[O08-P05] 質問の出るジオサイト・出ないジオサイト:男鹿半島・大潟ジオパークの例
キーワード:地球科学認識、ジオパークガイド
1.はじめに
演者は、男鹿半島・大潟ジオパークのガイド養成講座の現地研修会を参与観察した際、参加者から講師に向けて質問が多く出されるジオサイトとそうでないサイトがあるように感じた。また、ジオサイトで講師による解説が行われている際、参加者の多くが非言語/非音声メッセージ(表情、視線)により、解説内容について関心を持っていないと思われる場面があることに気づいた。後者について客観的なデータとして得ることができていないが、前者については5th International UNESCO Conference on Geoparksにて、どのような質問が参加者からなされたかについて一部発表した(Kawamura、2012)。現在、この会議のAbstractはウェブサイトに掲載されていないので、内容を再整理して示すとともに、ジオパークを訪問する見学者に対する解説の在り方を議論する基礎資料としたい。
2.調査の実施
2011年に実施された男鹿半島・大潟ジオパーク推進協議会主催のガイド養成講座に同行し、現地研修での講義の様子を、許可を得てビデオで記録した。音声記録から、参加者(ガイド希望者)により質問された内容をジオサイトごとに抽出した。
3.調査結果
参加者はすべて成人であった。参加者から比較的質問が多く出された対象物(所在するジオサイト)は以下の通りである。
化石を含む地層の露頭(西黒沢、安田、鵜ノ崎)、火口(寒風山)、二ノ目潟のマール(八望台)、グリーンタフの露頭(椿)。
一方、質問が比較的少ない対象物(ジオサイト)は以下の通りである。
生痕化石(潮瀬崎)、花崗岩の露頭(入道崎)、溶結凝灰岩の露頭(入道崎)、凝灰岩(椿)、テフラの露頭(安田)、石灰華の露頭(男鹿温泉)、岩脈の露頭(入道崎の鬼の俵ころがし、戸賀の男鹿水族館横の露頭、潮瀬崎)、断層地形(男鹿温泉)、海岸段丘(入道崎)、海食洞(加茂青砂のカンカネ洞)、湧水(瀧ノ頭)。
4.質問内容の分析
現地での滞在時間や参加者数がジオサイトごとに異なるため、質問数の多寡を議論することはできない。そこで質問内容に焦点を当てて質的分析を行う。
質問が多かったジオサイトで出された内容を見ると、観察対象物の名称を尋ねるものが多い。例えば、化石の名称を聞く、などといったものである。これは参加者が対象物を化石と認識し、化石に属する知識をさらに得ようとする質問行動である。
一方、質問が少ないジオサイトの例には、溶結凝灰岩の露頭がある。凝灰岩は中学校理科の学習内容であるので、解説によりおおむね理解してもらえると期待できる。しかし、火砕流堆積物である溶結凝灰岩の解説には、カルデラ、大規模噴火、溶結作用といった高校理科の地学の内容が含まれる。このため、地球科学的な概念の理解がなされてから、ようやく溶結凝灰岩の理解に至ると思われる。このように、岩石の理解に複数の科学概念が必要とされる場合、概念理解に専念するだけで現地での研修が終わってしまい、対象物そのものについての知識を深めようとする質問には至らなかった可能性がある。
5.より良いジオサイト解説のための視点
化石露頭などのジオサイトでの解説の場面では、対象物(化石)の認知が見学者にとって容易であるので、ガイドは知識伝達でその目的を果たせる可能性がある。一方、概念理解が必要な対象物での解説には、知識伝達だけではなく、身近な事物・現象からの類推をもとにした解説が必要になる。その際、理解のために見学者が獲得すべき概念が多すぎると誤った概念を持たせてしまいかねないので、見学者が持つ知識内容・理解状況を見極めて解説方針をその場で立てる必要があるだろう。
演者は、男鹿半島・大潟ジオパークのガイド養成講座の現地研修会を参与観察した際、参加者から講師に向けて質問が多く出されるジオサイトとそうでないサイトがあるように感じた。また、ジオサイトで講師による解説が行われている際、参加者の多くが非言語/非音声メッセージ(表情、視線)により、解説内容について関心を持っていないと思われる場面があることに気づいた。後者について客観的なデータとして得ることができていないが、前者については5th International UNESCO Conference on Geoparksにて、どのような質問が参加者からなされたかについて一部発表した(Kawamura、2012)。現在、この会議のAbstractはウェブサイトに掲載されていないので、内容を再整理して示すとともに、ジオパークを訪問する見学者に対する解説の在り方を議論する基礎資料としたい。
2.調査の実施
2011年に実施された男鹿半島・大潟ジオパーク推進協議会主催のガイド養成講座に同行し、現地研修での講義の様子を、許可を得てビデオで記録した。音声記録から、参加者(ガイド希望者)により質問された内容をジオサイトごとに抽出した。
3.調査結果
参加者はすべて成人であった。参加者から比較的質問が多く出された対象物(所在するジオサイト)は以下の通りである。
化石を含む地層の露頭(西黒沢、安田、鵜ノ崎)、火口(寒風山)、二ノ目潟のマール(八望台)、グリーンタフの露頭(椿)。
一方、質問が比較的少ない対象物(ジオサイト)は以下の通りである。
生痕化石(潮瀬崎)、花崗岩の露頭(入道崎)、溶結凝灰岩の露頭(入道崎)、凝灰岩(椿)、テフラの露頭(安田)、石灰華の露頭(男鹿温泉)、岩脈の露頭(入道崎の鬼の俵ころがし、戸賀の男鹿水族館横の露頭、潮瀬崎)、断層地形(男鹿温泉)、海岸段丘(入道崎)、海食洞(加茂青砂のカンカネ洞)、湧水(瀧ノ頭)。
4.質問内容の分析
現地での滞在時間や参加者数がジオサイトごとに異なるため、質問数の多寡を議論することはできない。そこで質問内容に焦点を当てて質的分析を行う。
質問が多かったジオサイトで出された内容を見ると、観察対象物の名称を尋ねるものが多い。例えば、化石の名称を聞く、などといったものである。これは参加者が対象物を化石と認識し、化石に属する知識をさらに得ようとする質問行動である。
一方、質問が少ないジオサイトの例には、溶結凝灰岩の露頭がある。凝灰岩は中学校理科の学習内容であるので、解説によりおおむね理解してもらえると期待できる。しかし、火砕流堆積物である溶結凝灰岩の解説には、カルデラ、大規模噴火、溶結作用といった高校理科の地学の内容が含まれる。このため、地球科学的な概念の理解がなされてから、ようやく溶結凝灰岩の理解に至ると思われる。このように、岩石の理解に複数の科学概念が必要とされる場合、概念理解に専念するだけで現地での研修が終わってしまい、対象物そのものについての知識を深めようとする質問には至らなかった可能性がある。
5.より良いジオサイト解説のための視点
化石露頭などのジオサイトでの解説の場面では、対象物(化石)の認知が見学者にとって容易であるので、ガイドは知識伝達でその目的を果たせる可能性がある。一方、概念理解が必要な対象物での解説には、知識伝達だけではなく、身近な事物・現象からの類推をもとにした解説が必要になる。その際、理解のために見学者が獲得すべき概念が多すぎると誤った概念を持たせてしまいかねないので、見学者が持つ知識内容・理解状況を見極めて解説方針をその場で立てる必要があるだろう。