日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS14] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 106 (1F)

コンビーナ:千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:石丸 聡

11:15 〜 11:30

[HDS14-03] 平成30年7月豪雨,および北海道胆振東部地震で発生した崩壊における斜面切土の影響

*永田 秀尚1 (1.有限会社風水土)

キーワード:平成30年7月豪雨、北海道胆振東部地震、斜面崩壊、切土

斜面の切土がその安定性に影響することはこれまでにも多くの例が示されてきた.ここでは,2018年6月28日から7月8日までの「平成30年7月豪雨」と2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震による崩壊例をいくつか報告する.平成30年7月豪雨では,広島県,愛媛県ほか,岐阜県を含む中部地方以西を主に日本各地で斜面崩壊が多発した.また,北海道胆振東部地震では,厚真町を中心に斜面崩壊が高密度で発生した.

ケースA(北海道):台地末端の幅20mの崩壊である.平面長さも堆積域を含め50mと,非常に多数発生した胆振東部地震による崩壊の中でも規模的には小さいものである.他の崩壊の多くと同様,深度2.5mに位置する樽前dテフラ(9ka)の下底付近がすべり面となって崩壊した.崩壊した斜面の下部では作業小屋を設置するために高さ約3mの切土がなされていた.その結果,傾斜した弱層が切土面に露出する状態となっていた.

ケースB(愛媛県):ミカン畑となっている斜面で発生した頭部幅30mの崩壊である.二次的に左側で深さ2mの崩壊が発生したが,初生的には深さ0.5m程度の表層崩壊である.その頭部には作業用の歩道があり,これがさらに掘り込まれて撒水用のパイプが埋設されていた.パイプからの漏水が崩壊の引き金になった可能性があり,表層崩壊頭部からガリーが多数発生している.少なくとも強風化した四万十帯砂岩の溝状の掘削は崩壊の要因となったものと考えられる.

ケースC(岐阜県):マサ状に強風化したジュラ紀の飛騨花崗岩からなる林道の路肩が幅25mにわたって崩壊した.崩壊地はもともと浅い谷であり,道路はその上部を上り勾配で通過している.本来の谷の流域は狭いものであるが,豪雨時には上隣の谷から道路沿いに水が流れ込み,林道上のわずかな凹凸によって路肩へ排水された.この多量の流水が崩壊を引き起こしたと考えられる.道路が存在することによって流域面積は少なくとも8.5倍となっていた.
住宅を含めた構造物の立地のために斜面の切土が避けられない場合がある.また,農林業の効率的な経営のために林道・作業道の密な配置は必要でもある.しかし,切土は規模にかかわらず斜面への水文的,微地形的な影響は発生する.豪雨や地震のような大きなインパクトがあった場合,改変された地形は崩壊の要因となり得る.ケースAでは弱層を斜面下部で切断したこと,ケースB,ケースCでは切土した斜面上部から水が流入したこと.とくにケースCでは他の流域の水を引き込んだことが崩壊を引き起こした.斜面に切土を計画する場合,微地形や表層の地質性状や構造を把握し,適切な設計,施工,保守を行う必要がある.