日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM16] 大気圏・電離圏

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、津川 卓也(情報通信研究機構)、川村 誠治(国立研究開発法人 情報通信研究機構)

[PEM16-P06] Ba/Sr放出ロケット実験に向けた人工発光雲座標の精密解析法の基礎開発

*渡邊 太郎1山本 真行1柿並 義宏2 (1.高知工科大学、2.北海道情報大学)

キーワード:観測ロケット、極域カスプ、中性大気風、プラズマドリフト、熱圏

極域カスプにおける中性大気加熱現象の観測的裏付けを得るためにはカスプにおけるジュール加熱と電場のゆらぎを見積もる必要があり、それを達成するために太陽極端紫外光(EUV)により短時間でイオン化するBaと短時間にはイオン化しないSrを観測ロケットから放出し、Ba+とSrの共鳴散乱発光をトレーサーとして地上2地点から観測し極域カスプにおけるプラズマドリフトと中性大気風を同時観測する日米共同のロケット実験Cusp Region Experiment 1(CREX-1) が2014年11月に行われたが、カスプ領域の観測は行えなかった。現在、CREX-1の結果と課題を踏まえ、2019 年 12 月にカスプ領域の観測を目指すCusp Region Experiment 2(CREX-2)、 The Joint Japan-U.S. Cusp Heating Investigation(CHI)の2 機の観測ロケットを用いた宇宙実験を計画中である.

将来目標として、次回実験に向けて一意に発光雲の動きを三次元的にトレースするアルゴリズム開発を目指し、本研究ではその基礎としてCREX-1の画像データを利用して人工発光雲座標の精密解析法の基礎開発を行った。

解析のはじめに、観測画像の輝度校正のために積分球を用いて行われたCREX-1光学観測系校正実験のRAW画像から校正用データを作成した。画像からイメージセンサに対するレンズ中心のズレとレンズの周辺減光特性を測定して、各条件における輝度代表値を決定するための画像中の平均範囲を決定した後、イメージセンサの露光特性を測定した。今回は、これまではJPEG画像からの解析を行なってきたが、無加工データの利用や輝度分解能向上を期待して新たにRAW画像を用いた解析手法の確立を目指し、JPEGとRAWの露光特性の比較を行った。次に、Sr発光雲1つに対して、輝度に対して線形補間内挿で画素間を補間した曲面および多項式近似を行なった曲面で最急降下法による最適化を行なって輝度極大を求めた。さらに手作業で決定した中心60点とその重心との比較を行い、これまで手作業で行われてきた中心決定作業を最適化で一意に行う事が可能か検討した。また、今後開発予定である画像中から発光雲を探索する処理においてノイズとなる背景光を除去するために背景光画像が必要だが、今回は同構図で背景のみの画像がなく、発光雲が写った画像を比較暗合成し背景光画像の作成を試みた。さらに、ターゲット画像と背景光画像の差の絶対値の総和を最小化する係数を最適化によって求め、これを用いて背景光の明るさの時間変化に追従する手法も試みた。

柿並 他(2015)によるJPEG画像から測定した露光特性と、今回解析したRAW画像の露光特性を比較すると、JPEGでは弓形のガンマ曲線となっているがRAW画像では線形となったことから、JPEG画像の露光特性は現像時の「味付け」だと考えられる。また最急降下法では、開始点8点すべてから同じ点に収束したことから一意に決定するという点では有効だと考えられる。ただし連続画像に対して発光雲を二次元トレースしたときの発光雲の軌跡は最急降下法と手作業ではあまり似ておらず、最急降下法で得られる点は真の中心ではない可能性がある。最後に、比較暗合成および背景光の明るさ変化に追従した背景光除去については、背景光とその勾配が効果的に除去でき、発光雲と星を抽出できたが、合成画像に発光雲の影が残り、除去時に発光雲の形状に影響を及ぼしていた。また、太陽高度が高くなると太陽方向で背景光が急激に明るくなり、低仰角の背景光が除去しきれなくなった。

結論として、RAW画像の利用により8 bitから14 bitの輝度分解能の向上のほか各色チャンネルの無加工データ抽出によるSN向上や線形の露光特性が得られるなど、数値解析におけるRAW画像の有用性が示された。発光雲の中心決定手法については、最急降下法は一意に極大を求められるが真の中心でない可能性があるため、今後別の手法を検討し、最適な手法を模索していく。背景光除去については、背景光勾配除去に対しては効果的であるが合成段で残る発光雲の影の影響が大きいという課題がある。この結果を踏まえて今後、最終的には発光雲の三次元トレースを行うアルゴリズムの開発を行っていく。

参考文献:
柿並義宏, 渡部重十, 山本真行, 木原大城, M. Conde, M.F. Larsen, カスプ領域でのバリウム・ストロンチウムを用いた熱圏風・プラズマドリフト計測,第 138 回地球電磁気・地球惑星圏学会講演会, 2015.