日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG25] 惑星大気圏・電磁圏

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、前澤 裕之(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科)、寺田 直樹(東北大学大学院理学研究科)

[PCG25-P06] 赤外ヘテロダイン分光による火星大気中間圏の地上観測によって得られた全球ダストストーム期間中の温度変化

*宮本 明歩1中川 広務1高見 康介1黒田 剛史1,3村田 功2寺田 直樹1吉田 奈央1鳥海 克成1青木 翔平4笠羽 康正1 (1.東北大学大学院理学研究科、2.東北大学大学院環境科学研究科、3.国立研究開発法人情報通信研究機構、4.ベルギー王立宇宙科学研究所)

キーワード:火星、大気中間圏、温度、赤外ヘテロダイン分光器

火星大気では、ダストストーム発生時そのダストが中間圏(高度70-80[km])まで上昇すると同時に、水蒸気も同高度まで輸送されていることがMars Expressの観測によって明らかにされている[Maltagliati et al.,2013 , Heavens et al.,2018]。この結果、高高度における水の光解離によりHが生成され、H散逸に直接繋がる。つまり、中間圏の現象が火星環境進化に影響を及ぼしうるという新たな発見であり、中間圏の詳細な理解が急務である。そこで私達は、波長分解能107(速度分解能10[m/s])を持つ東北大学ヘテロダイン分光器「MILAHI」を用いた地上観測で10μm帯のnon-LTE COemissionを観測することにより、高度70-80[km]火星大気中間圏のダストストーム期間中の全球平均温度変化を明らかにする。
観測は2018年6月(太陽黄経Ls=196 南半球春)全球ダストストーム中から11月(Ls=291南半球夏)までハワイハレアカラ山頂東北大観測施設0.6m望遠鏡に実装されたヘテロダイン分光器「MILAHI」を用いて行い、火星中心を空間分解能4秒角で観測している(火星視直径6月19.1秒角、11月10.7秒角) 。赤外レーザヘテロダイン分光による高度70-80[km]でのダストストーム期間中の連続観測は初めてである。
本研究では、観測で得られたemissionのドップラー幅によるkinetic temperature・線強度によるrotational temperatureの両方について温度を導出し[Sonnabend et al.,2008]、得られた結果を比較した。
解析の結果、kinetic temperatureでは6月(Ls=196)で150[K](68%信頼区間それぞれ-1σで122/+1σで189[K])、9月(Ls=240)で125[K](-1σで85/+1σで201[K])と、全球ダストストーム期間中からその終わりにかけて温度が低下したことが分かった。同高度においてダストが輸送されていない大気大循環モデル[Kuroda et al., 2005,2013,2015]の結果と比較すると、Ls=196で126-129[K]、Ls=240で132-135[K]と観測結果とは逆の傾向を示した。これは太陽光に依存するCO放射吸収が優位に働き、近日点(Ls=270)に近いLs=240において温度が上昇したと考えられる。しかし今回Ls=196の方が温度が高かったのは、やはりダストによって大気が温められたことが原因ではないかと考察した。
またrotational temperatureの観点から、ダストストーム時からおよそ1/2まで線強度の減少を検出し、kinetic temperatureと同様温度減少を示唆する結果が得られた。
この結果の妥当性検証のため、探査機MAVENの恒星掩蔽観測によって得られた結果とも比較する予定である。本講演では、今後の異なる高度での観測結果との比較などの見通しについても報告する