[HQR05-P17] 広域テフラ対比に基づく日本列島の前期更新世~鮮新世火山噴火史-その2:南九州の火砕流堆積物の編年
キーワード:広域テフラ、鮮新-更新世、噴火史、南九州、火砕流堆積物、編年
はじめに
日本列島における巨大噴火の発生頻度や規模の推定は,地層の長期的な安定性評価において重要な課題の一つである.後期更新世の巨大噴火復元は,火山近傍の火砕流堆積物と遠方に分布する広域テフラとの対比・編年により検討されてきた(30kaの入戸火砕流堆積物とAT火山灰との対比:町田・新井,1974等).しかしながら,時代を遡ると噴出源の特定ができず,噴火の規模や時期の評価は困難な状況である.
前期更新世~後期鮮新世におけるテフロクロノロジーの進展と課題
テフロクロノロジーにおいて,1990年代から,従来の鉱物組成,岩相や層位データに加えて,火山ガラスの主成分・微量成分化学組成分析に基づくテフラの同定・対比が行われるようになった(吉川,1990など).その結果,およそ5Ma~1Maにわたる中央日本の鮮新-更新統を中心とした広域テフラ編年が進んだ(水野,2000,Tamura and Yamazaki, 2004, Satoguchi and Nagahashi, 2012など).水野(2001)は大規模火砕流堆積物の火山ガラス微量成分特性から,広域テフラの噴出源を中部山岳,九州,東北地域とある程度限定できることを示した.田村・山崎(2015)では,多くの研究者によって報告されたテフラ情報に独自のデータを加え,5Ma~1Maの36枚の広域テフラについて,テフラの岩石学的特徴と推定される噴火規模,噴出源,噴出年代を推定した.およその噴出年代は,東北起源が2Ma~1Ma,中部山岳起源が3Ma~1.5Maに集中していた.一方,前期更新世~後期鮮新世における北海道,九州起源の広域テフラに関しては,この地域の火砕流堆積物の情報が不足しており,これらの研究が課題となっていた.これを踏まえ,南九州に分布する火砕流堆積物について,更なる調査,研究を行い,中央日本に分布する九州起源と推定される広域テフラとの対比を検討した.
南九州の火砕流堆積物と九州起源の鮮新-更新世広域テフラ
南九州において,特に更新世後期は火山活動が激しく,大量の火砕流が噴出された.その結果,それ以前の噴出物が覆い隠され,前期更新世以前の火砕流堆積物の露出は断片的で,南九州の火砕流の対比や編年を困難にしている(宮地,1987).水野ほか(2017)では,南九州の大規模火砕流堆積物と中央日本で対比が検討されている九州起源の特徴を示す広域テフラとの対比を層位,記載岩石学的特徴,火山ガラスの化学分析値等から検討した.その結果,薩摩川内地域に分布する川内火砕流堆積物(Snd:太田,1971)と広域テフラである土生滝Ⅰ-MT2テフラ(以下HbtⅠと記述:2.9Ma:富田・黒川,1999,Tamura et al., 2016),Sndの下位に位置する阿久根1火砕流堆積物(Akn1:宮地,1987:宮崎層群のHST-4火山灰との対比(鳥居・尾田,2001)から3.3Ma)と近畿・東海地域の土丸Ⅱ(吉川,1975),美鹿Ⅰ(吉川ほか,1988),天神池L2(吉川・尾崎,1986)の各テフラ,Akn1より上位にある阿久根2火砕流堆積物(Akn2:宮地,1987)がHbtⅠより上位にある古琵琶湖層群の善福寺Ⅰ(吉川,1984),千葉県千倉層群のOkr7(2.7Ma:Tamura et al., 2016)テフラやHbtⅠより下位にある類似したテフラに,それぞれ対比される可能性を報告した.南九州において,大規模な火山噴火は3Ma前後に顕著であったといえる.今回,鹿児島県八重山地域の郡山層湯屋泥岩部層中の火砕流堆積物の新たな調査・記載を行い,2層準の火砕流堆積物(テフラ)について,九州起源と推定される広域テフラとの対比の可能性を検討した.
一つは宮脇火砕流堆積物(Myk:内村ほか,2007)で,模式地(郡山町花尾山山麓)では,下限が見えず上部の5mが露出している.全体的に白色細粒で,パミスは目立たない.重鉱物は角閃石に富み,斜方輝石,少量の黒雲母,単斜輝石が含まれる.模式地のMykは2.88±0.16Ma, 2.71±0.16MaというK-Ar年代が得られている(内村ほか,2007).もう一方は,Mykより上位と判断される未記載のテフラ(分布地:川内市清浦ダム北方の山之口,Ymnと仮称)で,下限は不明だが,上部は泥層に覆われ.層厚10㎝が露出する.白色細粒で,発泡のよいbw型の火山ガラスが目立ち,重鉱物は角閃石,斜方輝石を含む.火山ガラスの化学組成は,MykはTiO2が0.2%,CaOが0.9%,K2Oが4.3%,YmnはTiO2が0.3%,CaOが1.6%,K2Oが3.4%であった.
Mykの年代や火山ガラスの化学組成が類似するテフラとして,古琵琶湖層群でHbtⅠに対比されている相模Ⅰ火山灰から15m上位にある砂坂火山灰(Sns:横山ほか,1979)および東海層群でHbtⅠに対比されている長明寺Ⅱ火山灰の約25m上位にある森火山灰(Mor:和田,1978)がある.しかしながら重鉱物組成で,Mykに含まれる黒雲母がSns,Morには含まれず,対比に課題が残る.また,Ymnに類似するテフラとして,朝代‐友田2テフラ(Ass:2.6Ma:Tamura et al., 2008)がある.Assは,大阪層群や古琵琶湖層群,北陸層群など中央日本各地でHbtⅠの上位にある広域テフラで,Ymnと火山ガラスの化学組成,重鉱物組成が良く似る.今後,更なる調査が望まれる.本研究は藤原ナチュラルヒストリー振興財団の研究助成を受けた.
日本列島における巨大噴火の発生頻度や規模の推定は,地層の長期的な安定性評価において重要な課題の一つである.後期更新世の巨大噴火復元は,火山近傍の火砕流堆積物と遠方に分布する広域テフラとの対比・編年により検討されてきた(30kaの入戸火砕流堆積物とAT火山灰との対比:町田・新井,1974等).しかしながら,時代を遡ると噴出源の特定ができず,噴火の規模や時期の評価は困難な状況である.
前期更新世~後期鮮新世におけるテフロクロノロジーの進展と課題
テフロクロノロジーにおいて,1990年代から,従来の鉱物組成,岩相や層位データに加えて,火山ガラスの主成分・微量成分化学組成分析に基づくテフラの同定・対比が行われるようになった(吉川,1990など).その結果,およそ5Ma~1Maにわたる中央日本の鮮新-更新統を中心とした広域テフラ編年が進んだ(水野,2000,Tamura and Yamazaki, 2004, Satoguchi and Nagahashi, 2012など).水野(2001)は大規模火砕流堆積物の火山ガラス微量成分特性から,広域テフラの噴出源を中部山岳,九州,東北地域とある程度限定できることを示した.田村・山崎(2015)では,多くの研究者によって報告されたテフラ情報に独自のデータを加え,5Ma~1Maの36枚の広域テフラについて,テフラの岩石学的特徴と推定される噴火規模,噴出源,噴出年代を推定した.およその噴出年代は,東北起源が2Ma~1Ma,中部山岳起源が3Ma~1.5Maに集中していた.一方,前期更新世~後期鮮新世における北海道,九州起源の広域テフラに関しては,この地域の火砕流堆積物の情報が不足しており,これらの研究が課題となっていた.これを踏まえ,南九州に分布する火砕流堆積物について,更なる調査,研究を行い,中央日本に分布する九州起源と推定される広域テフラとの対比を検討した.
南九州の火砕流堆積物と九州起源の鮮新-更新世広域テフラ
南九州において,特に更新世後期は火山活動が激しく,大量の火砕流が噴出された.その結果,それ以前の噴出物が覆い隠され,前期更新世以前の火砕流堆積物の露出は断片的で,南九州の火砕流の対比や編年を困難にしている(宮地,1987).水野ほか(2017)では,南九州の大規模火砕流堆積物と中央日本で対比が検討されている九州起源の特徴を示す広域テフラとの対比を層位,記載岩石学的特徴,火山ガラスの化学分析値等から検討した.その結果,薩摩川内地域に分布する川内火砕流堆積物(Snd:太田,1971)と広域テフラである土生滝Ⅰ-MT2テフラ(以下HbtⅠと記述:2.9Ma:富田・黒川,1999,Tamura et al., 2016),Sndの下位に位置する阿久根1火砕流堆積物(Akn1:宮地,1987:宮崎層群のHST-4火山灰との対比(鳥居・尾田,2001)から3.3Ma)と近畿・東海地域の土丸Ⅱ(吉川,1975),美鹿Ⅰ(吉川ほか,1988),天神池L2(吉川・尾崎,1986)の各テフラ,Akn1より上位にある阿久根2火砕流堆積物(Akn2:宮地,1987)がHbtⅠより上位にある古琵琶湖層群の善福寺Ⅰ(吉川,1984),千葉県千倉層群のOkr7(2.7Ma:Tamura et al., 2016)テフラやHbtⅠより下位にある類似したテフラに,それぞれ対比される可能性を報告した.南九州において,大規模な火山噴火は3Ma前後に顕著であったといえる.今回,鹿児島県八重山地域の郡山層湯屋泥岩部層中の火砕流堆積物の新たな調査・記載を行い,2層準の火砕流堆積物(テフラ)について,九州起源と推定される広域テフラとの対比の可能性を検討した.
一つは宮脇火砕流堆積物(Myk:内村ほか,2007)で,模式地(郡山町花尾山山麓)では,下限が見えず上部の5mが露出している.全体的に白色細粒で,パミスは目立たない.重鉱物は角閃石に富み,斜方輝石,少量の黒雲母,単斜輝石が含まれる.模式地のMykは2.88±0.16Ma, 2.71±0.16MaというK-Ar年代が得られている(内村ほか,2007).もう一方は,Mykより上位と判断される未記載のテフラ(分布地:川内市清浦ダム北方の山之口,Ymnと仮称)で,下限は不明だが,上部は泥層に覆われ.層厚10㎝が露出する.白色細粒で,発泡のよいbw型の火山ガラスが目立ち,重鉱物は角閃石,斜方輝石を含む.火山ガラスの化学組成は,MykはTiO2が0.2%,CaOが0.9%,K2Oが4.3%,YmnはTiO2が0.3%,CaOが1.6%,K2Oが3.4%であった.
Mykの年代や火山ガラスの化学組成が類似するテフラとして,古琵琶湖層群でHbtⅠに対比されている相模Ⅰ火山灰から15m上位にある砂坂火山灰(Sns:横山ほか,1979)および東海層群でHbtⅠに対比されている長明寺Ⅱ火山灰の約25m上位にある森火山灰(Mor:和田,1978)がある.しかしながら重鉱物組成で,Mykに含まれる黒雲母がSns,Morには含まれず,対比に課題が残る.また,Ymnに類似するテフラとして,朝代‐友田2テフラ(Ass:2.6Ma:Tamura et al., 2008)がある.Assは,大阪層群や古琵琶湖層群,北陸層群など中央日本各地でHbtⅠの上位にある広域テフラで,Ymnと火山ガラスの化学組成,重鉱物組成が良く似る.今後,更なる調査が望まれる.本研究は藤原ナチュラルヒストリー振興財団の研究助成を受けた.