[SVC36-P17] 榛名カルデラ形成噴火のマグマ―里見火砕流堆積物からの示唆―
キーワード:榛名火山、カルデラ形成、火砕流、マッシュ状珪長質マグマ、マグマ混合、高温マグマによる加熱
榛名火山は東北日本弧の火山フロント最南端に位置する大型成層火山である。下司・竹内(2012)は榛名火山の活動を古期と新期の2つの活動期に区分した。古期から約20万年間の休止期を経て、約4万5千年前にカルデラ形成噴火により新期の活動が開始した。この噴火では降下軽石と火砕流を併せて約1.2km3 DREが噴出した。大石・他(2011)はこの噴火で噴出した火砕流を、軽石に含まれる斜長石斑晶の屈折率の高低により、里見火砕流と白川火砕流に区分した。
火山毎の噴火の特徴を把握するためには、マグマ供給系の構造と噴火誘発過程の解明が必要であり、そのために噴出物の岩石学的な解析が用いられてきた。噴火の特徴の理解は、将来の噴火のタイプや噴火推移の予測を行う上で不可欠であり、これは社会的要請が非常に大きい。榛名火山においては、6世紀後半の二ツ岳の噴火の研究 (Suzuki and Nakada, 2007) を除き、記載岩石学的特徴を用いたマグマ供給系の構造と噴火誘発過程の検討が不足している。そこで本研究では、約4万5千年前のカルデラ噴火の里見火砕流を対象として、露頭調査および岩石学的検討を行った。調査したのは榛名火山南麓の6露頭である。また、解析の結果をもとに、白川火砕流堆積物との岩石学的な関係を議論した。
里見火砕流堆積物には、白色、灰色、白がかった灰色および灰がかった白色の4種類の軽石が含まれている。全岩化学組成はSiO2=62.8-66.3 wt.%の範囲にあり、デイサイトである。松之沢にて採取した軽石は、全岩SiO2で3.6 wt.%の比較的広い組成幅を持つ。色彩ごとに違いはなく、同時期に噴出したとされる白川火砕流堆積物(木谷・鈴木,2019;本大会)とも差は見られない。軽石中の斑晶の全ては、集斑晶での共存関係から単一もしくは類似の条件を持つマグマから晶出したと考えられ、その鉱物組み合わせは斜長石、石英、普通角閃石、カミングトン閃石、斜方輝石、Fe-Ti酸化物である。この記載岩石学的特徴は、全岩SiO2量および軽石の色彩毎により系統的に変化しない。汚濁帯を持つ斜長石斑晶および融食形の石英斑晶の存在からは、マグマ溜まりが温度上昇プロセスを経ていることが明らかになった。温度上昇の原因としては、高温苦鉄質マグマと混合したこと、もしくは高温苦鉄質マグマによりマグマ溜まりが加熱されたことが推測される。ここで、軽石にはかんらん石などの苦鉄質マグマ由来の斑晶が含まれていないことから、混合の場合には、苦鉄質マグマは無斑晶質であったと考えられる。また、斜方輝石の斑晶組織は温度の上昇に加え、下降プロセスも記録していることから、マグマ溜まりは進化の過程で、温度の上下変動を経験したと解釈できる。
全岩SiO2量が比較的広い幅を持つ松之沢の白色軽石は、薄片において斑晶量の違いが観察されたため、その関係を検証するために斑晶モード分析を実施した。その結果、斑晶量は52.3-71.7 vol. %であり、全岩SiO2量が大きいほど全斑晶量も大きいという正の相関が見られた。また、斑晶鉱物相の比率にも相関があり、全岩SiO2量が大きいほど石英斑晶量が大きくなり、Fe-Ti酸化物斑晶量が小さくなる。苦鉄質マグマとの混合があった場合、その混合比の違いを反映していると考えられる。また、斑晶量が多いため、里見火砕流を発生させたマグマ溜まりはマッシュ状であるといえる。以上のことから、カルデラ形成噴火に関与したマグマ供給系の構成を推定した。まず、マッシュ状の珪長質マグマが存在し、そこには前述の鉱物が結晶として含まれていた。そこに、外部から高温の苦鉄質マグマが供給され、混合もしくは加熱が発生した。この温度上昇イベントが噴火を誘発した可能性がある。
また、軽石には破砕形の斑晶が多量に含まれる。破砕結晶はマグマが火道を上昇する際に、火道壁との摩擦により生じたせん断応力を受けることによって形成されたと考えられる。白色軽石よりも破砕結晶に富む灰色軽石は、相対的に大きなせん断応力を受けたマグマを起源とする可能性が大きい。したがって、灰色軽石を生成したマグマは火道壁付近を、白色軽石を生成したマグマは火道中心部付近を流れたと考えられる。
火山毎の噴火の特徴を把握するためには、マグマ供給系の構造と噴火誘発過程の解明が必要であり、そのために噴出物の岩石学的な解析が用いられてきた。噴火の特徴の理解は、将来の噴火のタイプや噴火推移の予測を行う上で不可欠であり、これは社会的要請が非常に大きい。榛名火山においては、6世紀後半の二ツ岳の噴火の研究 (Suzuki and Nakada, 2007) を除き、記載岩石学的特徴を用いたマグマ供給系の構造と噴火誘発過程の検討が不足している。そこで本研究では、約4万5千年前のカルデラ噴火の里見火砕流を対象として、露頭調査および岩石学的検討を行った。調査したのは榛名火山南麓の6露頭である。また、解析の結果をもとに、白川火砕流堆積物との岩石学的な関係を議論した。
里見火砕流堆積物には、白色、灰色、白がかった灰色および灰がかった白色の4種類の軽石が含まれている。全岩化学組成はSiO2=62.8-66.3 wt.%の範囲にあり、デイサイトである。松之沢にて採取した軽石は、全岩SiO2で3.6 wt.%の比較的広い組成幅を持つ。色彩ごとに違いはなく、同時期に噴出したとされる白川火砕流堆積物(木谷・鈴木,2019;本大会)とも差は見られない。軽石中の斑晶の全ては、集斑晶での共存関係から単一もしくは類似の条件を持つマグマから晶出したと考えられ、その鉱物組み合わせは斜長石、石英、普通角閃石、カミングトン閃石、斜方輝石、Fe-Ti酸化物である。この記載岩石学的特徴は、全岩SiO2量および軽石の色彩毎により系統的に変化しない。汚濁帯を持つ斜長石斑晶および融食形の石英斑晶の存在からは、マグマ溜まりが温度上昇プロセスを経ていることが明らかになった。温度上昇の原因としては、高温苦鉄質マグマと混合したこと、もしくは高温苦鉄質マグマによりマグマ溜まりが加熱されたことが推測される。ここで、軽石にはかんらん石などの苦鉄質マグマ由来の斑晶が含まれていないことから、混合の場合には、苦鉄質マグマは無斑晶質であったと考えられる。また、斜方輝石の斑晶組織は温度の上昇に加え、下降プロセスも記録していることから、マグマ溜まりは進化の過程で、温度の上下変動を経験したと解釈できる。
全岩SiO2量が比較的広い幅を持つ松之沢の白色軽石は、薄片において斑晶量の違いが観察されたため、その関係を検証するために斑晶モード分析を実施した。その結果、斑晶量は52.3-71.7 vol. %であり、全岩SiO2量が大きいほど全斑晶量も大きいという正の相関が見られた。また、斑晶鉱物相の比率にも相関があり、全岩SiO2量が大きいほど石英斑晶量が大きくなり、Fe-Ti酸化物斑晶量が小さくなる。苦鉄質マグマとの混合があった場合、その混合比の違いを反映していると考えられる。また、斑晶量が多いため、里見火砕流を発生させたマグマ溜まりはマッシュ状であるといえる。以上のことから、カルデラ形成噴火に関与したマグマ供給系の構成を推定した。まず、マッシュ状の珪長質マグマが存在し、そこには前述の鉱物が結晶として含まれていた。そこに、外部から高温の苦鉄質マグマが供給され、混合もしくは加熱が発生した。この温度上昇イベントが噴火を誘発した可能性がある。
また、軽石には破砕形の斑晶が多量に含まれる。破砕結晶はマグマが火道を上昇する際に、火道壁との摩擦により生じたせん断応力を受けることによって形成されたと考えられる。白色軽石よりも破砕結晶に富む灰色軽石は、相対的に大きなせん断応力を受けたマグマを起源とする可能性が大きい。したがって、灰色軽石を生成したマグマは火道壁付近を、白色軽石を生成したマグマは火道中心部付近を流れたと考えられる。