日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)

[PPS06-P16] 成層圏におけるスーパーローテーションへの移行に関する研究

*墨 幹1 (1.東京工業大学)

タイタンは発達した大気や地表面に安定した液体を太陽系内の衛星で唯一持っている天体である。その観測の歴史は1908年に大気の存在が示唆されたところから始まる。1970年代には観測技術の進歩からタイタン大気の温度構造や大気組成が明らかになってきた。また、1997年に打ち上げられたCassini-Huygens探査機では、土星系を訪れ、Huygensプローブをタイタン大気に突入させ、高精度の観測を行った。現在では、ALMA望遠鏡による地上サブミリ波観測が行われており、高解像度での観測が可能になっている。
タイタン大気の特徴として全球規模で自転を追い越す向きの高速東西風であるスーパーローテーションの存在が観測で明らかになっている。その風速はHuygensの突入した南緯約10度において高度120㎞近くで東向きに100m/sにも及ぶが、観測データの少なさや大気構造の複雑さからそのメカニズムの究明に難航している。また、スーパーローテーションの生成メカニズムも統一した理論は完成しておらず、さまざまな理論が提唱されている。代表的なものとして、Gieraschにより提案されたGieraschメカニズムやFelsとLindzenにより提案された熱潮汐波によるメカニズムがある。
本研究では、地球モデルを用いて、惑星半径のみを変えてスーパーローテーションを発生させる実験を行った。数値モデルとして地球流体電脳倶楽部の開発する、惑星大気大循環の数値シミュレーションモデルDCPAM5を用いた。乾燥大気を仮定しモデルの基礎方程式系として、プリミティブ方程式を用いた。加熱・冷却過程としてHeld and Suarez(1994)モデルに成層圏の圧力依存性を加えたWilliamson(1997)のモデルを用いた。計算時間は十分定常性が確認できた1080日までの時間発展計算を行い、描画では計算終了の360日間を時間平均した。
はじめに、温度場、質量輸送分布、東西風速場の東西平均を出力し、大気の子午面空間の構造を比較し、スーパーローテーションの発生している設定、高度などの分布を調べた。地球モデルでは対流圏と成層圏の中緯度で西風ジェット気流が発生したが、赤道では東風が吹いている。惑星半径を小さくすると、対流圏では赤道でも西風が加速され、スーパーローテーションが発生した。成層圏では下層で赤道スーパーローテーションが発生したが、成層圏上層では中高緯度にジェットが発生したのみで赤道では高速の西風までは発生しなかった。
次に、角運動量を赤道上層に維持するメカニズムを調べるために、温度の帯状擾乱の分散、東西風速場の帯状擾乱スペクトルを出力し、大気中に存在する波の構造をまとめた。対流圏において地球モデルでは、中緯度に帯状波数4以上の波が多く存在し、中緯度に東向きの角運動量が集積された。しかし、惑星半径を小さくしていくと、帯状波数の大きい波が減少し、波数1付近の全球規模の波が卓越している。成層圏においても同様に地球モデルでは対流圏ほどではないが波数の大きい波が存在している一方で、惑星半径を小さくしていくと、波数の小さい波しか残らなくなる。
しかし、成層圏では赤道スーパーローテーションと中高緯度ジェットが高度の異なる領域に発生しており、スーパーローテーションを維持するメカニズムは対流圏でのメカニズムと多少異なる可能性がある。その違いについて更なる解析が必要である。