日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 津波堆積物

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:千葉 崇(秋田県立大学生物資源科学部)、篠崎 鉄哉(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、石村 大輔(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理学教室)

[MIS12-P02] 不確実性を考慮したイベント堆積物の認定方法 -津波堆積物への適用-

*吉井 匠1田中 姿郎1伊藤 由紀1濱田 崇臣1松山 昌史1 (1.(一財)電力中央研究所)

キーワード:自然災害、津波堆積物、不確実性

地層中に存在するイベント堆積物は、その地点における長期の自然災害履歴を評価する上で重要な資料になりうる。特に、歴史記録に基づく評価が難しい低頻度かつ巨大な自然災害について、地質調査による発生頻度や現象規模の評価が期待されている。2011年の東日本大震災以降、イベント堆積物の一つである津波堆積物については精力的に研究がなされ、自治体のハザードマップ作成や、原子力発電所施設の津波評価などへの実務利用が進んでいる。一方、地質調査という側面から、堆積物調査結果には情報の不確実性が伴う。最も問題となるのは、イベント堆積物の形成起源の認定方法である。津波堆積物においては、主に既報告の津波堆積物との類似性を基に、津波堆積物である可能性が加点式で評価される。しかし、類似性が低い場合、他の自然現象としてどのようなものを想定するべきであるのか、その不確実性はどの程度想定するべきであるのかなど、実務利用において必要な情報が得られているとは言い難い。

 本研究では、堆積物の類似性に基づいたイベント起源の認定方法ではなく、複数のイベント起源である可能性を同時に定量的に評価する方法について検討を行った(図-1)。本研究で提案する認定方法では、最初に、調査地点にイベント堆積物を発生しうる自然現象を抽出し、各自然現象における流動・土砂移動の規模・特性(例えば、主流方向、流速、作用回数など)に基づき自然現象を分類する(以下、分類マップ)。次に、分類マップ作成に用いた規模・特性の項目に合わせて、イベント堆積物の調査項目の分類を行なう。ここで、イベント堆積物の情報の不確実性は、各分類内の調査項目の量・質に応じて確率分布として与える。最後に、確率分布に基づき堆積物情報を分類マップにプロットすることにより、各種自然現象および津波堆積物情報がそれぞれ不確実性を有する形で定量的に整理・可視化することができる。

 提案した認定方法を、試行的に、津波堆積物の一般的な特徴を有するイベント堆積物に適用した。ただし、堆積物から推測される情報の不確実性については現時点で不明であるため、仮想的な分布を与えた。認定方法を適用した結果、イベント堆積物から得られる情報は、津波および洪水との中間付近に中央値が位置し、分布範囲は両自然現象と重複した。堆積物から得られた情報の不確実性を小さくした場合、堆積物情報の分布範囲は狭まるものの、分布範囲は大きく変化しなかった。一方、イベント堆積物形成時の流速や作用回数に大きな不確実性を想定した場合、堆積物から得られる情報は高潮、津波、洪水にまで分布する形となった。津波堆積物認定においては同じく海水起源の自然現象である高波や高潮との差異が議論されてきたが、本結果は津波堆積物認定においては洪水堆積物との区別が重要であることを示唆している。一方、堆積物起因イベント推定においては、流速などの推定精度の重みが大きいことが示唆された。このような情報は、従来の類似性に基づく認定手法における認定項目の重み付けなどに活用することが可能であると考えられる。

 今後本手法を実務適用していくには、分類マップの作成方法の検討や、堆積物情報の不確実性の評価を行なう必要がある。