日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS15] 人間環境と災害リスク

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 106 (1F)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

15:00 〜 15:15

[HDS15-06] リアルタイム防災情報を活用した効率的な津波避難の検討

*大石 裕介1,2,3古村 孝志2今村 文彦3三原 宜輝4牧野嶋 文泰3山下 啓3東山 孝生5後藤 知範5大村 誠4永山 実幸4 (1.富士通研究所、2.東京大学地震研究所、3.東北大学災害科学国際研究所、4.川崎市総務企画局危機管理室、5.富士通株式会社)

キーワード:津波、避難、スマートフォンアプリ

1.はじめに

 近年、沖合での津波観測網の拡大やその高速解析技術の発達などにより、リアルタイム防災情報の発信が可能となりつつある。また、東日本大震災の際には、音声通話の大半が規制される中、パケット通信は比較的繋がる状況が続きスマホのSNS機能等が情報共有において重要な役割を果たしており、今後はスマホなどを通して得られるリアルタイム防災情報の避難への活用が期待できる。そこで本研究では、津波避難におけるリアルタイム防災情報の有効な活用に向けて、スマホアプリによるリアルタイム情報の提供が避難行動に与える影響を評価するため、津波避難の実証実験を実施した。

2.津波避難実証実験

 平成30年12月9日の川崎市津波避難訓練において行った実証実験では、避難路において地震による建物倒壊、火災、液状化などによる通行不可地点を設定し、「通行不可」と記されたパネルを持った係員を配置した。実証実験参加者は通行不可地点に遭遇した際、スマホアプリによってその地点の位置情報の投稿を行い、投稿された情報は他の参加者のアプリ画面上にリアルタイムに共有された。本実証実験への参加者は、地域住民の他、事前に参加を募った中高生や関係者などを含む84名であった。
 避難行動は、スマホの位置測定機能により、位置情報の時系列データとして取得した。また、通行不可地点に関するリアルタイム防災情報が避難行動に与える影響を評価するため、実験参加者のうち関係者24名を2グループに分け、片方のグループのスマホアプリでは上述の通行不可地点の投稿・共有機能を無効(防災情報無し)にした。その結果、防災情報有りのグループには、通行不可地点への遭遇回数が減り効率的な避難経路選択に成功した避難者が複数みられ、リアルタイム防災情報の有効性が確認された。しかしながら、グループ毎の平均値を比べると、防災情報有りのグループは避難距離が若干短くなったものの、避難時の平均歩行速度が遅く、避難時間の改善には繋がらなかった。平均歩行速度を比較したところ、防災情報無しでは 4.9km/h であり、防災情報有りでは 4.7km/h と、情報有りで減速していることがわかった。平均歩行速度を低下させる要因としては、分かれ道や通行不可地点付近でのスマホを用いた避難路の検討、あるいは通行不可地点の投稿のための立止まりが挙げられ、防災情報有りのグループ12名中で9名に、避難行動中の10秒以上の立止まりが見られた。

3.今後の課題

 リアルタイム防災情報がかえって避難路の検討などのための立止まり時間を長引かせた原因として、情報の精度の低さが挙げられる。実験参加者のアンケートにおいても、「間違った通行不可地点情報のために、どこの道も通れなくなった」といった意見が複数見られた。通行不可地点の投稿74件のうち、誤差が20 m 以内の正確な投稿は40件(全体の54.8%)であった。不確かな情報はその参照や解釈自体に時間を要するため、避難遅れにつながる可能性が高い。今後、リアルタイム防災情報を有効に活用した効率的な避難の実現には、情報の質を保つことが重要であり、また情報を基に、時間をかけずに次の行動を決められるような、分かりやすい情報提供手段の検討が不可欠である。