日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 地球惑星科学のアウトリーチ

2019年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 103 (1F)

コンビーナ:植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、小森 次郎(帝京平成大学)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:大木 聖子

09:00 〜 09:15

[G02-01] 一般書にみる地理学のアウトリーチ

*長谷川 直子1中川 優希1 (1.お茶の水女子大学)

キーワード:アウトリーチ、地理学、一般書

1. はじめに/研究目的・方法

 地理学のアウトリーチを進める一つの手段として、一般向け書籍の刊行が挙げられる。森(2018)では、出版売り上げデータを用いて、歴史と比較して地理学関連書籍の点数も売り上げも少ないこと、読者は中高年男性に偏っていること、書店の棚に地理コーナーがないことなどを明らかにしている。本研究では、この森(2018)をベースにして、どのような属性の人がどのような下位分野の本を執筆しているのかについて、傾向分析を行った。用いたデータは森(2018)で使用された地理学関連書籍80点である。これらの執筆者を研究者、中高教員・塾講師、専業ライター、兼業ライター(地図関係職か否か)、編著のカテゴリに分類した。その結果を森(2018)で分類されている本のカテゴリとクロス集計を行った。



. 結果・考察 

 研究者の執筆は地学系(自然地理学が含まれる)が最も多く、ついで地理一般となっており、散歩系と地図関連は少ない。これは地学の研究者が地学の内容で一般向けの解説書を書いているものが多いことを反映していると思われる。次に中高教員・塾講師の執筆は、地理一般にほぼ集中している。これは、大学入試の地理が意識され、その内容を網羅する形での執筆が多いことを反映していると思われる。兼業ライター(地理以外)は地形散歩にほぼ集中し、兼業ライター(地理関連)は散歩と地図関連に多い。また兼業ライターは地理一般や地学系を全く執筆していない。これは、地理関連職のライターはその仕事で培った専門性を活かした形での執筆の傾向があることを反映し、地理と関係ない職に就く兼業ライターは職と関係なく趣味で地形散歩などを行ってきたものを書籍化したものが多いと考えられる。専業ライターは兼業ライターと同じく、地理一般や地学系は少なく、散歩系や地図関連が多い。編著は地形散歩が多いが、9点中8点はブラタモリシリーズとなっており、そのほかでは地理一般が多い。以上の結果より、著者の属性により執筆される本の分野に傾向があることがわかる。

 また、地理学界からのアウトリーチとして研究者属性に着目すると、17点中10点が地学系で、5点が地理一般となっている。森(2018)による書籍の分類は自然地理学・人文地理学という分類を用いていない。自然地理学を地学系と解釈できても、人文地理学がどこに入るのかが難しいが、いずれにしても自然地理学と比較して人文地理学の書籍のほうが少ない傾向は読み取れる。また研究者による散歩系、地図関連はほぼない。

 

. 今後の展望と課題

 以上のことから、研究者による人文地理系一般書、散歩系一般書、地図関連一般書が手薄となっているため、これらの一般書を出していくことが空白地帯を埋めることになるだろう。例えばE-journal GEOに新たに創設された「地理紀行」カテゴリは、一般向けのアウトリーチを意識した趣旨のように思われるが、ここに投稿された論文をカテゴリでまとめて書籍化するようなことも考えられるだろう。大学で行っている巡検の内容を書籍化すれば、散歩系になるものもあるだろう。GISなどの技術を用いた地図系書籍も可能であろう。さらには、研究者とライターがコラボして空白地帯を埋めるやりかたもあるかもしれない。また森(2018)によると読者が中高年男性に偏っているということなので、それ以外の年齢・性別層にアプローチできる形を模索することも重要課題と考えられる。


 本研究では森(2018)を踏襲し、書籍の選定とカテゴリをそのまま使用した。しかし「地理学界のアウトリーチ」という観点から地理学研究者による出版物に注目する場合には、書籍のカテゴリ自体(地学系でいいのか、人文地理分類がなくていいのか、など)を再検討する必要があるかもしれない。地理学は間口が広いため、新たなカテゴリの創出もありうるかもしれない。以上については今後の課題としたい。


参考文献

森岳人2018, 出版業界から見た地理学のアウトリーチ E-journal GEO, 13(1),170-183.