日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC07] 地球温暖化防止と地学(CO2地中貯留・有効利用、地球工学)

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 301B (3F)

コンビーナ:徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、愛知 正温(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、座長:徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

09:30 〜 09:45

[HSC07-03] 光ファイバーセンシング技術およびひずみゲージを用いた泥岩中の化学的浸透による岩石の変形の定量化と計測された歪挙動の比較

*廣田 翔伍1徳永 朋祥1薛 自求2朴 赫2 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻、2.公益財団法人地球環境産業事業研究機構)

キーワード:化学的浸透、光ファイバーセンシング技術、粘土質層、多孔質弾性体理論

地圏環境は物質移動の速度が地表に比べて非常に遅く,安定した環境であることが知られており,そのような特性は高レベル放射性廃棄物の地層処分や二酸化炭素回収貯留(CCS)といった人間社会から特定の物質を長期間隔離するような事業において有用である.そのような目的において,透水係数や拡散係数が比較的小さい粘土質の地層が遮蔽層として重要な役割を持つと考えられている.

 粘土質の岩石について,半透膜的に振る舞うことがあることが知られている.半透膜的挙動を示す岩石中では化学的浸透現象,すなわち半透膜の両側に濃度差のある溶液が存在するとき浸透圧差によって低濃度側から高濃度側に向かって水の流れが発生するという現象が生じうる(Marine and Fritz, 1981).化学的浸透に起因する圧力変化は最大で20MPaにもなることが既往研究によって示されている(Neuzil, 2000).また,化学的浸透に起因する圧力変化に伴って岩石の変形が生じる(Greenberg et al., 1973: Noy et al., 2004)が,化学的浸透による岩石試料の歪を多点的に計測することは困難であるため,その詳細まで議論なされていないのが現状である.

一般に室内実験における岩石の変形の計測には電気抵抗の変化を利用したひずみゲージが用いられることが多い.一方で,化学的浸透についての室内実験は計測に要する期間が非常に長くなり,そのような実験条件下では電気式ひずみゲージは絶縁破壊や発熱などによるひずみゲージのドリフトによって計測の正確さに問題が生じうる.一方で分布式光ファイバーセンシング(DOFS)を用いることでこの問題を回避することが可能と考えられる.DOFSでは,光ファイバーを通過する光に起因する散乱光の性質を利用して光ファイバーに沿った方向の歪の計測を行うことができる.また,DOFSは光ファイバーそれ自体をセンサーとして利用しているため,光ファイバーに沿って多点的な歪の計測が可能となっている.

今回の実験では,化学的浸透についての室内実験を行い,そのときに岩石試料に生じた歪を光ファイバー・ひずみゲージの両方で計測を行い,結果の比較を行うことで化学的浸透実験における歪計測についてのDOFSおよび電気式ひずみゲージの適用可能性について検討すること,化学的浸透による歪の時間的挙動・空間的分布について議論を行うことを目的としている.実験には北海道稚内地域の新第三期の地層から採取された稚内層珪質泥岩および埼玉県秩父地域の新第三紀の地層で採取された小鹿野町層泥岩から作成した直径50㎜,高さ30㎜程度のコア試料を用いた.また,ひずみゲージはコア側面の上面・底面付近に貼られており,軸方向・周方向の歪を計測している.光ファイバーは試料に対しらせん状に接着されており,光ファイバー方向の歪を計測している.泥岩試料上面および側面にはシリコンを塗ることでそれらの面を溶液が通過しないようにした.間隙水よりも10g/L程度高濃度の塩水と岩石試料を接させることで,泥岩内部に1次元的な化学的浸透流れを引き起こした.実験は240時間継続して行い,室温を空調で制御したうえで断熱材の箱の内部に実験装置を設置することで温度をほぼ一定とした.

実験結果より,実験初期において電気式ひずみゲージによる計測と光ファイバーセンシングの結果に整合性が見られた.ただし,実験開始直後の試料下部での化学的浸透流に伴う泥岩上部の膨張といった多孔質弾性体に特徴的な歪挙動は光ファイバーセンシングでは観察できなかった.これはDOFSのサンプリング時間がひずみゲージでのサンプリング時間に比べて長いことに起因していると考えられる.また,実験開始からある程度時間が経過すると,ひずみゲージでの計測結果では歪が減少傾向から増加傾向に転じていたのに対し,DOFSの結果では歪は減少傾向のままという状態が見られた.これは,ひずみゲージの計測の不安定性に起因していると考えられる.