日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、兵頭 政幸(神戸大学 内海域環境教育研究センター)

[HQR05-P15] バイオマーカー分析による完新統の大阪平野の環境変遷の評価

*石野 有妃子1中村 英人1三田村 宗樹1 (1.大阪市立大学)

キーワード:バイオマーカー、大阪平野、環境変遷

1.はじめに
大阪平野の第四紀層における環境変動を明らかにするために,有孔虫や貝形虫などの微化石の群集解析が行われてきた.これらの微化石は海域の水域環境変遷を詳細に推定できる一方で,その産出は主に海成層に限られる.そこで,本研究では,陸成層にも保存されている生物由来の有機化合物を対象とするバイオマーカー分析を行い,桜宮東コアの完新統堆積物中の堆積有機物の起源と堆積環境を評価した.

2.分析方法
 桜宮東コアは,大阪市都島区の桜宮東公園(標高+0.5 m)で掘削された掘削長18 mのコアである.桜宮東コアは難波累層で構成され,下位より順に,中粒砂–泥層(SH-1:標高-19.50~-17.60 m),中粒砂–細粒砂層(SH-2:標高-17.60~–16.00 m),泥層(SH-3:標高-16.00~–8.90 m),泥–細粒砂層(SH-4:標高-8.90~–1.60m)の4ユニットに区分される(梅田ら, 2018 JPGU).また,大城(2018MS)によって有孔虫を用いた群集解析が行われた.泥層や砂層を含む20層準の試料を溶媒抽出し,得られた成分を分画・誘導体化してガスクロマトグラフィーにより分析・定量を行った.

3.結果と考察
 複数の起源を持つアルキル脂質(n-アルカン,n-アルコール,n-脂肪酸)や,陸上植物由来のフリーデリンやサワミレチンが検出された.アルキル脂質の炭素数分布と供給量の変化から海進・海退に伴う陸源有機物の寄与の変化や水域の生産の変動が明らかになった.n-アルカン,n-アルコールは主に陸上植物に由来する炭素数22(C22)以上の長鎖成分が卓越し,大和川の旧河谷に位置する桜宮東コアでは海成層でも河川からの陸源有機物の供給が卓越していたことが示唆される.その中でも,n-アルコールの長鎖成分はSH-1からSH-3下部にかけて減少しており,これは海進に伴う陸源有機物の供給量の減少,すなわち内湾の拡大に伴い陸源有機物を供給する河口が後退したことを反映していると考えられる.また,SH-2(8ka)の陸源有機物の供給が減少する層準においてサワミレチンが高い割合で含まれ,これは当時の沿岸域の植生を反映していた可能性がある. SH-3の上部(6.4kaの最高海水準期)以降徐々にn-アルコールの長鎖成分が増加しており,河川からの影響が強まっていたと推測される.SH-4では,水生植物が高い割合でもつ C23・C25 アルカンの割合(Paq)の増加が見られ,一時的に水生植物が生息するような環境が周囲に広がったと考えられる.対して,n-脂肪酸はプランクトンなどに由来する炭素数21(C21)以下の短鎖成分も多く,特にn-アルコールの長鎖成分が増加するSH-3上部から短鎖成分の割合も大きくなっていた.SH-3上部は大城(2018MS)によって閉鎖的環境であったと推定されている層準であり,有機物量の高い環境に多産する腐食性有孔虫(Bfrigida)が報告されている.したがって,SH-3上部は陸源有機物の供給増加に伴う水域の生物生産の増加で特徴づけられ,エスチュアリー循環の影響下で堆積したと考えられる.