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[HCG31-04] 地下水および物質移行経路と花崗岩冷却過程の関係に関する検討
キーワード:花崗岩、マグマ冷却過程、割れ目、微視的空隙
高レベル放射性廃棄物の地層処分においては,花崗岩などの結晶質岩では割れ目が地下水流動や物質移動の経路になることから,その分布を知ることが重要である。筆者らは岐阜県南東部に分布する土岐花崗岩を事例として,花崗岩中の割れ目の形成および充填の履歴を花崗岩マグマ定置後の地史と合わせて検討してきた(笹尾ほか,2015)。また,石橋ほか(2016)は肉眼観察では変質の認められない花崗岩において,斜長石中に微視的空隙が存在することを見出すとともに,この空隙がマトリクス拡散経路として機能していることを明らかにした。この微視的空隙はマグマ冷却過程で生じる初生的な変質により形成されたと推定されており,花崗岩冷却過程で生じる諸現象が地下水や物質の移行経路の形成・発達に果たす役割がある可能性を示唆する。
土岐花崗岩においては,筆者らによる一連の研究によって,花崗岩体の冷却過程(Yuguchi et al., 2019a, 2012)やその過程に生じた鉱物の変質(Yuguchi et al., 2015, 2019b),割れ目の形成および充填の履歴(石橋ほか,2014, Ishibashi et al., 2016)が明らかにされている。本研究ではこれらの研究成果に基づいて,花崗岩冷却過程と地下水および物質移行経路形成の関係を検討した。
Yuguchi et al.(2019a)は土岐花崗岩で得られた15個の岩石試料に対して,熱年代学的な手法を用いて岩体内の領域ごとの温度時間履歴を復元し,温度時間履歴は岩内の位置に応じて特有の性質(冷却速度の相違など)を有することを明らかにした。さらに,領域ごとの温度時間履歴と割れ目の分布について比較検討を行い,800℃から300℃に至るまでの冷却時間と割れ目発生頻度の間に関連があることを見出した。冷却時間が長い場合,割れ目頻度が高く,冷却時間が短い場合,割れ目頻度が低くなり,冷却時間と割れ目発生頻度との間には良い相関がみられることが分かった。
この一方で,Yuguchi et al.(2012)はYuguchi et al. (2011a,b)で報告した長石の組織に基づいて算出される“Local Cooling Index(LCI)”(局部的な冷却過程の均一さを測る指標であり,LCIが大きいほど局部的な冷却過程が不均一であることを示す)と割れ目頻度を比較した。その結果,LCIと割れ目頻度に相関があり,LCIが大きいほど割れ目頻度が大きいことを明らかにした。これらをまとめると,土岐花崗岩体においては,冷却速度が遅いものの,局部的な冷却過程が不均一である箇所において割れ目頻度が高いと言える。
斜長石中の微視的空隙について,石橋ほか(2016)は花崗岩冷却直後の初生的な熱水変質によるものと考えているが,その後,Yuguchi et al.(2019)によってさらなる検討が進められた。その結果,斜長石の変質は黒雲母の変質と一連の反応として生じた可能性が高く,350℃~180℃の温度領域で形成されたと考えられた。石橋ほか(2014)は割れ目を充填する比較的細粒の方解石は,斜長石中のCa成分が熱水に溶け出し,割れ目中に方解石として沈殿したと推察している。このことは,斜長石(および黒雲母)を変質させた熱水と割れ目充填鉱物の方解石を沈殿させた熱水は同一のものであることを意味する。熱水の起源については明らかではないが,Yuguchi et al.(2015)で黒雲母の変質が検討された試料は,肉眼およびBTV観察では近傍に割れ目が認められない場所から採取されており,割れ目に流入した熱水というよりは花崗岩冷却過程で形成される熱水によるものであることを示唆する。
以上より,地下水の移動経路である割れ目や物質移行経路(の一つと考えられる)である斜長石中の微視的空隙は花崗岩冷却過程において形成されたものであると言える。したがって,花崗岩冷却過程を検討することによってこれら移行経路の分布をより良く理解できる可能性を示す。
(文献)
石橋ほか,2014;応用地質, 55, 156-165.
Ishibashi et al., 2016;Eng. Geol., 208, 114-127.
石橋ほか,2016;原子力バックエンド研究, 23, 121-129.
笹尾ほか,2015;JpGU2015, HCG34-01.
Yuguchi et al., 2011a;J. Mineral. Petrol. Sci., 106, 61-78.
Yuguchi et al., 2011b;J. Mineral. Petrol. Sci., 106, 130-141.
Yuguchi et al.,2012;Eng. Geol. 149-150, 35-46.
Yuguchi et al., 2015;Am. Mineral., 100, 1134-1152.
Yuguchi et al., 2019a;J. Asian Earth Sci.,169, 47-66.
Yuguchi et al., 2019b;Am. Mineral., in press.
土岐花崗岩においては,筆者らによる一連の研究によって,花崗岩体の冷却過程(Yuguchi et al., 2019a, 2012)やその過程に生じた鉱物の変質(Yuguchi et al., 2015, 2019b),割れ目の形成および充填の履歴(石橋ほか,2014, Ishibashi et al., 2016)が明らかにされている。本研究ではこれらの研究成果に基づいて,花崗岩冷却過程と地下水および物質移行経路形成の関係を検討した。
Yuguchi et al.(2019a)は土岐花崗岩で得られた15個の岩石試料に対して,熱年代学的な手法を用いて岩体内の領域ごとの温度時間履歴を復元し,温度時間履歴は岩内の位置に応じて特有の性質(冷却速度の相違など)を有することを明らかにした。さらに,領域ごとの温度時間履歴と割れ目の分布について比較検討を行い,800℃から300℃に至るまでの冷却時間と割れ目発生頻度の間に関連があることを見出した。冷却時間が長い場合,割れ目頻度が高く,冷却時間が短い場合,割れ目頻度が低くなり,冷却時間と割れ目発生頻度との間には良い相関がみられることが分かった。
この一方で,Yuguchi et al.(2012)はYuguchi et al. (2011a,b)で報告した長石の組織に基づいて算出される“Local Cooling Index(LCI)”(局部的な冷却過程の均一さを測る指標であり,LCIが大きいほど局部的な冷却過程が不均一であることを示す)と割れ目頻度を比較した。その結果,LCIと割れ目頻度に相関があり,LCIが大きいほど割れ目頻度が大きいことを明らかにした。これらをまとめると,土岐花崗岩体においては,冷却速度が遅いものの,局部的な冷却過程が不均一である箇所において割れ目頻度が高いと言える。
斜長石中の微視的空隙について,石橋ほか(2016)は花崗岩冷却直後の初生的な熱水変質によるものと考えているが,その後,Yuguchi et al.(2019)によってさらなる検討が進められた。その結果,斜長石の変質は黒雲母の変質と一連の反応として生じた可能性が高く,350℃~180℃の温度領域で形成されたと考えられた。石橋ほか(2014)は割れ目を充填する比較的細粒の方解石は,斜長石中のCa成分が熱水に溶け出し,割れ目中に方解石として沈殿したと推察している。このことは,斜長石(および黒雲母)を変質させた熱水と割れ目充填鉱物の方解石を沈殿させた熱水は同一のものであることを意味する。熱水の起源については明らかではないが,Yuguchi et al.(2015)で黒雲母の変質が検討された試料は,肉眼およびBTV観察では近傍に割れ目が認められない場所から採取されており,割れ目に流入した熱水というよりは花崗岩冷却過程で形成される熱水によるものであることを示唆する。
以上より,地下水の移動経路である割れ目や物質移行経路(の一つと考えられる)である斜長石中の微視的空隙は花崗岩冷却過程において形成されたものであると言える。したがって,花崗岩冷却過程を検討することによってこれら移行経路の分布をより良く理解できる可能性を示す。
(文献)
石橋ほか,2014;応用地質, 55, 156-165.
Ishibashi et al., 2016;Eng. Geol., 208, 114-127.
石橋ほか,2016;原子力バックエンド研究, 23, 121-129.
笹尾ほか,2015;JpGU2015, HCG34-01.
Yuguchi et al., 2011a;J. Mineral. Petrol. Sci., 106, 61-78.
Yuguchi et al., 2011b;J. Mineral. Petrol. Sci., 106, 130-141.
Yuguchi et al.,2012;Eng. Geol. 149-150, 35-46.
Yuguchi et al., 2015;Am. Mineral., 100, 1134-1152.
Yuguchi et al., 2019a;J. Asian Earth Sci.,169, 47-66.
Yuguchi et al., 2019b;Am. Mineral., in press.