[M-IS19] 古気候・古海洋変動

[MIS19-P26] 樹木年輪セルロースの酸素同位体比による立山の過去400年間の夏季モンスーン復元

*佐野 雅規¹、森 滉太¹、對馬 あかね²、李 貞³、安江 恒⁴、中塚 武^2,3 (1.早稲田大学人間科学学術院、2.名古屋大学、3.総合地球環境学研究所、4.信州大学)

キーワード：酸素同位体比、東アジアモンスーン、太平洋十年規模振動

近年、樹木年輪の酸素同位体比による気候変動の復元がアジア各地を対象として進められている。年輪酸素同位体比は、樹木が成長する夏季の水環境（具体的には、相対湿度と降水の酸素同位体比）によって規定されており、それゆえ夏季モンスーンの変遷を過去に遡って精度良く復元できる。本研究では、富山県の立山に自生するキタゴヨウ（Pinus parviflora var. pentaphylla）から取得した年輪酸素同位体データに基づき、過去400年間にわたって夏季の相対湿度を復元するほか、既存の古気候データと比較することで、夏季モンスーンの時空間変動を把握することを目的とした。
　立山の標高1500mにおいて2016〜2017年に収集した数十個体のコアサンプルを分析に用いた。最初に、年輪幅の経年変動パターンを個体間で比較して年輪の形成年代を確定させたのち、年輪数が比較的多い5個体を同位体分析用のサンプルとして選別した。次いで、樹軸方向に1mm厚の薄板を作成したうえで、化学処理によってセルロースを抽出した。その後、顕微鏡を用いてセルロース板から年輪を1枚ずつ切り分け、熱分解式の元素分析装置を連結させた同位体比質量分析計で年輪セルロースの酸素同位体比を測定した。
　得られた5個体の時系列は、酸素同位体比の経年変動が過去400年間にわたって個体間で良く同調しており、共通の気候因子が同位体比の変動を規定していることが分かった。全ての時系列を統合して得た標準年輪曲線を気象観測データと比較した結果、酸素同位体比は4〜6月の相対湿度に対して負の有意な相関を示したほか、成長が旺盛な6月に特に高い相関が認められた。主に梅雨期を含む初夏の相対湿度を反映している立山の年輪酸素同位体比を、同じく夏季の相対湿度を反映している屋久島の年輪データと比較したところ、PDO指数が負（正）の時に両者の相関が上昇（下降）する特徴が検出された。両地点が南北に位置していることから、梅雨期の湿度がPDOの影響を受けて、南北間で同調する時期としない時期に分かれる可能性が示唆された。