[PCG25-P09] ひさき衛星観測との比較を目指した木星内部磁気圏プラズマの動径方向拡散モデルの開発
キーワード:木星、ひさき衛星
惑星分光観測衛星ひさきは衛星イオの火山活動の変化に伴う木星内部磁気圏でのプラズマ増大・減少を捉えた。本研究は、木星内部磁気圏の複数のイオンおよび電子間の相互作用と動径方向輸送を理解することを目的とし、プラズマの質量及びエネルギーの収支と時間変化の追跡が可能な拡散モデルを開発した。また、このモデル結果とひさき衛星の観測と比較を行った。
木星第一衛星イオでは活発な火山活動があり、火山ガス起源のプラズマが内部磁気圏に放出される。プラズマは木星と共回転することでイオの公転軌道に沿ってドーナツ状に分布しており、イオプラズマトーラスと呼ばれている。木星内部磁気圏のプラズマは質量の9割が衛星イオの大気から供給され、木星の自転角運動量からエネルギーを得ながら動径方向に数十日の時間スケールで輸送される。また、輸送の過程で、衛星起源の重イオンプラズマ(O+,O2+,S+,S2+,S3+)は化学的な相互作用によって組成比、エネルギーが変化する[Delamere & Bagenal, 2003]。木星内部磁気圏におけるプラズマの質量とエネルギーの収支を知ることは、磁気圏のマクロな物理現象を理解する上で重要な課題である。
定常状態の木星内部磁気圏プラズマの動径方向分布モデルはVoyager1,Voyager2,Cassini探査機の観測結果に基づいて開発されている[Delamere et al., 2005]。しかし、動径方向分布の時間変動を追跡できるモデルは研究報告がない。その背景として、これまでの探査機が、イオプラズマトーラスの空間分布を長期観測できなかったことが挙げられる。ひさき衛星は惑星観測専用の宇宙望遠鏡として連続運用されており、木星内部磁気圏の長期観測が可能である。実際に2015年1月下旬から4月上旬の約二か月間にわたって、イオからのプラズマ供給の増加に伴うイオプラズマトーラスの空間分布の変化が確認されている[Tsuchiya et al., 2018, Yoshioka et al., 2018]。
本研究ではイオ起源の主要な重イオン(O+,O2+,S+,S2+,S3+)の質量およびエネルギーの収支と動径方向輸送の時間発展を追跡可能なモデルをFokker-Planck方程式に基づき開発した。方程式系はDelamere et al.(2005)が開発した定常状態の磁気圏プラズマの質量およびエネルギー輸送モデルを基に、Forward Time Central Space(FTCS) 法により差分化した。イオン、電子間の化学的な相互作用はDelamere & Bagenal (2003)で用いられている電荷交換、電子衝突電離、電子再結合、クーロン相互作用、および電子衝突励起による放射項の係数を利用し、体積放射率はCHIANTIデータベースを利用して算出した。各イオン種と熱的電子の温度、密度の初期値はYoshioka et al.(2018)より、イオ火山活動が静穏であった2013年11月のひさき衛星観測結果を用いた。中性原子(O,S)の分布は動径方向のみに依存すると仮定した。内側境界条件は6RJで密度の空間微分を0、イオン温度を60eVとし、外側境界条件は30RJで密度、温度ともにひさき観測結果から得られる関数の計算値で固定した。この設定の下でモデルの妥当性を検証するため、6-9RJの領域における各イオン種と電子の定常状態の温度、密度をひさき衛星の観測結果と比較した。定常状態では、高価数のイオン種ほど観測より高密度となり、O2+の数密度は観測値の1.2-2.0倍であった。モデルでは電子温度が6-8eVと計算され、観測より数eV高温であったことから、電子衝突電離により高価数のイオン密度が高くなったと考えられる。今後、電子温度が数eV高く計算された原因を調べる必要がある。イオン温度は、特に低価数のイオンが観測に比べ高温となり、O+は12RJで280eV以上の温度となった。これは観測値より高い電子温度によって中性原子のイオン化が促進され、pick-upイオンによる加熱が促進されたためと考えられる。本発表ではモデルと観測の詳細な比較とその定量的な検証結果ついて述べる。
木星第一衛星イオでは活発な火山活動があり、火山ガス起源のプラズマが内部磁気圏に放出される。プラズマは木星と共回転することでイオの公転軌道に沿ってドーナツ状に分布しており、イオプラズマトーラスと呼ばれている。木星内部磁気圏のプラズマは質量の9割が衛星イオの大気から供給され、木星の自転角運動量からエネルギーを得ながら動径方向に数十日の時間スケールで輸送される。また、輸送の過程で、衛星起源の重イオンプラズマ(O+,O2+,S+,S2+,S3+)は化学的な相互作用によって組成比、エネルギーが変化する[Delamere & Bagenal, 2003]。木星内部磁気圏におけるプラズマの質量とエネルギーの収支を知ることは、磁気圏のマクロな物理現象を理解する上で重要な課題である。
定常状態の木星内部磁気圏プラズマの動径方向分布モデルはVoyager1,Voyager2,Cassini探査機の観測結果に基づいて開発されている[Delamere et al., 2005]。しかし、動径方向分布の時間変動を追跡できるモデルは研究報告がない。その背景として、これまでの探査機が、イオプラズマトーラスの空間分布を長期観測できなかったことが挙げられる。ひさき衛星は惑星観測専用の宇宙望遠鏡として連続運用されており、木星内部磁気圏の長期観測が可能である。実際に2015年1月下旬から4月上旬の約二か月間にわたって、イオからのプラズマ供給の増加に伴うイオプラズマトーラスの空間分布の変化が確認されている[Tsuchiya et al., 2018, Yoshioka et al., 2018]。
本研究ではイオ起源の主要な重イオン(O+,O2+,S+,S2+,S3+)の質量およびエネルギーの収支と動径方向輸送の時間発展を追跡可能なモデルをFokker-Planck方程式に基づき開発した。方程式系はDelamere et al.(2005)が開発した定常状態の磁気圏プラズマの質量およびエネルギー輸送モデルを基に、Forward Time Central Space(FTCS) 法により差分化した。イオン、電子間の化学的な相互作用はDelamere & Bagenal (2003)で用いられている電荷交換、電子衝突電離、電子再結合、クーロン相互作用、および電子衝突励起による放射項の係数を利用し、体積放射率はCHIANTIデータベースを利用して算出した。各イオン種と熱的電子の温度、密度の初期値はYoshioka et al.(2018)より、イオ火山活動が静穏であった2013年11月のひさき衛星観測結果を用いた。中性原子(O,S)の分布は動径方向のみに依存すると仮定した。内側境界条件は6RJで密度の空間微分を0、イオン温度を60eVとし、外側境界条件は30RJで密度、温度ともにひさき観測結果から得られる関数の計算値で固定した。この設定の下でモデルの妥当性を検証するため、6-9RJの領域における各イオン種と電子の定常状態の温度、密度をひさき衛星の観測結果と比較した。定常状態では、高価数のイオン種ほど観測より高密度となり、O2+の数密度は観測値の1.2-2.0倍であった。モデルでは電子温度が6-8eVと計算され、観測より数eV高温であったことから、電子衝突電離により高価数のイオン密度が高くなったと考えられる。今後、電子温度が数eV高く計算された原因を調べる必要がある。イオン温度は、特に低価数のイオンが観測に比べ高温となり、O+は12RJで280eV以上の温度となった。これは観測値より高い電子温度によって中性原子のイオン化が促進され、pick-upイオンによる加熱が促進されたためと考えられる。本発表ではモデルと観測の詳細な比較とその定量的な検証結果ついて述べる。