日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS19-P13] 後期更新世におけるモンゴル北部の環境変動復元:ダラハド盆地湖成層の化学分析

大野 優美子1内藤 さゆり1、*勝田 長貴1村上 拓馬3落合 伸也2長谷部 徳子2川上 紳一4 (1.岐阜大学教育学部、2.金沢大学環日本海域環境研究センター、3.公益財団法人北海道科学技術総合振興センター幌延地圏環境研究所、4.岐阜聖徳学園大学教育学部)

キーワード:モンゴル北部、lacustrine、氷河湖

新人(ホモ・サピエンス)の分布がアフリカからユーラシアに拡大したのは、約60~50 ka(1 ka = 1000年前)と考えられ、アラビア半島からバイカル湖に至る北ルートは、ユーラシア拡散の主要な移動経路とひとつとされている(Goebel 2007)。新人がバイカル湖周辺に到達したのは約45~35 kaとされており、新人と旧人が交錯した場と時代の陸域環境復元は、人類進化の理解の上で不可避な課題である。こうした背景のもと、本研究はモンゴル北部・ダラハド盆地の湖成層の化学分析を行い、過去120 kaの環境変動復元を行った。
 分析試料コアは、ダラハド国際掘削計画(DDP-2010)で採取された長尺コアDDP10-3(全長164.5 m、海抜1500.4 m)である(Krivonogov et al. 2012)。本研究では、非破壊μ-XRF測定用として連続採取された長さ1 mのUチャンネルコア試料と、バルク分析用として3 cm毎に分取された試料がそれぞれ用いられた。Uチャンネル試料は、凍結乾燥後に樹脂で固化し、研磨剤で平滑化した切断面を層準に沿ってμ-XRF連続測定を行った。得られたXRF画像データは、層理面に沿って一次元データに変換された(Katsuta et al. 2003, 2007)。一方、バルク分析については、約160 試料を凍結乾燥した後、メノウで粉砕混合したものを準備し、ガラスビード法・XRF-WDとXRD定量分析により、主要元素と構成鉱物の含有量が求められた(Katsuta et al. 2017; Murakami et al. 2010)。また、堆積物の粒径分析は、堆積物の粒度分析は、レーザー回折・散乱法で行われた。DDP10-3の堆積年代は、深度16.5 mまでが土壌と植物片の14Cで、深度16.5 m以深を古地磁気年代層序により決定し、平均堆積速度は1.13 m/kyr、過去約120 kaの堆積記録と推察される。
 過去120 kyrの記録は、約90~75 kaと約40~15 kaで顕著な炭酸塩の欠乏が認められる。ダラハド盆地は、盆地北西部のShishhid渓谷における山岳氷河の発達により、氷期に氷河堰止湖(氷河湖, 水深約200 m)の形成が地形調査で確認されており(Krivonogov et al. 2012)、今回得た2つの期間は寒冷化に伴う山岳氷河の発達とそれに伴う氷河湖成立を意味する。約50~10 ka におけるMn含有量の増加は、寒冷化に伴う鉛直混合の強化で、溶存酸素濃度の増加によって説明することができ、氷河湖成立を支持する。一方で、堆積物中の粒度は、約75~15 kaで一時的に粗粒化を示し、数千年間隔で生じた北大西洋地域のダンスガード・オッシュガー(DO)サイクルやハインリッヒ(H)イベントとおおよそ対比することができる。ダラハド盆地を含むモンゴル北部からバイカル湖における山岳地帯には、最終氷期に氷河が発達し、それらの一時的な融解によって、流域から砕屑物が流入してくることが知られている(Katsuta et al. 2018)。したがって、堆積物中の粒度変動は、DOサイクルやHイベントのような数十年で約10°Cの急激な温暖化に伴う山岳氷河融解を意味するものと考えられる。退氷期におけるDDP10-3堆積物には、約13.8 ka以降から方解石の年縞が発達する。これは、湖水位が低下し、塩濃度が上昇したことに起因しており、その年縞計数は約270枚(年)であった。従って、大陸内における最終氷期から完新世への移行は、氷床や深海コアで観察される14.8~11.5 ka(3200年)に比べて急激に生じたと推察される。