことでMODISデータのバージョンアップによる影響を観測サイトレベル・広域スケールの両面から評価した. アジアにおける54観測サイトについて、機械学習のトレーニング・テストに用いるMODISデータをC6に更新した。さらに、アジア広域におけるMODISデータセットもC6に更新した。モデルへの入力変数とした衛星データには, 植物の作用に影響を与える地表面温度や, 植生の密度を表す葉面積指数, 植生指数, 水指数などが含まれる. 出力変数として、GPPとNEE (Net Ecosystem Exchange; RE-GPP) を推定した.
地上観測サイトでの解析では, C5, C6を使用して作成した推定モデル(GPP, NEE)の結果に大きな違いはなかった. しかし, 植生タイプ別や地上観測サイト単位で解析すると, いくつかの植生タイプでC5とC6のモデル結果に違いを確認した. 次に, アジア広域での解析では, GPPの空間分布についてC5とC6の結果を比較すると, 両者類似していたが, 東南アジアなどの一部地域では傾向が異なった.さらに, 2000年から2015年のアジア広域でのGPPの長期的な変動の違いを比較すると, C6の方がC5による推定結果よりも増加傾向が高かった. 今後はどちらのGPPやNEEの経年変動推定結果が正しいかを, 他のモデルやデータセットを使用して解明する予定である.
謝辞: 本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-1701)により実施された
引用文献:
Ichii et al. (2017) JGR-Biogeosciences, 122, 767–795.
Jung et al. (2011) JGR-Biogeosciences, 116, G00J07.
Kondo et al. (2015) JGR-Biogeosciences, 120, 1226–1245.
Yang et al. (2007) Remote Sens. Environ., 110, 109-122.
Wang et al. (2012) Remote Sens. Environ., 119, 55–61.