[HDS14-P12] 2011年台風12号により発生した崩壊における地形的特徴と地すべり発達過程に関する検討
キーワード:崩壊、地すべりの発達過程、微地形
1.はじめに
豪雨や地震による斜面災害発生後の地形・地質に関する知見は日々蓄積しているが,地すべり・崩壊の予察を確立するには至っていない.この地すべり・崩壊の原因は,素因・誘因が複雑に関係しており,崩壊に至る過程を解明するためには事例の集積・分析と長期の観測・評価が必要となるためである.近年,地すべり・崩壊発生前の地形を正確に把握するには,国や地方自治体による航空レーザ計測データが蓄積されつつあり災害発生前の地形情報は崩壊の発生過程を明らかにすることが可能である1)など.そこで, 2011年台風12号による紀伊山地の崩壊発生箇所について微地形判読を行い,崩壊が発生した箇所の地形的特徴と地すべり発達過程に関して検討を試みた.
2.対象箇所
2011年9月2日から5日にかけて西日本を横断した台風12号は,紀伊山地に2000mmに迫る降雨をもたらし,50箇所以上1)の深層崩壊を発生させた.本研究の対象とする崩壊箇所は,十津川上流域とした.この流域では,災害前後のレーザ地形図が国土交通省近畿地方整備局紀伊山系砂防事務所によって実施されている.特に崩壊が多く発生している地域は,積算雨量が600mmを超える場所であり,それに加えて十津川上流域の四万十帯日高層群美山ユニットの分布域に相当しており,北~北西斜面は流れ盤の斜面となっている.ただし地すべり・崩壊が同一の付加体のユニットで頻発しているわけではなく,複雑な付加体の地質構造に加え,泥岩・砂岩の優勢程度,スラスト断層やテクトニックな断層の分布の影響を受けている.
3.検証方法
検証は,対象とした範囲において,2011年豪雨により崩壊を発生した1,000m2以上の崩壊面積を有する38箇所を特定し2),その崩壊前の航空レーザ地形図の微地形判読を実施した.筆者らは,微地形判読の着目地形として山体の重力変形を示す地形である滑落崖・側方崖・小崖,また紀伊山地での深層崩壊で認められる特徴的な地形として斜面下部の状況を示す末端崩壊及び背後斜面と移動岩体が完全に分離していない変形状態を示す不規則凹凸を対象とした3).また表層水の集中や地下水の影響を示す地形として「ガリー地形」を選択した.これらの微地形は,「無」「有(不明瞭)」「有(明瞭)」の3種類に区分した.次に崩壊地形の発達状態を示す指標として,地すべり地形発達過程と関連付けて考察を行う.崩壊に至る原因は,山体における重力変形の進展が大きな影響を与えていると考えるが,この重力変形が地表面に生じる時期は,地すべり地形発達過程においては大八木4)により先滑動期と漸移期としており,この時期に着目して区分を行った.
4.解析結果
微地形判読の結果,表-1に示すように第一のグループとして地形的特徴の合計が1~3と少ないものが7箇所認められた.これらは,滑落崖・側方崖の明瞭なものは認められず,斜面上部の不規則凹凸が主体である.崩壊範囲を比較すると全体の輪郭は不明瞭である.これは,表-2に示す地すべり地形発達過程において最も初期的な重力変形として区分でき「先滑動期」に極めて近い事例であり漸移期でも前期の段階であると考えることができる.
第二のグループの地形的特徴は,合計数3~7で,滑落崖・側方崖を含むか,明瞭な地形的特徴を含む.不規則凹凸・小崖地形・末端崩壊が顕著であることから,重力変形が明瞭化しつつある段階と考えられる.全体の輪郭は部分的に明瞭なものがある.これらは漸移期ではあるが,滑動期に近いと考えられ,漸移期の後期と区分した.
第三のグループは,地形的特徴の合計数4~12で,滑落崖を含むグループである.これは,滑落崖,側方崖は明瞭.移動体の輪郭は明瞭かつ移動体内のガリー地形の進行が顕著である.末端崩壊やこれに伴う小崖地形も明瞭なことが多い.斜面内に不規則凹凸や小崖が明瞭となっている.これは,重量変形が進行し初生変動としてすべり面が連結し「滑動期」に相当すると考えられる.
5.まとめ
本検討により漸移期前期・後期の地形的特徴は,「滑落崖,ガリー地形,側方崖」の出現は不確実だが,「不規則凹凸,末端崩壊」の出現が高確率であった.また,狭義の地すべり滑動であれば,漸移期の前期から後期へと段階的な発達過程を経るものと考えられるが,2011年豪雨では,前期段階であっても崩壊に至っている.これは,特定の強い誘因で崩壊が発生することを示す.この段階で多く認められる不規則凹凸は,重力性の岩盤クリープに相当し基盤岩の組織が健全であるために地表に出現したと考えられる.このような不規則凹凸に着目し,特徴を理解することで崩壊の予察を行える可能性があると考える.今後の課題は,航空レーザ計測による地形を傾斜量図だけではなく,特性図作成や元データの点群座標をビッグデータとして活用することであり,不規則凹凸に関しては定量的な解析を行い,現地の解釈と物理的な形状の関係を把握することが崩壊に関する予察に有効であると考える.
本研究で使用した航空レーザ測量データは,国土地理院から提供いただきました.貴重なデータを提供いただき心より感謝いたします.
引用文献
1)Chigira, M., Tsou, C.-Y., Matsushi, Y., Hiraishi, N., and Matsuzawa, M.(2013):Topographic precursors and geological structures of deep-seated catastrophic landslides caused by Typhoon Talas,Geomorphology vol.201, pp.479-493.
2) 奈良県県土マネジメント部砂防・災害対策課:奈良県 紀伊半島大水害 大規模土砂災害アーカイブ,ホームページ(最終検索日:2018/7/13).
3)Chigira, M., Hiraishi, N., Ching-Ying, T., Matsushi, Y. (2015): Catastrophic landslides and their precursory deep-seated gravitational slope deformation induced by the river rejuvenation in the Kii mountains, central Japan, Engineering Geology for Society and Territory 2, pp.577-581.
4)大八木規夫(2007):「地すべり地形の判読法-空中写真をどう読み解くか-」,pp.7-20,近未来社.
豪雨や地震による斜面災害発生後の地形・地質に関する知見は日々蓄積しているが,地すべり・崩壊の予察を確立するには至っていない.この地すべり・崩壊の原因は,素因・誘因が複雑に関係しており,崩壊に至る過程を解明するためには事例の集積・分析と長期の観測・評価が必要となるためである.近年,地すべり・崩壊発生前の地形を正確に把握するには,国や地方自治体による航空レーザ計測データが蓄積されつつあり災害発生前の地形情報は崩壊の発生過程を明らかにすることが可能である1)など.そこで, 2011年台風12号による紀伊山地の崩壊発生箇所について微地形判読を行い,崩壊が発生した箇所の地形的特徴と地すべり発達過程に関して検討を試みた.
2.対象箇所
2011年9月2日から5日にかけて西日本を横断した台風12号は,紀伊山地に2000mmに迫る降雨をもたらし,50箇所以上1)の深層崩壊を発生させた.本研究の対象とする崩壊箇所は,十津川上流域とした.この流域では,災害前後のレーザ地形図が国土交通省近畿地方整備局紀伊山系砂防事務所によって実施されている.特に崩壊が多く発生している地域は,積算雨量が600mmを超える場所であり,それに加えて十津川上流域の四万十帯日高層群美山ユニットの分布域に相当しており,北~北西斜面は流れ盤の斜面となっている.ただし地すべり・崩壊が同一の付加体のユニットで頻発しているわけではなく,複雑な付加体の地質構造に加え,泥岩・砂岩の優勢程度,スラスト断層やテクトニックな断層の分布の影響を受けている.
3.検証方法
検証は,対象とした範囲において,2011年豪雨により崩壊を発生した1,000m2以上の崩壊面積を有する38箇所を特定し2),その崩壊前の航空レーザ地形図の微地形判読を実施した.筆者らは,微地形判読の着目地形として山体の重力変形を示す地形である滑落崖・側方崖・小崖,また紀伊山地での深層崩壊で認められる特徴的な地形として斜面下部の状況を示す末端崩壊及び背後斜面と移動岩体が完全に分離していない変形状態を示す不規則凹凸を対象とした3).また表層水の集中や地下水の影響を示す地形として「ガリー地形」を選択した.これらの微地形は,「無」「有(不明瞭)」「有(明瞭)」の3種類に区分した.次に崩壊地形の発達状態を示す指標として,地すべり地形発達過程と関連付けて考察を行う.崩壊に至る原因は,山体における重力変形の進展が大きな影響を与えていると考えるが,この重力変形が地表面に生じる時期は,地すべり地形発達過程においては大八木4)により先滑動期と漸移期としており,この時期に着目して区分を行った.
4.解析結果
微地形判読の結果,表-1に示すように第一のグループとして地形的特徴の合計が1~3と少ないものが7箇所認められた.これらは,滑落崖・側方崖の明瞭なものは認められず,斜面上部の不規則凹凸が主体である.崩壊範囲を比較すると全体の輪郭は不明瞭である.これは,表-2に示す地すべり地形発達過程において最も初期的な重力変形として区分でき「先滑動期」に極めて近い事例であり漸移期でも前期の段階であると考えることができる.
第二のグループの地形的特徴は,合計数3~7で,滑落崖・側方崖を含むか,明瞭な地形的特徴を含む.不規則凹凸・小崖地形・末端崩壊が顕著であることから,重力変形が明瞭化しつつある段階と考えられる.全体の輪郭は部分的に明瞭なものがある.これらは漸移期ではあるが,滑動期に近いと考えられ,漸移期の後期と区分した.
第三のグループは,地形的特徴の合計数4~12で,滑落崖を含むグループである.これは,滑落崖,側方崖は明瞭.移動体の輪郭は明瞭かつ移動体内のガリー地形の進行が顕著である.末端崩壊やこれに伴う小崖地形も明瞭なことが多い.斜面内に不規則凹凸や小崖が明瞭となっている.これは,重量変形が進行し初生変動としてすべり面が連結し「滑動期」に相当すると考えられる.
5.まとめ
本検討により漸移期前期・後期の地形的特徴は,「滑落崖,ガリー地形,側方崖」の出現は不確実だが,「不規則凹凸,末端崩壊」の出現が高確率であった.また,狭義の地すべり滑動であれば,漸移期の前期から後期へと段階的な発達過程を経るものと考えられるが,2011年豪雨では,前期段階であっても崩壊に至っている.これは,特定の強い誘因で崩壊が発生することを示す.この段階で多く認められる不規則凹凸は,重力性の岩盤クリープに相当し基盤岩の組織が健全であるために地表に出現したと考えられる.このような不規則凹凸に着目し,特徴を理解することで崩壊の予察を行える可能性があると考える.今後の課題は,航空レーザ計測による地形を傾斜量図だけではなく,特性図作成や元データの点群座標をビッグデータとして活用することであり,不規則凹凸に関しては定量的な解析を行い,現地の解釈と物理的な形状の関係を把握することが崩壊に関する予察に有効であると考える.
本研究で使用した航空レーザ測量データは,国土地理院から提供いただきました.貴重なデータを提供いただき心より感謝いたします.
引用文献
1)Chigira, M., Tsou, C.-Y., Matsushi, Y., Hiraishi, N., and Matsuzawa, M.(2013):Topographic precursors and geological structures of deep-seated catastrophic landslides caused by Typhoon Talas,Geomorphology vol.201, pp.479-493.
2) 奈良県県土マネジメント部砂防・災害対策課:奈良県 紀伊半島大水害 大規模土砂災害アーカイブ,ホームページ(最終検索日:2018/7/13).
3)Chigira, M., Hiraishi, N., Ching-Ying, T., Matsushi, Y. (2015): Catastrophic landslides and their precursory deep-seated gravitational slope deformation induced by the river rejuvenation in the Kii mountains, central Japan, Engineering Geology for Society and Territory 2, pp.577-581.
4)大八木規夫(2007):「地すべり地形の判読法-空中写真をどう読み解くか-」,pp.7-20,近未来社.