日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-01] 災害を乗り越えるための「総合的防災教育」

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 104 (1F)

コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、座長:小森 次郎(帝京平成大学)

11:30 〜 11:45

[G01-04] 四川大地震の被災地における災害伝承と防災教育

★招待講演

*富 思斉1城下 英行1 (1.関西大学)

キーワード:防災教育、災害伝承、四川大地震

私たち人間は「防災」をやろうとするとき、まず災害に関わること、特にその発生原因とメカニズムを明確にして、災害による被害を想定して、その想定した被害を防止または軽減する方向に全力を注ぐ。このような一般的に「防災」と考えられる過程を実現するときは、自然災害を対象にする研究者や、法令・政策を策定・実施する行政職員などの、いわゆる防災の専門家がその主役として指導的な役割を担っている。被害を防止・軽減することを客観的な方法で系統的に研究するため、本研究ではこのような防災活動を「防災科学」と呼ぶことにする。

「防災科学」を進め、その必要性を明確に知らせ、かつ防災対策を確実に実施することが今の「防災」の目標だと考えられている。その典型例の一つは学校での避難訓練である。避難訓練を実施することにより被害を軽減できることが明確であるので、日本全国の学校にも実際に避難訓練が普及されている。現在、「防災」の大半はこのようなことを目標として力をいれている。換言すれば、「防災」と「防災科学」の間に等号が描かれていると言える。防災の必要性としてすでに明らかになっていることをやらせ、また、できていないことをできるようにすることが「防災」教育だと一般的に考えられている。「防災」の専門家と一般市民とが、一緒に力を合わせてこの状況を実現できれば「防災」の成功と考えられている。

しかし、現実はどうであろうか?人間は分かっているけど、やらないということが数多く存在している。「防災科学」に基づいた決めた対策を実施したら、それなりに効果的であると市民に伝えても、先延ばしにされたり、あるいは無視されることも少なくない。例えば、内閣府が平成29年に行った調査によると、大地震に備えてとっている対策について、「家具・家電などを固定し、転倒・落下・移動を防止している」を挙げなかった者は回答者の49.4%である。そして、そのやらない理由として、「やろうと思っているが先延ばしにしてしまっているから」とか、「面倒くさい」などの理由が上位に挙げられている。

こうした現状の一方で、人間は自然界の高等動物として、自然と長年付き合ってきて、知らないうちに大事なことに触れて、それを偶然かつ長期的にやり続けている。いや、偶然ではないかもしれない。科学的ではないことでも、ときに災害に対して防災と呼べるような効果を持っている。ネパールの人が屋根の上に常に貯水タンクを置くのは日常の断水対策だが、これは災害時にも役立つ生活習慣である。日本国内でも、新潟県中越地震が発生した後、雪崩による道路の寸断が起こり、避難生活に必要な食料や品物が輸送できなかった。そのとき役に立ったのは地元住民が冬に入る前に用意していた食材と薪である。どちらも防災のためにわざわざやったことではないが、結果的に防災に繋がっている。このように生活の中ですでに実施されている知恵が「防災面からは実はこんな見方もできる」とか、「こう使えば意外な効果がある」といったことが、他にも存在するはずだ。これらを発見し、保護また普及することも一種の防災教育だと考えられる。

そこで、本研究では上述の考えを災害伝承にも当てはまる。すなわち、災害伝承においても国や地域によってそのアプローチは異なっており、その差異から災害伝承の新たなアプローチについて学ぶことを目的とする。具体的には、2008年5月12日、中国四川省を襲った「四川大地震」を事例とする。震災から約11年経った現在、被災地でどのようにその災害について記録しているか、またそれをどんな方式で後世の人に伝えようとしてるかを調査し、その日中比較を行う。成都市の青少年と未来防災体験館をはじめ、複数の防災教育施設、災害伝承施設で行ったヒアリング調査の結果に基づいて、日本にはない災害伝承の新たなアプローチとその可能性について報告する。