09:45 〜 10:00
[HDS13-10] 津波減衰過程を正しく表現するための非線形長波方程式の差分式の改良
キーワード:遠地津波、津波数値計算、スーパーコンピュータ
現在行われている津波の数値計算では津波の減衰過程を正しく表現できていない。翻って、津波警報の解除時期の判断や、津波の見通し情報などのために、津波の数値計算において、その減衰過程を精度よく表現することの社会的要請が強まっている。そのため、気象研究所では遠地津波の後続波および減衰過程の精度向上に向けた研究を行っており、これまでも観測波形を用いた減衰過程のモデル化(林・他,2010,土木学会論文集B2(海岸工学)等 )や、既存の津波数値計算方法(非線形長波方程式)でスーパーコンピュータを用いた大規模で高精度の津波計算を実施している(南・他,2018,日本地震学会秋季大会等)が、それらの計算においても、これまでの様々な計算結果と同様に津波の減衰過程が正しく表現されていなかった。
そこで本稿では、減衰における重要なファクターである底面摩擦に注目し、非線形長波方程式の差分式を改良した。まず、式中の摩擦項において、これまでは摩擦項を計算するための全水深(D)の位置差分を隣接する2メッシュの相加平均(中央差分)で求めていたが、摩擦項中の全水深Dは-1/3のオーダーで変わることから、相加平均では連続的解いた場合と無視出来ない誤差が生じるケースがある。そこで位置差分を平均値の定理を用いたものに改良した(fig.1)。さらに、時間差分についても、1計算ステップdt秒の中で、dtをdt/nとし、n回計算を繰り返すとすると、n→∞においてその極限をとることが可能で、その差分式はfig.2のように変形可能である。
これらの改良した差分式と適切な係数を用いて、2010年チリ(Mw8.8)地震津波の事例で計算を行ったところ、既存の式よりもより減衰するようになり(fig.3)の例では観測量に比べて大きかった後続部のエネルギー総量が、約4%減少して観測量に近づいた。なお、津波の計算条件として、太平洋全域を含む(東経100度~西経90度)領域全てを30秒メッシュ(GEBCO30sec_grid)とし、北海道、本州、四国、九州を囲む領域では、10秒メッシュでネスティングを行い、減衰過程を見るために、長時間(72時間分)の計算を行った。計算コードにはJAGRUS(Baba et al., 2015)を用い、非線形長波計算(地殻の弾性と海水の密度効果を考慮)とし、断層パラメータは(Fujii & Satake, 2013)の結果を用いた。
今回の方法を使うことによって、概ね5%程度既存の方法より津波の減衰が大きくなり、特に遡上や露出などの全水深Dが小さい時(概ね1m未満)に正確な摩擦が計算することが可能となり摩擦の表現が向上する(大きいケースでは10数%)。また時間差分を改善したことにより、より長い時間ステップを取ることが可能で計算時間の短縮が可能である。
これまでの津波の数値計算ではその減衰過程を正しく表現できていなかったが、今回の手法により減衰過程をより正しく表現することが可能となった。今後は本手法の検討を重ね、様々な事例にこの方法を適用し、津波減衰過程の精度向上を行う。
そこで本稿では、減衰における重要なファクターである底面摩擦に注目し、非線形長波方程式の差分式を改良した。まず、式中の摩擦項において、これまでは摩擦項を計算するための全水深(D)の位置差分を隣接する2メッシュの相加平均(中央差分)で求めていたが、摩擦項中の全水深Dは-1/3のオーダーで変わることから、相加平均では連続的解いた場合と無視出来ない誤差が生じるケースがある。そこで位置差分を平均値の定理を用いたものに改良した(fig.1)。さらに、時間差分についても、1計算ステップdt秒の中で、dtをdt/nとし、n回計算を繰り返すとすると、n→∞においてその極限をとることが可能で、その差分式はfig.2のように変形可能である。
これらの改良した差分式と適切な係数を用いて、2010年チリ(Mw8.8)地震津波の事例で計算を行ったところ、既存の式よりもより減衰するようになり(fig.3)の例では観測量に比べて大きかった後続部のエネルギー総量が、約4%減少して観測量に近づいた。なお、津波の計算条件として、太平洋全域を含む(東経100度~西経90度)領域全てを30秒メッシュ(GEBCO30sec_grid)とし、北海道、本州、四国、九州を囲む領域では、10秒メッシュでネスティングを行い、減衰過程を見るために、長時間(72時間分)の計算を行った。計算コードにはJAGRUS(Baba et al., 2015)を用い、非線形長波計算(地殻の弾性と海水の密度効果を考慮)とし、断層パラメータは(Fujii & Satake, 2013)の結果を用いた。
今回の方法を使うことによって、概ね5%程度既存の方法より津波の減衰が大きくなり、特に遡上や露出などの全水深Dが小さい時(概ね1m未満)に正確な摩擦が計算することが可能となり摩擦の表現が向上する(大きいケースでは10数%)。また時間差分を改善したことにより、より長い時間ステップを取ることが可能で計算時間の短縮が可能である。
これまでの津波の数値計算ではその減衰過程を正しく表現できていなかったが、今回の手法により減衰過程をより正しく表現することが可能となった。今後は本手法の検討を重ね、様々な事例にこの方法を適用し、津波減衰過程の精度向上を行う。