日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM04] 地形

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

[HGM04-P10] 鳥取県東部千代川における大規模出水の繰り返しによる砂礫移動と護岸崩壊

*小玉 芳敬1竹本 健人2 (1.鳥取大学農学部、2.兵庫県)

キーワード:大規模出水、護岸崩壊、岩盤露出、交互砂礫堆、衛星写真、平成30年西日本豪雨

はじめに

2018年7月5日から7日に発生した西日本豪雨では,鳥取県智頭町では降り始めから7日午前10時までの総雨量が490.5 mm,同県佐治町では462.5 mm,同県若桜町では435.0 mmを記録した.これらはいずれも7月の観測史上最大値を示した.鳥取県東部を流れる千代川(流域面積:1,190 km2,流路長:52km)では,河川護岸の崩壊が多発し,河原(砂礫堆)の形成が顕著に認められた.千代川では2017年7月,9月にも台風により2004年以来の大規模出水が生じていた.本研究の目的は,これらの大規模出水の繰り返しにより千代川で生じた土砂移動の実態を全川にわたり記載することである.そして,護岸崩壊の要因を明らかにすることである.

調査方法

石川においては,出水時の砂礫の移動に伴い砂礫堆と呼ばれる河床形がしばしば形成される.千代川で生じた大規模出水の前後における砂礫堆の変化を調べるために,比較的雲の少ない2016年3月,2018年2月,2018年11月のAirbus衛星写真を購入した.さらにより鮮明に写ったgoogle earthの画像(2018.06.02)を参考にしながら,Airbus衛星写真の解析を進め,堤外地で植生に覆われた部分,砂礫に覆われた部分,岩盤が露出した部分を判読し,砂礫堆の前縁部の傾斜急変線を描き,半波長の長さを計測した.砂礫堆前縁部に関しては,明瞭度に応じて実線と破線で区分した.

2018年8~11月に実施した現地調査では千代川本川にそって,護岸崩壊の位置をマッピングし,砂礫堆が明瞭な箇所では,レーザー距離計(Laser Technology社製,TruPulse360)を用いて,砂礫堆の最高点と水面との比高を計測した.

結果および考察

調査の結果,最上流部の未調査区間(流下距離:0-6.6 km)の除いて,千代川は3つの区間に分かれることが明らかになった.1つ目は,上流区間(流下距離6.6-11.8 km)で,河床砂礫が流亡し岩盤が広く河床に露出した河相が卓越した区間である.衛星写真は2018年6月に撮影された衛星写真では智頭町中原周辺の河道内には砂礫からなる河原が読み取れた.しかし,7月出水後の現地観察では,砂礫が流亡し岩盤が広く露出していた.この上流区間では11箇所の護岸崩壊を確認し,河床低下に伴い護岸の基礎部が宙に浮き上がった箇所もいくつか観察した.護岸はこのように支持を失い崩壊したと考えられる.

2つ目は流下距離11.8-31.0 kmの区間で,砂礫が河床を広く被覆して,砂礫堆が明瞭になった区間である.大規模な出水を重ねるに従って,それまで人為的に平滑化されていた河床に交互砂礫堆が発達し,それらの前縁部が明瞭になった.3つ目は流下距離31.0-48.4 kmの区間で,植生で覆われた高水敷きや河原と,低水路内の砂礫堆の混在区間である.出水を重ねるに従って,低水路内の砂礫堆の連続性が良くなったことが分かった.

砂礫堆の半波長と比高の関係を調べた.下流区間では半波長が2,000 mに達するような波長の長い砂礫堆が観察されたのに対して,中流区間では半波長が500 m以下の砂礫堆がほとんどであった.これらのうち護岸の崩壊と関連した砂礫堆は,いずれも半波長400 m以下で,比高が2m程の起伏の大きい砂礫堆であっった.つまり水流の河岸への集中が激しくなり,局所洗掘が進み,護岸倒壊に至ったものと考えられる.

おわりに

千代川で2017年以降起きた大規模出水による砂礫の移動実態を衛星写真の比較と現地観察で明らかにした.上流部では砂礫が流亡し岩盤床が,下流部では砂礫堆が明瞭に発達する様子を捉えた.護岸の倒壊要因に関しては,砂礫の流亡による護岸支持基盤の喪失に伴う倒壊と,波長が短く比高の大きい砂礫堆による局所洗掘に伴う倒壊が明らかになった.