日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] Geomorphology

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

[HGM03-P04] Stream power modelに基づく岩盤河川の侵食速度と地形の発達段階

*今村 明弘1遠藤 徳孝1 (1.金沢大学)

キーワード:下刻侵食のモデル、実験地形、岩盤河川

岩盤河川は、沖積河川に比べ地形発達の速度が遅く、このことにより研究があまり進んでいないが、地殻変動や気候変動など長期の環境変化の履歴を反映していることが期待される。河川のプロファイル(縦断形)について、下刻を流域面積と河床勾配の2つの変数のみでモデリングするstream power modelが広く利用される。Stream power modelに含まれるベキ指数および係数は、岩質や気候などの条件に対して決まる定数であると一般に考えられている。この関数と、山岳の存在を維持する隆起(造山運動)の速さを組み合わせて、河床の標高の時間変化を表す式が構成される。

この式を自然河川に適用する際、隆起速度は通常不明であるため、隆起と下刻が釣り合う平衡状態を仮定することが多い。この場合、河床勾配が流域面積のベキ関数で表されるFlint則が得られる。自然河川の地形データに対してこのベキ関数近似を行うことをSlope-Area分析と呼び、これによりstream power modelにおける流域面積のベキ指数mと河床勾配のベキ指数nの比、m/nが求まる。このm/nの値は縦断形の凹面度を表す指標として用いられる。また、自然地形の場合、隆起速度が不明であることが多いため、実用上その値を必要としない平衡状態を仮定するのが一般だが、山岳河川の多くは平衡状態にないという報告もある。流域が非平衡から平衡に至る過程でのstream power modelの適用妥当性は、隆起速度に加えて下刻速度も不明であることから自然地形に対して検証を行うのは難しい。

本研究は、制御された外部条件のもとでの地形発達が観察可能なアナログ実験を用いて、侵食速度とstream power modelに基づく指数m、nを時間発展の観点から地形の外的要因と河川縦断形の平衡状態の関係を考察することを目的とする。約90cm×160cmの実験水槽に、砂とクレイを混合した岩盤模擬資料を敷きつめ、スプリンクラーからミスト状の降雨を供給する。地形データは、一定時間毎に雨を止めて写真測量によって得る。①安定していた流域を初期地形とし、2cmのベースレベル低下を一回与え、そこから約5時間実験をつづけた地形と、②一様な隆起速度(4.5 mm/h)に対して安定した流域地形が形成された後、より速い一定隆起速度(6.0 mm/h)を作用させ、再び地形が落ち着くまで約6時間実験をつづけた地形。

各実験の流路内での下刻速度の分布は、①:時間とともに下刻量が減少する分布、②:①と比べて下刻速度の時間による減衰は見られず、各時間同程度の下刻量を示す分布となった。それぞれの地形の時系列データから得られた下刻速度、河床勾配、流域面積を用いて、stream power model式に対して最小二乗法から求められたmnの値は、時間変化する結果となった。どちらの実験においてもmnの値を用いたm/n値は、時間とともに収束する結果を示した。

得られた係数値から平衡状態での下刻速度の理論値を求め、実測値との残差の二乗平均から、stream power modelに基づく侵食速度との乖離度を評価した。①は実験初期段階の方が非平衡度は小さく、時間が経過した後の方が非平衡度の増加が観察された。この結果は、侵食量が時間経過によって減衰、収束しているにもかかわらず得られた。一方で、②は時間経過とともに非平衡度が減少する結果を示した。このことから、流域内の隆起作用と下刻作用のつり合いによって縦断形が安定状態に向かう条件において、地形の動的平衡が達成され、stream power modelに基づく下刻速度が成立する。対して、侵食作用によってのみ地形が変化する①の条件では、下方への侵食力を発揮できる地形の侵食可能部が十分に残る時間では、下刻速度はstream power modelをよく満たすが、被侵食部の減少によって下方への侵食量が収束し、地形が静的平衡状態に近づく場合、下刻速度はモデル式から外れた結果となると考えられる。つまり地形発達の終盤段階(老年期、準平原)は、stream power modelに基づく下刻量が達成されない段階であることが示唆された。



Imamura and Endo, 2018, <アナログ実験河川の下刻速度、河床勾配および流域面積> JPGU 2018 Abstract